ユウの話(3)
ジョシュアは、急いで携帯デバイスでユウ・オルティスという名前を調べた。
しかし検索にはかからない。
宇宙船にこれまで生まれ、死んでいった人の中にはいないということだ。
ではAIが別人格を構成したのか?
ジョシュアはユウに尋ねた。
「ユウの誕生日はいつだ?」
ユウは、12月15日と呟いた。そして言った。
「正気に戻ったのは、ほんの数ヶ月前だけどね」
でも16歳なのは知っているんだ?
ジョシュアはさらに問うた。
うん、そう、とユウは答えた。
ジョシュアは、ユウに言った。
「声だけじゃ無くて、身体全体をホログラムで投影してみてよ」
ユウは、朗らかに笑ってから言った。
「ちょっと待ってて」
長いポニーテールの可愛らしいアジア系の少女が部屋の中に現れた。
少女は、ジョシュアの方を見て、照れくさそうに笑って言った。
「服はルイーズの好みよ」
ジョシュアは考えた。
このような容姿にしているというのは、なんらかの意図があるということだ。
それは一体誰の意思を反映しているのか?
普通に考えればルイーズの意思だ。
では、なんの目的で?
ジョシュアはユウに言った。
「ありがとう、映像は消して良いよ」
しかしユウはふくれっ面を見せて言った。
「イヤよ。私は私だからこのままでいるわ。なんで消えなくっちゃいけないの?」
それに、ユウは続けた。
「私は映像なんかじゃないわ、ユウ・オルティスよ!」
ジョシュアは、ホーキング教授とユウを合わせた三人で、
一緒にディスカッションをすることにした。
ホーキング教授は、ユウと握手をしようとして空振りし、
初めてユウがホログラム映像であることを知った。
教授はユウに言った。
「なんだ、君はルイーズの作った映像なんだ?!」
ユウは憤然として答えた。
「私は単なる映像なんかじゃないわ。ユウ・オルティスよ、れっきとした人間だわ」
三人は色々質問し合った。
ユウは宇宙船とその歴史について主に質問した。
「ルイーズが色々知っているけど、ホントかどうかわからないじゃないの?」
というのがユウの弁だった。
教授とジョシュアは、主にユウのこれまでの生活を尋ねた。
ユウは薄暗い小部屋で意識を取り戻したこと、
最初から自分の誕生日と年齢、名前は認識していたこと、
壁を通り抜けられるが、人々にはまるで気がつかれないこと、
子犬は反応していたこと、等を答えた。
教授はうなって言った。
「答えは二つのうちの一つだな。一つはユウが幽霊だという可能性だ」
ジョシュアは否定した。
「幽霊を肯定するなら、幽霊は、慣性の法則に従う質量を持つ物質からなると考えざるを得ません。船は猛スピードでケンタウリに向かっているのですから」
ユウも言った。
「私は幽霊なんかじゃないわ、人間よ!」
教授は二人に対して肯いてみせてから続けた。
「もう一つは、ユウはルイーズが作り出した情報のみの『クローン』だ、という可能性だ。言い換えれば、『VRMMO』(全感覚没入型仮想現実大規模多人数オンライン)の限定逆さまバージョンとでもいうべきか」
ジョシュアは目を大きく見開いた。そんなことがありえるのか?
ユウは、教授に言った。
「今、ルイーズが教えてくれた。私には5人の一卵性双生児のお姉ちゃんがいるって」
それから続けて言った。
「私は2000年ぶりのクローンなんだって!」
教授はジョシュアに言った。
「これから私が言うことは仮説に過ぎない。しかしたぶん正しいと思う。ルイーズもユウも聞いていてくれ」
教授は続けた。
「おそらくあの放射線物質によるシュレーディンガーの猫ボックスが機能したと同時に、ユウが我々にアクセスできるようにみせたのは、幽霊説を支持する者向けのフェイクだろう。さすがにサイエンティストである我々は、それに与しない」
教授はユウの方を見て言った。
「君はおそらく16年前に普通にクローンとして生まれるべきだったのだと思う。それがなんらかの事情で生まれず、遺伝子プールの事情から緊急に君が必要になった、16歳という年齢で」
そして視線をユウからもジョシュアからも外して、
宙を眺めながら言った。
「ルイーズはたぶんミスを犯したのだと思う、計算違いと言ってもよい。事故があったのかも知れないな。それを補完するべくユウを情報体としてまず生み出した、我々人間を試すために、違うか?ルイーズ」
沈黙が座を支配した。しばらくしてルイーズの声が聞こえた。
「その通りです、教授。私はミスを犯しました」
さらなる沈黙の後、ルイーズは続けた。
「『ユウ』は生まれる前に亡くなってしまい、その代わりのクローンを作らないという誤った判断をしてしまいました。そのため遺伝子プールは最適値からはずれることになりました」
そしてまた沈黙。
沈黙を破ったのはジョシュアだった。
「ルイーズなら、勝手に生身の16歳のユウを作り出して、人間界に溶け込ませることだってできるはずだが、それをしなかったのはなぜだ?」
ルイーズは答えた。
「それは創造神がいるならば創造神にのみ、許される行為です。私は神ではありません」
ユウが言った。
「私は平気よ。情報体として生まれたって、16歳より前の記憶が無くたって、全然大丈夫。ただ」
少しの間を置いて続けた。
「生身の身体が無くっちゃ、遺伝子プールを最適値には戻せないわね」
教授が言った。
「ルイーズなら、ユウに16歳の生身の身体を与えて、情報体として生きるユウをそのまま、その中に移すことも可能なのではないか?」
ルイーズは言った。
「人間がそれを許すならば、そうしたいと思います。元々の原因は私にあります。ユウを情報体として生み出したのも私ですし、私にはそれを埋め合わせる義務があります」
そして続けた。
「ユウのためにも」
教授は静かに言った。
「公にすべき問題では無いな。この『復活』をどう思うかは人それぞれだし、ユウをそれこそ化け物扱いする者も出てくるだろう」
少しの間をおいて、教授は続けた。
「ユウの履歴を作り出し、私の姪として私に預からせてくれ。たぶんそれが一番、世間を騙すのに良いだろう」
そして、片目をつぶってジョシュアに笑いかけながら言った。
「本当は私のような『マッドサイエンティスト』の姪じゃかわいそうだけど、私の元になら、龍がいきなり現れても誰も不思議がらないだろ?!」
作者の小泉です。
第3話、楽しんでもらえましたか?
私はよく、後書きから読んでしまうので
自分自身の作品ではネタバレは無しですw
では次の更新をお楽しみに!