表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

ユウの話(2)

悠が意識を取り戻してから、一ヶ月ほどが経過しました。

色々なことを見たり聞いたりしましたが、

自分からなにか起こすことができません。

せいぜい子犬にちょっかいを出せるくらいです。


なにかしてみたいな。


その日、広場には一人の赤ん坊を連れた若い女性が遊びに来ていました。

赤ん坊はピンク色の服を着て、ご機嫌な様子でした。


悠は、赤ん坊の中に入り込んでみようと、思いつきました。

すうっと近づき、身体を重ねてみる。


悠の視界がぼやけました。

見えているようで、見えてない。


どうしたんだろう?


色々試しているうちに、分かってきました。


赤ん坊がよく知っていそうなもの、

母親やベビーカーはよく見えます。

でも広場の木々や周囲の人々は、見えているだけで、「認識」しにくいのです。


視界に入ったものが、なにであるか赤ん坊が認識できないと、よく見えないのです。


なるほど、脳味噌に知識がないと「見えない」のだな。


次に悠は、指を動かしてみようと試みました。

上手くいきません。

ぎこちなくグーパーを繰り返すのが精一杯です。

動かす神経が未熟なのでしょう。


今度は声を出してみます。


あー!


母親は赤ん坊の顔をのぞき込んで、あら、ご機嫌ねと、ニコニコ笑いかけました。


しかしまとまった言葉を喋ってみようとしても、うまくいきません。

やはり舌などを動かす神経と脳が未発達なのでしょう。


あうあう、という音が出るだけです。


今度は、母親に重なってコントロールしようとしました。

しかしハッキリとした自我を持つ大人を制御することは、困難でした。

いろいろ試して出来たのは、

あくびを起こさせることくらいでした。


悠は、親子から離れて木陰で休むことにしました。

結構疲れるな。精神的疲労というか。


人間に「憑依」してなにか外界に、

影響を与えるというのはなかなか難しい、

と悠は思いました。


いろいろ知覚があって、身体を自在に動かせて、

しかも自我のないものってないかしら?


もしかしたら機械でもいいのかな。

プログラムされきっていない自由度のある機械。

それに憑依できたら、あるいは。


悠は、そういうものを探してみることにしました。


なにしろ悠は、どこにでも入り込めます。


こういうときに便利よね、と悠は思いました。


悠は、いつだったか入り込んだ大学の施設に、

もう一度行ってみることにしました。


色々な機械があったからです。


あそこには、なにかあるかも。


悠は、施設内のあちこちの部屋に入り込んでみました。

なんの実験をしているのか、さっぱりわからないところがほとんどでした。


ある部屋に入り込んだときに、悠は貼り紙が貼ってある箱を見つけました。

その貼り紙には、こう書かれていました。


「誰かサイコロを振ってください!」


どういう意味だろう?


悠はしばらく貼り紙の前に立っていました。

そして思い切って箱に身体を重ねてみました。


箱の中身では、放射性元素がランダムな時間間隔で、

ランダムな方向に放射線を出していました。


単位時間の間に、放射線が右側のセンサーに一定数以上多く当たると、

右側の赤いパイロットランプが光りました。


単位時間の間に、放射線が左側のセンサーに一定数以上多く当たると、

左側の青いパイロットランプが光りました。


悠は、右が光ったらなあ、となんとはなしに思いました。

すると右側の赤いパイロットランプが光りました。


お?ホント?

偶然かな??


悠は、今度は、左よ、光れと念じました。

すると左側の青いパイロットランプが光りました。


おお、コントロールできている?!


悠は、面白がって右、左、右、左と、

規則正しくパイロットランプを光らせてみました。

その次は右右右、左左左、右右右、と連続点滅させてみました。


おお、完璧!


今度は周期も変えてみました。


右短く3回点滅、左長く3回点滅、そして右短く3回点滅。


突然、部屋中に大声が響くのを悠は聞きました。


「なんだこれは?」


びっくりして、悠は箱から離れました。


部屋の中では、若い男性が呆然と立ち尽くしていました。



ジョシュアは、ソファでコーヒーを飲んでいた。

実験のセッティングが終わり一休みだ。


ぼんやりと、ランダムにランプが点滅する隣の装置を何気なく眺めながら、

実験計画をぼんやりと考えていた。


おや?


隣の装置のパイロットランプが、周期的に点滅しているぞ。


右、左、右、左。


なにかのアラームかな?

ジョシュアは、コーヒーカップを脇の机に置いて立ち上がった。


右右右、左左左、右右右。


これは、あの箱だ。ジョシュアがジョークで貼り付けた


「誰かサイコロを振ってください!」


という貼り紙が、そのままになっている。


しばらく間を置いて今度は、

右短く3回点滅、左長く3回点滅、そして右短く3回点滅。


太古の昔から知られている救難信号、モールス信号で「SOS」。

偶然なんかじゃない。


ジョシュアは思わず叫んだ、


「なんだこれは?!」


パイロットランプの点滅がランダムに戻った。


ジョシュアはまず、悪戯を疑った。


大学院生のサミーが怪しい。

箱の周囲を検分する。特に変わった様子は無い。

INPUTの配線が増えた様子も無い。


そもそもが単純な仕組みだ。

では偶然か?いや、そんなことが起こる確率は恐ろしく低い。


箱に繋がったAIの悪戯か?


ジョシュアは急いでAIの入出力ラインをすべてONにして、AI自身に聞いた。


「ルイーズ、今、ランプで悪戯をしたか?SOSってモールス信号を点滅させたか??」


AIルイーズは明確に、否定した。

AIはウソを着かない。

もしAIがウソを着くようになったら大進歩だ。

まあ政治とかでは、先のことを考えて、

人間をだますようなことは言うかも知れないが。


ジョシュアは、急いでAIの判断回路を、

すべて例の箱経由にするように切り替えた。

前回は、これでもなにも変わらなかったが?


1時間ほど色々テストをしてみたが、AIは普通の応答を行うだけだった。


あれは偶然だったのか、それとも俺の錯覚だったのか。


ジョシュアはがっかりして、ソファに腰を下ろして溜め息をつき、

すっかり冷たくなったコーヒーを一口飲んでから、

AIに愚痴を言った。


「ルイーズ、なんか元気の出る話は無いか?」


AIは言った。


「私はルイーズって名前じゃないわ。私はユウって言うのよ」


ジョシュアはコーヒーカップを取り落とした。

ズボンの太ももの部分がコーヒーだらけになったが、

ジョシュアは気にしなかった。


ジョシュアはAIに尋ねた。


「ユウ、こっちが見えるか?」


AIは笑い声混じりに答えた。


「普通に見えますよ」


ジョシュアは考えた。

ルイーズが冗談を言っているのではないか?

AIはそのくらいのことはできる。

どう確かめたら良いのだろう?


ジョシュアは聞いた。


「ユウ、今どうやってAIをコントロールしているんだ?」


AIは答えた。


「ええと、箱に入り込んでから、AIと一体になって、右側のランプを光らせたり左側のランプを光らせたりしてAIのクセをつかんでから、声の出し方を学んだの」


それからユウは続けた。


「ルイーズは、今は私の道具よ、私が制御している。カメラを通じてあなたを見たり、マイクを通じてあなたの生声を聞いたりできる。こんなことは久しぶりだわ」


ジョシュアは、ユウに尋ねた。


「フルネームはなんて言うの?年齢はいくつ?」


ユウは答えた。


「ユウ・オルティス。16歳だけど、女性に年齢を聞くのはエチケット違反よ!」

ユウの話 第2話 です。楽しんでもらえているでしょうか?

さて、続きが気になりますよねw

と無理強いしたところで本稿はおしまいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ