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水霜の精霊使い  作者: 黒本悠希
THUISKOMOST
9/9

Zevende 「御伽噺」

「あ、そういえば私が聞いた精霊の御伽噺はアニカの母親が話してくれたもので」


ぴたりとエレンの言葉が止まった。


じっとアニカを見つめている。

何かを頭の中でぐるぐると思考しているのがわかった。


「街で売っている本には精霊がメインの物語なんて存在してない。大概の物語は精霊なんて出てこないし、出てきたとしても一瞬だけです」


「そうなんですか? 私は本屋さんにはあまり行かないもので」


エレンの険しい顔に、アニカが困惑した表情を見せる。


「どうしたの?」


「アニカの母親が精霊について知っているのなら、殿下のことも、ヴィレミーナ様(第四話「地に舞い降りたるわ」参照)のことも、何か知っていらっしゃるのかもしれないと思いまして」


「へぇ? 王国の民で私たちについて知っている人なんて滅多にいないのに。ねぇ、そのお話の内容はどういうものなの?」


精霊の御伽噺に興味をそそられ、二人の語る物語に耳を傾けた。
















昔々、あるところに深い森の中に大きな美しい泉がありました。


その泉の傍には、若く麗しい少女が住んでおりました。


少女は母と二人で暮らしていたのですが、数年前に母親が病死してしまい、それ以降は一人で暮らしておりました。


少女は毎日泉で魚を捕り、骨を泉の傍に埋め、日々その命と美しい泉に感謝を捧げていました。


ある時、その少女が足を怪我して、汚れを取ろうと泉に足を浸けました。


すると、みるみるうちに血が止まり、傷がふさがっていくのです。


少女はきっと泉の精霊が傷を癒してくれたのだと思い、少女の母親の形見である首飾りを泉の傍に置いておきました。


次の日、少女が見に行くとそこには泉と同じ髪の色をした、それはそれは美しい女性が座っていたのです。


少女は彼女が泉の精霊であると確信して、声をかけました。


すると、精霊はこちらを振り返り、にっこりと笑って持っていた籠を差し出してきました。


その中にはきらきらと輝く魚が入っていました。


少女は精霊に、「これを私に下さるのですか?」と、訊きました。


精霊は黙って首を傾げました。


少女は精霊が人とあまり関わったことがないので、人の言葉が分からないのだと察しました。


少女は精霊の言葉に興味を持ち、また、この美しい精霊と共に過ごしたいと思ったので、家を—――少女の家は畳んだりまた広げたりすることができましたので—――泉の傍に移動させました。


その日は精霊と一緒に精霊の持ってきたきらきらと輝く魚を食べ、寝るときは麻でできた布を家の外へ持っていき、精霊と共に夜を過ごしました。



やがて月日が経ち、少女は精霊の言葉が分かるようになり、また精霊は少女の言葉が分かるようになりました。


それから、少女はもう女性というべき年齢になり、街に出たりするようにもなりました。


しかし、精霊は年を取りませんので、美しい姿のままでした。


少女はきらきらと輝く黄金色の髪を持ち、透き通るような白い肌をしていました。


ある時、少女が街に出かけたとき、暴漢に襲われそうになりましたが、ある男性が少女を助けました。


少女はその男性に感謝し、家へ招待しましたが、実は暴漢に少女を襲わせたのはその男性でした。


精霊は男性がどうも怪しいと感じ、男性に姿を見せませんでした。


少女はそのことに気が付きませんでしたので、男性と段々親密になっていきました。


ところで、少女と精霊は互いに女性でしたが、長い間一緒にいたのでお互いに愛し合うようになっていました。


そういうことですから、精霊は男性に嫉妬して、少女の美しい黄金色の髪を魔法で精霊と同じ泉の色にしました。


泉の色をした髪を持つ人は存在していませんでしたので、男性は少女を化け物だと思い、罵って姿を消してしましました。


少女は男性に惹かれていましたので、そのことに深く傷つき、また、精霊の仕業に酷く怒り、精霊を罵る言葉を吐き出しました。


精霊はそれを聞いて、泡になって消えてしました。


それをみた少女は慌てて謝罪しましたが、既に遅く、精霊は戻ってくることはありませんでした。


それから一体どういうことなのか、その森も、少女の行っていた街も洪水によって、消えてなくなりました。



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