Haar verhaal 「地に舞い降りたるは」
日記調です。
ここはお手柔らかにお願い申し上げます。
いつもより少し長めかもしれません。
私、アニカはその光景を見て思ったのです。
彼女は、否、彼女達はこの地に舞い降りた女神なのだろうと。
私の住むフェナーク王国には二人の王子と一人の王女がおります。
第一王子のシェルト王子殿下と第二王子のオリフィエル王子殿下。
そして、生まれて以来隠されてきた第一王女、マルリース王女殿下。
シェルト王子殿下は齢十五になり、来年には王太子になると言われていました。
殿下は王妃である母君に似た、ストロベリーブロンドを持ち、賢王と呼ばれる父君と同じ、灰色がかった緑の瞳を持ちます。
殿下はとても優秀な上、母親思いで、母君の誕生日には国を挙げてお祝いをしたりなさったこともありました。
一方で齢十のオリフィエル王子殿下は御身が弱く、ドルンレイ宮殿からは外出されたことがありません。
そして、マルリース王女殿下は生まれてから一度も姿を見せておられません。
マルリース王女殿下は放浪の民、または神使の民であるヒルウィドの民を母に持ちます。
ヴィレミーナ様は癒しの奇跡を持つゼジェルグ族でありましたが、コルネリウス国王陛下を愛し、無理矢理結婚しました。
陛下は王妃様を大変愛していらっしゃいましたので、ヴェレミーナ様は身を引き、殿下を産まれた後にセットファー宮殿に移り住みました。
以来、宮殿を出ることはなく、侍女や従者も寄せ付けませんでしたので、マルリース様の御姿を見かけた人は存在しません。
以上が公になっている事柄なのですが……。
まぁ、詳しい話は後程、別の機会で。
一つ言いますなら、私は母よりヴェレミーナ様は謙虚な、それは素晴らしい女性であったと聞いております。
この度、ヴェレミーナ様が寿命を迎え、お亡くなりになられました。
王妃様は母を亡くされたマルリース王女殿下を哀れに思い、養女として引き取ることにしたのです。
そうして、私はマルリース様を王宮にお迎えする一団に選ばれました
セットファー宮殿に着き、殿下が出てくるのを今か今かと、皆、そわそわと落ち着きなく過ごしておりました。
何せ、十四年間謎に包まれた王女様ですから。
絶世の美少女だとか、顔に痣があるんだとか、沢山の噂が流れておりました。
最も有力なのは、陛下に似ているためにヴェレミーナ様の慰みものになっているという噂です。
私はそんな下品な噂は信じておりませんが、信じているものは大勢いる様子です。
やがて殿下が宮殿から出られ、その御姿を私達に見せました。
しかし、私達は皆一様に落胆したのです。
何故なら、殿下は腰まである黒いベールを被り、顔をお隠しになられたのです。
目を凝らせば見れるかと、皆ぐっと目に力を込めたのですが、すぐにそれが失礼になると思い直しました。
しかし、私はどうにも諦められず、仕事をしながらそっと、殿下を伺い見ました。
するとなんと、殿下と目が合ってしまったのです。
気のせいだったかもしれませんが、私は焦り、小さな騒ぎを起こしてしまいました。
野盗が出るかもしれない人気のない道を通る時、万が一のために侍女と騎士を殿下につけることになりました。
選ばれたのは私と、幼馴染のエレンです。
使者の方に紹介され、私達は殿下の馬車に乗り込みました。
先程目があったこと、騒いでしまったことを謝ろうと決意し、勇気を振り絞ったところ、殿下は寛大にも許してくださいました。
緊張が解けて安心したのか思わず涙が出てしまいました。
エレンがハンカチを貸してくださいました。
私の幼馴染は優しくて強くてとっても格好いいです。
そんなことを思っていると、外が騒がしくなりました。
エレンが様子を見に出て行き、戻ってきたその顔を見て、やはり野盗が出たのかと怖くなりました。
しかし、殿下は怖がるどころか、母君の遺産を守るために馬車から飛び出したのです。
私達は慌てて殿下を追いかけました。
そして、私達は——奇跡を見たのです。
殿下は淡い光に包みこまれました。
そして、光が消えると地面が揺れ始めました。
何か思い出したのか、殿下が宙に語りかけると、透き通る肌を持つ美しい女性が現れました。
驚いている間に、女性が何かを呟き、私達は薄い水の膜に覆われました。
途端、大量の水が襲いかかってきました。
数秒とも数時間とも感じられるような時が経ち、気付けば野盗は居らず、血に汚れた服は綺麗になり、傷を負ったはずの者は傷を治癒されておりました。
殿下の方を向くと、殿下のおりました場所には水霜の美しい髪を持つ少女が立っておりました。
よくよく服を見ますと殿下と同じ服をお召しになっているので、彼女は間違いなく殿下なのでしょう。
見たことも聞いたこともない水霜の髪と、心を捉えて離さない酸藍の瞳を持つ美しい少女と、同じく美しい髪と瞳を持つ女性は並んで立っておりました。
空は雲に覆われておりましたが、彼女達の上だけは晴れ、太陽の光によって神々しく照らされておりました。
私は今でもあの出来事を、あの光景を忘れることができません。
私達を覆う雲は私達の持つ罪を示し、太陽の光は希望を示していたのでしょう。
ヒルウィドの民は本来は「人の民」です。
彼らは各地を放浪し、歴史を伝えます。
ゼジャルグ族は「水の民」と共に生きる部族になります。
アニカもゼジャルグ族の血を引いていたりいなかったり。