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水霜の精霊使い  作者: 黒本悠希
THUISKOMOST
2/9

Eerst 「謎に包まれた王女様」

風信子(ヒヤシンス)色の空を温かな光が包みだした。


「おはよう、マルリース」


天高く響く声が耳を打つ。

冷たい水が頬を滑り、乾いた肌が潤っていく。


私は薄っすらと目を開き、声の主を探す。

青味を帯びた透き通る肌を持つ彼女は、私の隣で頬杖をついていた。


「……おはよう、ウルジュラ」


慈しむように私を見つめる彼女に微笑みかけ、体を起こすと静かにベッドから足を降ろした。


「今日の服装はどうする?」


一人もいない侍女の代わりを務める彼女の問いかけに、私は昨晩既に決めておいた装いを告げる。

すると、彼女は分かっていたと満足気な笑みを浮かべて、やはり用意していたのであろう。

すぐにドレスを取り出した。


茶色がかった濃い灰色のドレスを身に纏い、陰水色(シャドウブルー)のボレロを羽織る。

特徴的な水霜の髪はまとめ上げられ、メイクは可能な限り薄く施された。

耳に、目と同じ色の宝石をはめ込んだイヤリングをつける。


王宮に帰る、否、行くための馬車が着いたと使者が来た。


王宮は私を歓迎しないだろう。

賢王と呼ばれる父も、民から絶大な支持を得る義兄も。

もちろん、母を殺した王妃も。


憂鬱な未来に思いを馳せ、唇を噛み締めた。


「大丈夫よ、マルリース。私はいつでも貴女の味方よ。それに私達は、水の民は貴女がどこにいても貴女の側にいるわ」


当事者である私以上に泣きそうな、苦しそうな表情を浮かべているウルジュラに、安心させようと彼女の手を取った。


「私は大丈夫よ。だって——、貴女達が側にいてくれるから。私は幸せよ」


冷たい手を握りしめる。


私は幸せだ。

それは本当だ。嘘じゃない。

けれど、私はこの国を、彼奴らを許さない。

それだけのことだ。


「行きましょう、ウルジュラ。貴女は私の隣に居て」


手を繋いで宮殿を出た。


十四年間、閉じ込められ、生きてきた家に別れを告げる。


「……行ってきますわ、お母様」










腰まである黒いベールで髪と顔を隠して歩く。

王宮からの使者と、同じく王宮の侍女達。そして騎士達の不躾な目が刺さった。

彼らには見えていない、私の隣に立つウルジュラは、先程から怨念を吐き続けている。

私はそっと、彼らに気付かれないように話しかけた。


「顔も見られていないし、髪も見られていない。怨念を吐くのはやめて」


「そういう問題じゃないわ。貴女は彼らより身分が高いのよ。それなのに不躾に見るだなんて」


「私の身分なんて、あって無いようなものでしょう? 十四年間。この世に生を受けてから今まで私はずっとあの宮殿に幽閉されて、お母様に守られて来たの」


すっと周りに視線を走らせる。

漸く自分の失態に気付いたのか先程のようにまじまじと見られることはなくなった。

しかし、未だにちらちらとこちらの様子を伺っている。


「謎に包まれた王女様だもの。気になってしまうのは仕方がないことだわ」


ふと侍女とベール越しに目があった。

慌てる彼女の様子に、口の端に笑みが浮かぶ。


どうしようもない人達だと思った。


ゆっくりと馬車に乗り込む。

バタンと、音を立てて扉が閉まった。


「ウルジュラ」


嗜めるように扉を閉めた彼女を呼んだ。


「これぐらいはいいでしょう? ……腹立たしい人達だわ」


明らかに不機嫌と分かる表情にまぁいいかと考える。





ゆったりと時が進む。

ノックの音を耳にして、ウルジュラに膝枕をしてもらっていた私は、体を起こしてドレスのシワを伸ばした。


「どうぞ」

「失礼します」


入ってきたのは使者と、侍女。それから、女騎士だろうか?


「王女殿下、これより人通りの少ない道を通ります。野盗が出るかもしれませんので、万が一に備えてこの二人を乗せていただけますでしょうか?」


そう言って示された二人は私に頭を下げた。


「アニカと申します。王女殿下の身の回りの世話をさせていただきます。よろしくお願い致します」


「エレンと申します。王女殿下をお守りさせていただきます。よろしくお願い致します」


侍女は先程目があった人だ。

騎士は……見かけなかったな。


「分かりました」


侍女と騎士は向かいに座り、使者は馬車から出ていった。


ウルジュラに手を握られ、膝枕が出来なくなったと、思わずため息を吐いた。

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