アレ
3話
市長の屋敷に三人目の奴隷は連れて行かれた。青年、いや少年と呼ぼう。
市長は西の酉の貴族を屋敷に招いた。
市長が西の酉の貴族に聞く。
「果たしてこの奴隷は何処から来たのだろう。東の果てか、西の果てか。面白くないか?西の酉。」
西の酉が怪訝そうに応える。
面白いとは?確かに私もこの奴隷からは何か感じるものがあるが。」
市長は微笑して応える。
「研究をする者として、この奴隷をどう思う?」
西の酉の貴族が応える。
「思うと、いうより感じる、私が感じるものは恐れとか怖さ、そのような感情な気がします。」
市長が応える。
「お前の言わんとすることはわかる。そして、私はついにアレを使ってみようと思う。」
西の酉の貴族は不思議そうな顔で言う。
「アレ?アレとは?」
市長の目つきが鋭くなった。
「わからぬか…?これがヒントだ。」
西の酉の貴族が息を飲む。
「ま、まさかあの…。」
市長が嬉しそうに応える。
「そうだ。あの『秘剣』を使ってみようということだ。」
その秘剣とは太陽と砂の国から伝わってきた、永遠の命を手に入れられるという秘剣だ。市長が黒く微笑んだ。
「そう、生き血を吸うとも、魂を吸うとも言われている。」
この剣を心臓に一突きすれば、そのものの『命』を吸うことが出来ると私には伝わっている。もっともあくまで言い伝えだが…だから試してみたいではないか。だが、恐ろしい力を秘めているかもしれない、この様子を西の酉がみていてくれないか?」
西の酉は少し嬉しそうな顔をした。
「ふふ、こんな機会はまたとない、市長のご意向なら喜んで。」
市長は高級奴隷を一人連れ、西の酉の貴族と一緒に密室に入った。
市長は高級奴隷に少年の奴隷の胴体を、石のベッドに括り付けさせた。
市長が西の酉に一つ頼む。
「この奴隷の名前を聞いておきたい。名前くらいは持っているだろう。西の酉、できるか?」
西の酉の貴族は緊張した面持ちで応えた。
「やってみましょう。」
西の酉の貴族は市長を指差し、言った。
「彼の名前は市長。」
そして、自分を指差し言った。
「私の名前は西の酉。」
奴隷の青年を指差しいう。
「お前の名前は?」
奴隷の青年は応じられなかった。
だが、何か理解をしようとしているようだ。
もう一度西の酉の貴族が指を差しながら言った。
「彼の『名前』は『市長』。私の『名前』は『西の酉』、お前の『名前』は?」
少年は口を動かした。
「…サウロ。」
そして指を自分に向け言葉を発した。
「サウロ。」
市長と西の酉は喜んだ。
そして市長が微笑しながら言う。
「やはり…実に美味しそうだ。」
市長は声を上げて言った。
「サウロとやら、お主の生き血を貰おうことにさせて貰う。」
市長は高級奴隷に少年の手足を縛るように命じた。
少年は手足を縛られ手足を縛られ全く身動きできなくなった。
市長は自ら鎖で閉じられた箱から剣を取り出し、剣を少年の上に垂直に向けた後、両手で握りしめ、心臓を一突きした。
少年からは一滴の血も出ない。
その時、市長と少年の世界が回った。
市長は倒れ、少年も意識を失った。
剣は少年から弾き出された。また、一滴も血が出なかった。
西の酉は慌てふためいて叫んだ。
「市長ー市長ー!」