空から宝石
11話
サウロは石の追い剥ぎの言葉を後に屋敷に仕える奴隷となった。
藤の沢は病気だった。日々苦しんでいた。サウロに問いかける。
「生きるということは苦しみなのだろうか、それとも楽しみなのだろうか。私には答えが出ない。ただ、一人の娘のことを考える時、この命だけは羽ばたかせてあげたいと思っている。」
サウロが応えた。
「私はかつて片脚を更には命を失いかけにもかかわらず動く事ができる。何かしらの縁で生かされていることに、感謝する気持ちの方が大きいかもしれない。ハンナ様のことは私にとっても美しい希望です。」
藤の沢が夢虚ろに語る。
「ハンナがもし男子であったら、世界を旅させてみたかったものだ。女子として生まれてしまったからには私が許しても世界が許さん。娘は幼い頃から世界の国々のお話が好きだったが、いまでは各国の政治経済まで知識を深めておる。何とかならんものか…何とか…。」
サウロの屋敷に仕える奴隷としての生活は贅沢ではなかったものの、苦しいものではなかった。しかし、こうやって一生を終えていくことに疑問を感じていた。一方で不穏な話も耳にした。藤の沢の影響の強さを欲するがために藤の沢の娘を半ば強引に家の嫁に迎えようという一部の貴族の動きだ。
訪れてはならない日がやってきてしまった。とある夜、屋敷に何者かの特殊集団の侵入を許す。
サウロが気付いた時には手遅れで、藤の沢の寝室への扉は壊され通れなくなっていた。急いでハンナの寝室に向かう。
娘の寝室に入ったサウロがハンナに声を掛ける。
「少し今日は騒がしい夜のようです。なんでも空から宝石が降ってくるとか、どたばたと騒がしいのはそのせいです。」
気を紛らわす話もままならないまま、数人の駆け足の音が瞬く間に近寄ってきた。サウロは一瞬の決断をした。秘剣を藤のハンナの心臓めがけて突き刺す。
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特殊集団は寝室に入るとものの十数秒でハンナを抱えて去っていった。
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ハンナの中にはサウロが入っていた。
(第二章─完)