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2話:クローン戦争の始まりだ

 エイリアンに人権はない。故に殺してもOK!


 そんな、狂気染みた思考を持ちながら今日も今日とてエイリアンと戦う勇者。

 その名もフォルテ・イディオール。まあ、要は私のことなんだけどね。


「どうした! 勇者の首が欲しくはないのか?」

「■■■■ッ!」

「■■■■■■■ッ!?」


 剣を振り、魔法を放ちエイリアンを駆逐していく。

 UFOから降りてきた奴らが人間ぽかったらやり辛いなぁと思っていたが杞憂だった。

 グレイ型エイリアンですらなく、まさに映画に出てくる化け物らしいエイリアン。

 きっと高度な技術なども、他の星から奪って侵略を繰り返してきたのだろう。


「さあ、死ね! ()く死ね! 今すぐ死ねッ!」


 それを知った私に慈悲などというものはない。

 魔王軍を殺したのと同じように、ただひたすらに血に塗れながら殺していく。

 許しなど請わない。そもそも死にたくないなら攻めてくるんじゃない。

 一度そっちから喧嘩を売ってきた以上は、どちらかが死ぬまで終わると思うな。


「駆けよ、風神! “Wind(ウィンド) arrow(アロー)”!」

「■■■■ッ!?」


 風の矢を360度に放ち、群がっていたエイリアンをハチの巣に変えてやる。

 その度に生暖かい緑色の血が噴き出して、体を汚すが気にしてる暇もない。

 エイリアンは殺しても殺しても湧いて出てくるのだ。

 1人でやるには正直辛い。


「■■■■■■■ッ!!」

「しまッ! 後ろから!?」


 そんな余計なことを考えていたのが災いしたのだろうか、隙をつかれて一体のエイリアンに羽交い絞めにされてしまう。クソ、単なる攻撃なら受け流せる自信があったのだけど、羽交い絞めでは逃げられない。何より、動けなければ数の暴力に蹂躙されるだけだ。


「この…!」

「■■■■!」


 どこか勝ち誇ったように声を上げるエイリアン。

 それを見た他のエイリアン達も勝鬨の声を上げる。

 マズい、このままだとエイリアンに犯される薄い本になりかねない。


「く…殺せ!」

『…………』


 あれ? なんで急に黙ったの? もしかして言葉が通じるのだろうか。

 だとしたら、すごく恥ずかしいことを言った自分が恥ずかしい。

 というか、エイリアン達も『く…殺せ』もののエロ同人を知っているのか。

 なんか、少し親近感が湧いてきた。


「―――そんなことを言っている場合か?」

「誰だ…?」


 そんなところに聞いたことがあるような、初めて聞くような声が聞こえてくる。

 だが重要なのはそこではない。エイリアン語ではなく、人間の言葉ということ。

 すなわち、味方が来たということだ!


「“Holy(ホーリー) flame(フレイム)”!」


 私がそう確信すると同時に、白い炎が私の周り一帯を覆い焼き尽くしていく。

 普通ならば私もエイリアンと仲良く火葬されているところだがそうはならない。

 私の鎧は聖なる鎧なので光属性の魔法は効かないのだ!


 ……まあ、魔法軍は基本闇魔法だからこうして役に立ったのは凄い久しぶりなんだけどね?


「ありがとう、助かっ……た」

「やはり驚くか。まあ、無理もない」


 何はともあれ、援軍にお礼を言おうと思い顔を向けると信じられないものが目に飛び込んできた。何故か? 何も生前の仲間が時空を超えて助けに来たという展開ではない。かと言って、クロエ達が魔法を習得してきたわけでもない。


 驚いた理由は単純明快。―――目の前に“私”が居たからだ。


「私…だと…?」

「なるほど…驚いている自分の表情とはこういうものなのか」


 ドッペルゲンガーと会ったら死ぬという話を思い出して愕然としている私に、“私”は呑気に話しかけてくる。いや、自分で言っていてなんか訳が分からなくなってきた。


「一先ず理由を説明しておこう。私は…いや、私達はクローンだというのは分かっているな?」

「ああ……」

「クローンというなら当然増産も可能だ。というよりも、別々の機関がそれぞれでクローンを作ったために私達が2人居るという状況になっている…らしい」


 そこまで言って、軽く眉をひそめる“私”。

 その仕草が余りにも魅惑的で一瞬ドキリとしてしまうが、よくよく考えてみるとあれは私だ。

 絶対、内心では意味の分からないこの状況に文句を言っているはずだ。


「まあ、愚痴を言うのは後でいい。今為すべきことは分かっているだろう、私?」

「フ、やはり考えることは同じか。ああ、分かっているともさ」


 “私”と並び立ち、エイリアン達と向かい合う。

 数が増えたと言っても所詮は2人。それに比べて相手は千を優に超える。

 一騎当千の英雄が居てもなお、安心できる差ではない。

 だが、そこに何の問題があるだろうか。


「敵の数が多いな、私」

「いや、大したことはないさ“私”」


『今日は私と“私”でダブル勇者だからな!』


 2人で一度は言ってみたかったセリフを言って悦に浸る。

 え? 自分とやっているだけだから一人芝居?

 こういうのは細かいことは気にしたらダメなんだよ。


「さあ、行こう!」

「ああ! エイリアン共に勇者の恐ろしさを教えてやろう!」


 2人してニヒルに笑い、エイリアンの大群の中へと駆けだしていく。

 今度こそ、誰にも邪魔されない戦いの始まりだ。

 と、思っていたのだが、今度は私達の脇を縫うように援護魔法が飛んでくる。

 それ自体は非常にありがたい。

 ありがたいのだが、前例が前例のために2人して顔を見合わせる。


「……まさかと思うんだが」

「奇遇だな。恐らくは私達の考えは一致している」


 覚悟を決めて2人同時にバッと魔法が飛んできた先に振り向く。


「フ、自分を援護するというのもおかしな気分だな」

「それを言うのなら、自分で肩を並べること自体おかしいだろう」

「私だけで軍隊を作り上げている今となっては、その程度は些細なことだろう」

「もしも、あの時代にこの技術があったら魔王軍も三日で滅ぼせていただろうな」


 ―――やっぱり私だった!


 しかも、今度は1人や2人じゃない。完全に軍隊を組んで来ている。

 その光景を簡単に言うなら、メタルクーラの大群を見たときのような感じだった。

 というか、エイリアンからしたらまさにそんな感じだと思う。

 だって、明らかに怯んで足を止めているんだもん。


「援護は任せろ、私!」

「怪我をしたのなら“私”が治そう」

「流石に大群相手に2人は辛いだろう。“私”も出る」

「全員で合体魔法を撃つのはどうだ? きっと凄まじい威力になると思うんだ」


 話しているのはどいつもこいつも“私”。なんか、ずっと見ていたら頭がおかしくなりそうな光景だ。なので、私は乾いた笑いを浮かべながらエイリアン達に向き直る。元はと言えば、エイリアン達が全ての元凶なのだ。少しぐらい、八つ当たりしたって許されるだろう。


「これからお前たちが相手にするのは、無限の勇者。勇気の極致だ。恐れずしてかかってこい!」

「フ、心震えるセリフだ。やはり、“私”を最も理解するのは私と言う訳か」


 大声で啖呵を切っていると、ぞろぞろと私の周りに“私”が集まってくる。

 やばい。誰が誰やらさっぱりわからない。いや、全員私なんだけどね。


「さあ、行こう。この戦いはこの星に生きる全ての命を守る聖戦だ! 正義は我らの手にッ!」

『オオオオオッ!!』


 私全員で雄叫(おたけ)びを上げて、エイリアンを屠りに行く。

 その異様な光景にエイリアンはもはや、戦意を失っている。

 だが、関係はない。一度喧嘩を売っといて無傷で返れると思うなよ。


 何より、勇者の手から逃れられると思うな。






 そう、調子に乗っていた時期が私にもありました。


「どういうことだ……なぜエイリアンの中に奴が!?」


 まさに破竹の勢いで進軍していた勇者軍(みんな私)だったが、想定外の敵との遭遇に全員が慄いている。全員私なのだから、驚くポイントは同じだよね。と、そんなことを言っている場合じゃない。居てはならない敵が現れたのだ。


 腰まで伸びた禍々しいクリムゾンレッドの髪。

 絶世の美女を思わせる顔に、スタイル。

 されど、そこから溢れ出す圧倒的な王者のオーラ。

 私が間違えるはずがない。目の前のいる敵は間違いなく。


『魔王…ッ!』


 全員の声が思わず揃ってしまう。

 それだけの衝撃だったのだ。

 かつて相打ちとなったはずの魔王がエイリアンを守る様に立っていたのが。


「魔王! 貴様ともあろうものが何故エイリアンなどの下に!?」

「…………」


 そう叫びかけてみるが、魔王の表情はピクリとも動かない。

 いや、そもそも感情などないようにその美貌には何も浮かんでいない。

 これは一体どういうことだろうか?


「まさか、奴もクローンとして復活させられたのか?」

「エイリアンが魔王を? 何故だ、“私”」

「私達勇者を復活させようとしている計画をどこかで掴んで、その対抗策として私達最大の敵を用意したのではないか?」


 “私”に言われて納得する。確かに、エイリアンならばクローンを作る技術は持っているはずだし、魔法が弱点であることを自分達も自覚すれば何らかの対策を講じるというのはおかしくない。それが、魔王だというのは納得できるが……あの感情の無い瞳はどういうことかと思った時、ある可能性に思い至る。


「まさか!」

「私、何か分かったのか?」

「ああ、魔王は知っての通りプライドの塊だ。そんな奴がエイリアンなどに手を貸すはずがない。だから、エイリアンは奴の自意識を奪った状態で復活させたんだろう」

「なるほど。魔王……かつての敵とは言え哀れなものだな」


 魔王は恐らく最初は抵抗したんだろう。

 でも、それを元にエイリアンは改造を行い自分の命令を忠実に聞く人形とした。

 魔王を従えるとするならばこれしかない。


「報告! 12時の方角から魔王の大群が現れたぞ!」

「やはり魔王もクローンで量産されていたか……」


 遠くから聞こえた敵襲の報告に思わず苦い顔をしてしまう。

 魔王は強い。それこそ、私でさえ相打ち覚悟でなければ倒せなかったのだから。

 だが、今はそれ以上に気分を害する事がある。


「私の生涯のライバルとも言える魔王を道具扱いにするとはな……」


 胸にフツフツと怒りが湧き上がってくる。

 好敵手を愚弄された怒りはきっと、私以外の全員にもあるはずだ。

 なら、全員やるべきことは分かっているだろう。


「……討つぞ。我らが好敵手の情けない姿をこれ以上晒させるわけにはいかん」

「無論だ。速やかに倒し、そして……エイリアン共を一人残らず駆逐するぞ」

『オオオオオッ!!』


 軍(みんな私)の戦意が最高潮にまで高まる。

 それを受け、私は先陣を切って目の前の魔王へと斬りかかっていく。



「久しいな、魔王! さあ―――クローン戦争の始まりだッ!!」



 私達しか死なない優しく醜い戦争を始めよう。



なぜか続きました。まだ続くかも。

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