第83話 それ行けにゃんこ空中っ…!(自主規制)
あんなこと言わなきゃよかったあんなこと言わなきゃよかった、店員がバク宙やってる[ディスカウントストア・最大殿]のCM見て「簡単なのかなぁ?」なーんて事務所で話すんじゃなかった。
事務所には大魔王と愉快な仲間達が居るってのに。
そんなこんなで行楽シーズンも一段落で寒くなってまいりましたが、いかがお過ごしでせうか阿久津ヒロムでーす。目の前には満面の笑みのいつもの悪魔共と白いマット、「安心しろ、ジャングルではないから虎は居ない。」と沖田さんが言ってるけど嵐が吹き荒れる10代なので分かりません。
今日は「ドキドキ☆ヒロム初めてのバク転」と銘打ってマット練習でござる…。
「いやぁ~、ヒロム君がやる気になってくれて良かったよ。丁度やらせてみたい仕事があってさぁ、回り技に慣れてくれると助かるんだよねー☆」
山崎さんからそんな事を言われつつ、ペイッとマットに転がされる俺。何ですか難ですか、その近い将来に嫌な予感しかしない台詞は。「とりあえず基本の受け身~、さんはいっ☆」っ、さんはいっ(泣)
ちなみにキャラクターショーの受け身は、んー…
右足1歩前・左手を前に付く・その間の空間に右腕を這わせる様にして頭を付けずに回る、腰を打たない様に注意。
こんな感じ☆
頭を付けると、面にキズは入るわ下手すりゃ割れるわ中でケガするわ大魔王が笑顔で降臨するわでガクガクブルブル…。これは初日に山崎さんからみっっちり仕込まれたので自信があるのである、ころりんっ☆
「を~、ちゃんとまっすぐ回れてるし立ち上がれてるしキレイキレイ☆んじゃあ…そこの4人~マット前に寝転んでくれる?ヒロム君~飛び込み受け身行ってみようか。」
………1番離れた奥の4人目が添い寝クッションなポーズで土方さんなのは故意ですか態とですか悪意ですね。スタートラインの先輩が「頑張れ♪」なんて凄い良い笑顔でエールを送ってますが、激励以外の何かを感じるぞコンノヤロウ…態と踏みつけてやろうか。
飛び込み受け身は飛び込み前転の飛ぶ距離長い版と思ってくれてOK。ひっひっふーと深呼吸して…、自分のタイミングで先輩のギリギリで踏み込んで…っっ!よっし何とか飛び越せた良かったナニかがヒュンとしたけど。
「おいヒロム!お前ちょっと腕踏みかすったぞ!」
ふんだ、態とじゃないですぅ反省してまーす☆
「うんうん、まぁ飛んだりの恐怖心も無いみたいだし問題無さそうだから早速バク転教えちゃおうか☆」
山崎さんの一声で思わずビクゥっとなる…。うぅぅバク転…、人間あんな重力に逆らった動きはしたらいかんのですぅ。体操選手ってのは実は地球を征服しに来た宇宙人で…ぁぁぁああ最後まで言わせて下さいぃい問答無用で人をマットに引き摺り込もうとしないでぇぇえええええ
「大丈夫まーかせて☆確かに普通の人が地べたからのバク転バク宙って怖いもんだが、CM見る限り人の手の高さからアシスト有りのバク宙だったから楽勝楽勝♪自分のジャンプ+αなんだから尻餅つく位回りすぎるって☆」
沖田さぁぁぁん!俺まだ普通の人っ!経験無いから普通の人っ!
「そうだぞヒロム、バク転なんざ顎を上に上にとやってりゃー回れるモンだ。1回まわりゃー度胸つくって☆早速回してー」
先輩ぃぃい!度胸つく前に何かが!主に俺の頭部が地べたにつくって!痛い感じで!
「止めなさい馬鹿2人。」
ゲンッ☆ゴインッ☆
うぅぅ、鬼2人が土方さんからの鉄拳制裁で沈んだでござる。「ヒロム君、頭蓋骨は硬いですからコブシ痛めないようにね。」…だからってデコにパンチも危険だと思いますぅぅう。
「何をイキナリ回そうとしてるんですか、恐怖心を根付かせるだけでしょうに。まずは…ヒロム君その場で上に伸びを。」
言われた通り伸びーっとすると、背中合わせで手首を掴まれそのままぐいーーんと土方さんが頭を下げて背中を伝ってコロンとひっくり返される。
「まずはコレで慣れていきましょうね。」
うぅぅ今日の土方さんは俺様何様大天使様ですぅ、冒頭で大魔王なんて思ってごめんなさーい。
何回かぐいーーんをやると、今度は山崎さんと土方さんに腰辺りのジャージをむんずと掴まれる。
「私達が補助で支えますからヒロム君は万歳したまま後ろに倒れ込んで下さい、斎藤の言ってた様に顎を上に上にやってく感じです。自然と体が反っていきますから、無理に飛んだりしない様に。怖いからと目を閉じたまま回ると、手を付けなくて怪我しますからね。」
…えーっと、ちょおおおっと不安だけどこの2人なら危ない真似はしない筈だし…残りの鬼2人よりは。
えいやっと万歳のまま後ろへぇえええあええええっとおおぅ、掴まれた腰はそのままで足を片手の補助でひっくり返されて…あれ?これバク転?
「うん、簡単に言うと『サスペンスドラマで欄干に背中ぶつけて落ちる人』。僕ら欄干みたいな感じ。
まぁ回る感覚に慣れて恐怖心を無くしてから自力で回れる様にやっていこうかねー。やっぱ体デカいと中々勇気いるからねぇ。」
うぅぅ、山崎さんがなんか優しい。
「まぁやって欲しい仕事はバク転しないけどねー。」
うぅぅ、忘れてて欲しかった。
「ヒロム君、『ロンダート』は出来ましたっけ?」
うぅぅ、器械体操の技で側転の進化系みたいなのでしたっけロンダート。一応習いました…出来ないですけど。
「ショーでバク転のみって使いづらいんですよ。使いたいなら、ロンダート→バク転 と、繋ぎ技としてマスターしとくべきですね。」
うぅぅぅぅぅぅ、ちょぴっと出来るのかなぁなんて言ったばっかりに…、怖いよう怖いようデェヴに回り技は無理だよう。大体何なんですか「やって欲しい仕事」ってー
「ん?合同ショーで中ボス、『落っこち』有り。近々他所の派遣会社の人達寄せ集めておっきなキャラクターショーやるんだ☆で、2~3人今週のやられ怪人演ってもらうんだけどうちの会社はヒロム君を中ボスでご指名しちゃおっかなーって大抜擢ぃ☆
ーーそれ大抜擢違います大誤算です。
「因みに『落っこち』とは、文字通り高い所から落っこちる事です。段差のあるステージで、奈落から背落ちで落ちます。ーそこそこの高さから、例えて言うなら自分の身長×3~6位でしょうかね。」
ーー鬼ですか、今バク転であわあわしてるデェヴに何を期待してるんですか。
「ほら、獅子は大きくそーだてって子供谷に突き落とすじゃーん☆時間は有限だぜぃ、度胸つける為にも次は俺らの補助でバク転やろーぜー☆」
いやぁぁぁぁぁぁあ沖田さんと先輩の補助は俺にはまだ早いでっすぅぅぅ土方さ…んっ!!
「まぁ、1回経験しましたし後は何度も実践を重ねるだけなんで馬鹿2人の補助でもイケるでしょ。」
あぃぁぁぁぁのイケメンさらりと裏切ったぁぁぁぁ(泣)山崎さぁぁぁあん!
「ヒロム君って巻き込まれて流されて意外と何とかこなせる子だからやれるって、ホラ身長伸ばす方法のひとつに骨折させるって手もあるしね☆」
何ですか最後のよくわかんない謎のうんちくわぁぁぁぁぁあうあああ
(暗転)
結果:後頭部がゴリゴリゴリーってなったのは言うまでもない。