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第78話 最終回だよどえらえもん IN THE HERO

「ちょっとしたツテで映画鑑賞券貰っちゃいました☆1枚で4名行けちゃうので、今度の休みにでも見に行きませんか?」


「土方さんからデートの誘いを受けて乙男心ドッキドキな阿久津ヒロムどぇーす☆そんな俺の今日のオサレポイントは、えへ♪見えないと・こ・ろ…「人のフリして勝手に話進めないでくれますか沖田さんっっ…(怒)」ちぃい、もうバレたか逃げろぃっ♪」


くそぅ油断も隙も無い。…はい、そんな訳でストーリーテラーの座を取り返したぜ。お疲れ様です、本物の阿久津ヒロムです。俺あんなんじゃない。


映画鑑賞券(チケット)1枚で4名と来れば、俺・斎藤先輩・土方さん・沖田さんなメンツになる訳で…え?山崎さん?現場の領収書の束に、凄ぇ高価な果物盛り合わせとか食べさせてくれるお姉さんのお店のヤツを紛れ込ましたのがバレて会社待機(おるすばん)です、ハイ…。何でバレないと思ったんだろう。


とにもかくにも会社の車借りて、大規模小売り店舗・運河街の映画館へ。ここの映画館は、映画上映中に食事ができる[プレミアムダイニングシネマ]と言う各テーブル毎に給仕さんが待ち構えてる何その執事喫茶みたいな所があるらしいんだけど、残念ながら今回はノーマル。…てか上映中に給仕さんが目の前通ったりするんだよね?違和感半端ないんだろな…。


そんなこんなで入場して、売店でキャラメルポップコーンとジュースのセットを頼んだら「邪道」と沖田さんから罵られーの。


売店でパンフレット買うと、「ネタバレするから終わってからですよ。」と土方さんに取り上げられーの(泣)。


「何故に大きなお友達には、どえらえもんの紙製サンバイザーが貰えないんだろう、お子ちゃまより映画料金高いのに。」と斎藤先輩に議論をふっかけられーの。


…先輩、午前0時からの[ふたりでプリティ&キュア]の最速上映でも似たような事言ってませんでした?…嫌ですよ、大きなお友達(野郎共)が応援ライト振るの見るの。


最後は「「「みんな後方で見たがるケド、敢えての中央最前列☆」」」


…なんかもう面倒なので帰りたい、因みに俺は予め犯人が分かってる「倒叙(とうじょ)」型状態で見たい派である。パンフ返して下さいませ(泣)


左隣の勝手に人のキャラメルポップコーンを食べては、自分の塩ポップコーンをトレードの様に入れる沖田さんを放置しつつ、右隣の土方さんに声を掛ける。


えーと、鑑賞券貰ったツテってクライアントさんですか?


「いいえー、この映画にうちの会社に居た奴が出演してましてねー。「俺等みたいなスーツアクターの映画なんで是非。」と言ってましたよ。」


へ?スーツアクターの映画?


「ほら、そろそろ始まりますよ~☆」



映画:costume(コスチューム) acteur(アクトゥール)


「スーツアクターって顔も名前も出て来ないじゃないですか、ぶっちゃけ日陰ですよね。俺はゴメンです。」


スーツアクター歴25年のベテラン主人公と、ハリウッドアクション映画デビューを狙う人気若手俳優との衝突・和解・友情の物語。


裏方を馬鹿にした態度の若手俳優にムカつき、ベテラン主人公の置かれている現実に戦き、仲間の結婚式に喋りショーを出してくる所に笑って…。

自分の悪態を反省し頭を下げて指導をお願いする若手俳優になんだかグッと涙が滲んで。

ラストシーン、ベテラン主人公が挑戦する1番の見せ所の大立ち回り。

高所からのワイヤー・CG無しの落下、炎にまみれながらの100人斬りをワンカットで撮影すると言う。



「監督からさ、日本には世界を魅了するアクション俳優が居ないって言われたんだわ。


小さい頃見てた彼の人が俺のヒーローだった様に、俺も誰かのヒーローになりたい。


俺がやらなきゃ誰も信じなくなるぜ、アクションには夢があるってこと。それを俺はお前に見せたい。」


笑顔で若手俳優に手を振ってポジションに着いたベテラン主人公の眼の先にはーー。






気付けば場内は明るくなってて…、あぁ終わってたんだ。強張ってた身体を深呼吸と共に弛緩させて椅子に凭れる。

ふと見れば溶けた氷の水の層が出来てる飲み物と、…キャラメルポップコーンだったのに殆どが塩ポップコーンになってる不可解な現象。取り合えず満足げなゲップしてる沖田さんのストマックをクローして謝罪させる。


「なんか出る!キノコのお化けがよく出す毒性の高い吐息っぽいのと、元固形物がっっ」とか言ってたケド、フフフー聞こえませんな。


多少湿気った塩ポップコーンをお土産に事務所へ帰社、ただいまでーす☆


「アイツどうだった?」「100人斬りの中に居たみたいですがサッパリです。」「ワンカットで撮るって言うなら本当にワンカットで撮れば面白いのにな。」なんで言いながらみんなで珈琲タイム。


「そう言えばさぁヒロム、なんか何時もの練習風景とか立ち回りとか控えテントの様子とか出てくるのって何か変な感じじゃなかったか?」ーと、斎藤先輩。


うん。普段見せるべきでは無いと教えられてる所を、映画とは言え見せてるのは何か気持ち悪い?感じ。


「ヒロム君は見ててどうでした?」なんて聞かれたから「何か昭和っぽーい匂いのする設定でしたケド、知らない人にスーツアクターの世界を紹介するには面白かったと思います。」と、返答する。


「まぁ、誇張して分かりやすくしないと中々に理解するには難しい業界でしょうからねぇ。」と苦笑いする土方さん。



「…にしてもアクションには夢、ねぇ。」


沖田さんの言葉で脳裡に浮かぶはー


初めての練習で、空手の型を足が生まれたてのバンビみたくガックガクになるまで叩き込む山崎さん。


木刀で、うっかり真っ向唐竹割りをやらかした俺に本気で足払いした斎藤先輩。


「この立ち回りの主役は私です、スピードは私に合わせなさい。」と、人が追い付けないスピードで立ち回りをする土方さん。


それに付いていけなくて、立ち回りを駄目にした俺を指差して笑う沖田さん。


「…悪夢しか無ぇ。」


思わず呟いた言葉はしっかり聞かれてて…あははーみんなの笑顔がキョワーイ☆

こんな時は無理くりに話題を逸らさないと、もれなく魔王様の痛恨の一撃(主に精神面)が来るっ!


そっ、そう言えば斎藤先輩は、夢と言うか進路は決まってるんですかっ?


こんな時は取り敢えず先輩に丸投げでいっ☆


「あー、取り合えず地元の大学通いながらココに通ってもっと技術学んで。…Japan action entertainmentの養成所目指す。」


じゃぱんあくしょんえんたーていんめんと?…JAE!?


「おう、目指すはマスクドライダー野郎とか連者シリーズの『テレビの中の人』だ。」


「その前にお前マットの基礎からだよなぁー、受け身下手だしな。」と沖田さんが茶化す。


「ついでに車の免許もとってねー☆」と、山崎さん。

車の掃除の動きをやると敵を倒せるんだよー、そうやっていじめっこに立ち向かった少年が…。なんてのはきっと戯れ言だろうから聞き流そう。


「わかってますよ、その為に地元の大学入るんすから。今年と大学4年間の計5年、今後ともご指導ご鞭撻をよろしくお願いします。」


ペコリと頭を下げる斎藤先輩。…そっかぁー、先輩はJAEを目指しちゃうのか…。俺は、


俺は…?


「ヒロム君は何か夢は出来ましたか?」


手元の珈琲に視線を落としてた俺に、沖田さんが声を掛ける。顔をあげるとみんなが俺を見てて…


「去年のゴールデンウィークからそろそろ1年経つしねぇ。」と、山崎さん。


「何かしら自分の中で変化はありましたか?」と、土方さん。


「色んな意味で大人の階段うさぎとびしてたんじゃねぇ?」と、沖田さん。


「お前はまだ2軍でモブでBクラスで平穏で平和な何も無い社会の歯車なの?」と斎藤先輩。



俺は…、言ってもいいのかな。否定されたりしないかな。

…何時もは真っ先に自分が自分を否定するけど、今は自分が言いたくて仕方がない気持ちが胸ん中でグルグルしてるのがわかる。



「えっと…俺この間部屋の掃除してたんです。」


聞いて、聞いて下さい俺の夢。


「ーで、押し入れの奥底にグッチャグチャになってた幼稚園の頃の落書き帳を発見しまして。」


大丈夫、きっと笑わない。いや笑うんだけど、この人達は絶対に嘲笑(わら)わない。


「中を見たら、その頃考えてたヒーローの絵が描いてあったんです。」


俺は相変わらず2軍でモブでBクラスな脇役なんだけど、みんなに逢えてこの1年間で、多分スピンオフとかなら主役を演れる位にはなれたと思えるんです。


「絵の横にはヘッタクソな字で、しゅらばすたー『しゅらのくにはおれがまもるぜ!!』って書いてあって。」


だから夢を見てもいいですか?将来(さき)がわからないケド、目指してもいいですか?


「…それ見て思ったんです。俺、連者モノもマスクドライダー野郎も大好きなんですけど、『俺が創造(つく)ったヒーロー』になりたいって。だからー」


俺の夢はー


「俺、ご当地ヒーローを1から創りたいんです。全部俺が創るんです、デザインも敵キャラも設定もストーリーも音楽も全部。」


俺の(ことば)に、4人は目線を交わしてー



「中々に前途多難で壮大な夢ですねぇ~。」


「アクションも演技もまだまだの癖にな!斎藤より凄ぇ難易度だな☆」


「ガキんちょの頃から範囲が狭いのなー、修羅の国限定かよ。」


「世界の平和は、連者やらマスクドライダー野郎に任せちゃうなんてのがある意味凄いねぇ。」


なんて言いながら、みんなしてグワシャッ☆と俺の髪をグッシャグシャにしながら撫でる。

ええぃアンタら好きだな犬みたいに撫でくり回すのっ!


「ーところでヒロム君、1からって言うけど…衣装を1から造るって結構大変だよ?主に資金面。」


えっと、前に人材派遣会社(ここ)のホームページ除いたら「着ぐるみ製作承ります」ってあったんで、依頼しようかなとは思ってるんですが。


確かに金額面は全く記載されなかったですけど、俺夏休みの現場のお給料丸々貯金してて資金面はそこから出せるんじゃないかとー。


山崎さんにちょっとドヤ顔しながら返事する俺の視界に急に掌、くっっ…これはアイアンクロー?痛い痛い痛い。


ピシピシと腕をギブアップのタップをしてるのに、それを無視したまんま沖田さんが話し出す。


「ヒーローム、問題☆先週お前が入った『洗剤型着ぐるみ:チョイくん』。お前ならいくらで買う?」


えぇぇぇぇ、「チョチョイのチョイやでー☆」の台詞でお馴染みの、『台所用洗剤・除菌が出来るチョイ』のキャラクターチョイくん?スポッと被るダケの簡単な作りだったから…。


えーとえーとえーと、…15万円位?


明らかに多いだろうと考えて出した答えに沖田さんはニッコリと…


あだだだだだだだ不正解なんですね、ずみ"ま"ぜん"ん"ん"ん"ん"


「ヒロム…人件費って言葉知ってるか?その金額にソレ入ってないぜぇ。」


ふえぇぇぇ、結構多目にしてその金額でしたぁ…(泣)


orzで打ち拉がれる俺


「つまりヒロムは資金面はまだまだで」


技術力(アクション)でもまだまだですよね。」


「当然ながら台本書く力も足りないよな?批評は出来ても。」


「営業のイロハも必要だよー、やった事無いよねー。やらせてないもーん。」


塩がっ、心の傷口に粗塩揉み混むどころか岩塩入れて縫い込まれてるぅぅううう!ちっくしょう夢位見てもいいじゃんかようぅううう。走り去ろうとする俺を4つの腕が絡めとって…ををぅ、何か気分は蜘蛛に捕らえられた獲物でございますぅ。


「だーかーら、俺達に任せろってば。協力してやらぁ☆」


「指導は任せてー、みっちりきっちり腕の上げ・下げ・角度まで正確に仕込むよっ☆」


「資金面は任せて下さい、入れてあげますよ、キャラクターショーからビラ配りまで多種多様。お母様の許可もありますし☆」


「まぁ俺頭いいから、大学は余裕なんで☆在学中のアクション指導は俺が。自分の復習にもなるし、中庭でやれば大注目で上手くイケば人材獲得だし。…だからさぁヒロム。」


4人の眼が据わった笑顔。あ、コレあかんヤツ。




「「「「逃がすわけないだろ?」」」」



やっぱりぃぃいい!?あぁぉぉあやめてぇぇええ「さーて先ずは体力面と技術面だよなー」とか言いながら練習場に引き摺り込もうとするのはやめてぇぇぇぇえ!!絶対、絶対にとんでもないレベルの立ち回りやらせる気でしょう!?


「4対1の武器三節棍でどう?」


嫌ぉぉぉぁあぁああああ!!!!アレ本物しか無いですやん!?練習用の優しいスポンジタイプとかじゃ無いですやんっ!?

扱い方が難しい上に何処に当たっても悶絶しちゃうからぁぁぁああ!!!!「私得意ですよ」とか言わないいいぃぃぃ!!「本物で危険だからこそ集中もしやすいだろ?逝きやすくもなるけど☆」とか俺の場合本当に永遠に逝きますからぁぁぁあ(泣)


長いスタンスで見ときたい夢なんで今は生暖かく見守ってて下さいぃぃいいいい!!削れるっ、俺だけのヒーローになる前に命が削り切れるからっっっ…!!!






やっぱり!やっぱり俺のバイト先は『なんかちょっと』変を通り越して『絶対に変っっっ』!!!!





















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