第9話:土方さんはマダムキラーでした
あの後付きっきりで山崎さんに空手の型を教わって足腰ガックガクな阿久津ヒロムですーお疲れ様ですぅぅうー。
三戦立ちって基礎の立ち方なんだそうで…コレが出来ないと一本筋が通った立ち方が出来ないんだそうなー。いやだから山崎さん俺スタッフ…あっははぁー、ハイ何でもないでっす。頭掴むの止めて下さい、アナタの握力半端ないんで頭蓋がミシミシ逝ってるからぁぁあ!
ちっくしょうコレが角界で噂の可愛がりってヤツか…(違)
山崎さんのご指導のお蔭(?)で先輩のリハーサルは結局見られず仕舞い。
スタッフってショー中は精々ステージ裏の控え室(テントが多いそうな)の幕を、キャラクターによっては出捌ける時に開けてあげたりして引っ掛からない様にする程度だからリハーサルに参加しなくても無問題らしい。
「スタッフとして必要な物を用意しときなよー」と山崎さんと土方さんから直々に説明を受ける。
「えーとね、服装はスタッフオンリーならジーンズとシャツに運動靴で。あんまり奇抜なのとかアニメ系の美少女Tシャツとかは不可だよー。最近のって派手だよねぇビックリしちゃう。」
「…昔居たんですよ『魔法先生☆女子クラス担当でハーレム無双』のTシャツ着て来た大学生…。」って遠い目をしながら土方さんが茶ァ啜ってた。何かあったんだろーなー怖くて聞けないケド。
「荷物運んだりするから両手の空くバッグ、リュックとかナップサックが良いよー」
「財布やらスマホやらの貴重品は持ち歩いて自分で確保して下さいね。あ、当然ですがショー真っ最中とサイン会撮影会時にLINEとか駄目ですよ。留守電マナーモード設定は必ずして下さい。
「後はタオルに替えのシャツ、何があるか分からないから一応ね~。……急に演者が入れなくなったらさ…ねぇ?」
…ウフフフー、俺ヨクワカンナーイ☆
「後は…、お泊まりグッズ一式を別のバッグに用意する事ですかね、現場には持ち込ませんから。こんなモンですかねぇ?」
…俺さー、何か普通の仕事で普通に働いて「普通」に過ごしたかったんですぅー。イキナリ何か横道の獣道に入った感じが拭えないんですがー、この道の先にコンビニ店員で働いてる俺が見えないっすー明日すら見えないっすー。
死んだ魚の様な目をして呟いたら、先輩がこれ以上無い位の悪い顔してこっち見てた。
「計画通り」
悪魔さん悪魔さん林檎山程あげますんで名前書いたらヤれるって評判の死の帳面を俺に下さいなー☆アハハハハハハハハー
魂ここにあらずで帰宅したらオカンが満面の笑みで土方さんを褒めちぎってた。
「あんなに良い待遇で雇ってもらったんだからシッカリ働くのよー、土方さんに恥かかすんじゃないよ。温泉県行くならお土産ヨロシクねー。今日の夕飯はあんたの好きなしょうが焼きよ、とっとと手ぇ洗って来なさいっ☆」
土方さんアンタ何言ったんすか……。
ご機嫌にどすどすと足音たてて去ってくおかんの背中を見ながら呟く俺の台詞が通じたのか脳内の土方さんが人差し指を唇に当ててニヤリと笑顔で答える。
「んー?んふふー…秘密ぅー。」
どえらい所に来てしまった感半端ない。