第72話 とある帰社中のヒトコマ
「仕事帰りの経費で買うソフトクリームはうーまーいーぞぉぉぉおー☆」
「Mr味の申し子」の味覚天皇様の様な近藤さんのコメントが響き渡る高速サービスエリアからお疲れさまです、他人のフリしていいでしょうか?阿久津ヒロムでございます。
近藤さん、落ち着いてください他のお客さんから大注目です。…でもうかれポンチ気味なのも無理は無いのです、何せ今日の現場は…
・前乗りで南国しろくま県
・お出迎え無し店内パレード無し
・ショーは1回のみ
・音響 テント ステージ片付け無し
=我等は体力を持て余している集団
なのです、そりゃ何かが弾けて飛ぶさ☆主に自重とか。しろくま県から修羅の国まで3時間程度かー、暇ですなぁ。皆で歴代連者モノのカラオケ大合唱も楽しいケド、毎回コレなのも芸が無いですよねぇ…。
ソフトクリームを舌でコーン奥に圧縮させながら食べてる俺の台詞に、ニヤリと悪代官な笑みの山崎さん。…を、何か企んでらっしゃる?
「よーし、みんな明日は全員オフだよね?今日少々遅くなっても大丈夫だよね?夕食経費で出すよー☆」
何様山崎様社長様の一声にみんなヒャッホイです、わーい俺焼き肉が食べたいでーす☆
「ただし、コレから会社までのサービスエリア全て止まるからね。サービスエリアからサービスエリアまでの間に1人ずつ簡単な台本書いていってもらうから☆で、発表。次の人は前の人の話と繋げていってね~。んー、作れない人は何か一芸って事で☆」
…うをををぅ、何気にハードルの高いモンを出しやがるぜ。斎藤先輩~、何かネタあります?
「フッフッフ…ヒロム、誰に聞いてんだコラ。お誂え向きに、此処はサービスエリアのちょっとした森林公園的な場所。俺の長年温めてきたあの設定が今!陽の目を見ようとしている!」
あはー、先輩が無駄に熱いです、…嫌な予感しかしません。てかこんな時って大概俺も巻き込まれて偉い目に合う様な気がします。
「おー何だかよくわかんないケド兎に角凄い自信だねぇ、じゃあ斎藤君が1番手で。」
社長の一声で1番手は斎藤先輩。先輩は何やらポケットから取り出したのは…バンダナ?あぁ、俺は内面の下に髪の毛ぐっちゃぐちゃにならない様に水泳帽を被るんですが、先輩はバンダナ派だったっけ…。
みんなが注目する中、先輩はバンダナの左右を真ん中で揃えて裏返し… 今度は上下を真ん中で揃え…右側の角2つ・左側の角2つを合わせて持ち左右に広げ…、先輩!まさかソレは…!?
驚愕の目で先輩を見ている俺に、フッと凄い良い顔をしておもむろに近くの木の死角に入り込みバンダナで作ったアレを目に当てて…。
「テレレレテレレレレーン♪」
あぁぁ、やっぱりだよ多分今の敵と遭遇した時のエンカウント音だよ…。
「へんたい が あらわれた。」
…そこにはバンダナで作った「ブラジャー」を目に当てて挙動不振な動きの先輩が居ました。
「へんたい は なかま に なりたそうに こっち を みている」
…さーて、そろそろ出発するよー☆
にこやかに存在を無視して山崎さんが立ち去ろうとするのを、斎藤先輩が追い縋る。
「待ってー山崎さん待ってー、俺全力出すからー次は絶対の絶対で俺等で頑張るからー。俺はまだ本気を出してないだけー。な、ヒロム?」
あぁぁ、やっぱり巻き込まれた。死んだ魚の目な俺をズリズリと木陰に引き摺りこみ、先輩が発した台詞はー
「脱げ
2人揃って上半身裸で現れたらインパクト倍増ワッショイだ☆そーら脱げ、やれ脱げドンと脱げ♪」
はいバンザーイと言いながら人のTシャツに手をかける先輩の手を必死で止めながら説得する。
せせせせせ先輩待ってー、大分待ってー練習場と違ってココ公共ー。他人様の目ェあるからぁー、リアルに変態が現れてるからぁー。
はっはっはー聞こえんなぁーと結局先輩にひんむかれ、木の裏から出て来た俺等の目に飛び込んで来たのはー
俺等以外全員乗り込んだブローニイバンが、サービスエリア出口を目指している所でした。
うわぁぁぁぁあああああん(泣)
脱いだ上着を着る間も無く小脇に抱えて、俺…人生で1番本気で走ったと思う。
車内は、エグエグ泣く俺の横で「アレはブラジャー違う、リボンじゃい」と笑顔でアイアンクローかます近藤さんと、「じ、じゃあ俺の最終奥義・社会の窓からウィルスンの指人形を…」なんて性懲りもなく宣う斎藤先輩でかなりカオスだったという事は、心の日記帳に油性マジックで書き込んだ挙げ句毎夜読み返してやろうと思います。
ちくしょう焼き肉旨かった(泣)