『罠』
「わたしの家って妖精が出るんですよ」
仕事中にも関わらず、お喋りに花を咲かせている女性たち。そんな楽しい雰囲気のなか、倉持美紀は真剣な表情で言う。
すっとんきょうな発言に、一緒にお喋りをしている女性たちは一瞬キョトンとした後、一斉に笑いだした。
「真面目な顔して何を言うのかと思ったら……。笑わせないでよ」
「え〜。ホントなんですよ」
仕事はできるがどこかポワンとした雰囲気の倉持さんは、同僚の女性たちの呆れた笑いに対して食い下がることをしない。
「だって、わたしの用意したご飯も食べてくれて、時々お土産も持ってきてくれるんですよ」
「…………えっ!? それって、どういうこと?」
倉持さんの一言で、お喋りの雰囲気が一変する。
「いつだったか、作ったお弁当をテーブルに置いたまま仕事に来ちゃったことがあるんですよ。で、その日、帰ったらあるはずのお弁当の中身が空っぽになってたんですよ」
戸惑いと不審の混じった空気が満ち、しだいに彼女を心配する空気に変わっていく。しかし、同僚たちの空気を察することなく、倉持さんはのほほんと続ける。
「不思議に思ったんですけど何となく気になって、それから何度かわざとお弁当を作って置いたままにしてたんですよ。そうしたら、綺麗に無くなっているんですよ。お弁当の中身が! もう、これって妖精さんですよね!」
「…………」
嬉々として語る彼女に、周囲は言葉を失っているのか誰も口を開かない。少し離れた場所で聞き耳をたてている俺も、内心ドキドキとしながら聞いている。
「それから毎日のように妖精さんのために作って置いているんですけど、たまにお土産も置いてくれるようになったんですよ」
満面の笑みで“妖精さん”について語る倉持さん。はっきり言って、周囲はドン引きだ。気持ちだけでなく、椅子を離し物理的に距離をとる人もいた。だが、それでも現実を見せるために忠告してくれる優しい同僚もいる。
「ねえ、倉持さん。それって……誰か家に入って来てんじゃないの?」
面と向かって真剣に不法侵入ではないかと注意されるが、彼女はキョトンとしたままだ。ああ、聞き耳たてているだけなのに、彼女にはハラハラさせられてしまう。
そうこうしているうちに時計の針が十二時を指し、職場から仕事の空気が消えていく。真面目に仕事をしていた人も、お喋りに興じていた人も揃って手を止め各々昼を求め動きだす。もちろん、仕事をしながらも聞き耳をたてていた俺も大きく背伸びをし、席を立った。
「真田。ちゃんと昼、食べてるのか?」
財布を手に歩き出そうとしたところで、突然声をかけられる。その声は机の上に弁当を広げた係長からのようだ。
「はい。食べてますけど?」
俺は手に持った財布を見せ、これから外に食べに行く旨を伝える。そう言いながら、チラリと係長の弁当を覗いて見た。どうやら奥さんが愛情込めて作った愛妻弁当らしい。弁当から外した視線が係長とぶつかると、ニヤッと目尻を気恥ずかしそうに緩ませた。その幸せ全開なニヤケ顔に、なぜかこっちまでが恥ずかしくなってしまうのを堪え、「美味しそうですね」とご機嫌をとっておく。すると、係長はさらに顔を緩ませていく。
「食べてるんなら良いんだけどね。なんか、最近痩せているようだから。ちょっと心配してたんだよ」
係長は俺の全身を、心配そうな視線で巡らす。特に気にはしていなかったが、たしかに最近体重が落ちたのか服のサイズに余裕ができていた。
「まぁ、独り暮らしですから食生活に偏りがあったりしますからね。気をつけるようにします」
「真田も早く良い女性を見つけて結婚すれば良いんだよ。奥さんの手料理を食べれば嫌でも太っちゃうからね」
係長は言いながらぽってりとしたお腹を叩く。言葉を真摯に受け止めようとしたのに、ノロケに当てられてしまった。「あはは、そうですね」と乾いた笑いが出てしまう。
これ以上、係長のノロケには付き合っていては、俺の貴重な昼の休息時間がなくなってしまう。係長が次の話題を振って来る前に、俺は適当に言って逃げ出した。
「倉持さんのお弁当って、いつも美味しそうよね」
時計とにらめっこして気持ち早めに歩いていると、甲高い声が耳に届き意識が持っていかれる。
「私、料理が好きなんです」
先輩に誉められた倉持さんが、嬉しそうに頬を緩ませる。そして、先輩に「どうぞ」と、自分のお弁当から玉子焼きを差し出し、自分も玉子焼きを箸で摘まみパクンと口に頬張った。ちょうど側を歩いていた俺は、倉持さんのお弁当を覗き込みゴクンと唾を飲んだ。
今日は玉子焼きとハンバーグか。
美味しそうなお弁当を横目に見ながら、俺は駆け足ぎみに職場を出ていった。
職場のビルを出ると、昼間の眩しい陽射しに目が眩む。しかし、外は太陽の力も及ばないほどに風が冷たく、外気に触れた途端に身体が震え、大きなくしゃみが出る。
うーん。やっぱり、痩せてきて体力が落ちたのかな? 最近、忙しかったからな。いつか有給とって、ゆっくり休みたいな……。なんてことを考えながら近くのコンビニに入った。すると、今度は逆に暖かすぎな暖房に顔が火照ってしまう。カッと熱くなる身体で店内を足早にぐるりと巡り、新製品のチョコを二種類手に取りレジに向かう。
精算を済ました俺はコンビニの時計を確認すると、さらに足を速め、ある場所へ向かった。
向かった先は、とある小さなマンション。迷うことなく目的の階に行き、ある部屋のドアの前に立った。一度、周囲を見回し、ポケットから鍵を取り出して鍵穴に差し込みゆっくりと回す。カチャリと開く音がし、同時に胸の奥が跳ねる。再確認のように入念にもう一度ほど周囲を見渡し、そろりと静かな部屋の中に入っていった。
向かったのは台所。そこにある冷蔵庫を開け、買ってきた新作のチョコを両方とも仕舞う。その代わりに取り出したのは、一つの弁当箱。
「さて、いただきますかね」
ダイニングテーブルについた俺は、胸と腹をわくわくさせながら弁当の蓋を開けた。少し大きめの弁当箱に詰められているのは、俵型のおむすびに玉子焼き。そして、小さめなハンバーグ。
「美味しそうだな」
ご馳走を前にゴクリと唾を飲み込む。「いただきます」と手を合わせ、先ずは玉子焼きを口に運ぶ。ほんのりと甘じょっぱい味が広がり、ご飯にも合う。そして、続いてハンバーグも一口。サイズ的にはお弁当に合った大きさで、物足りなさを感じる。しかし、冷凍品ではなく手作りという事実は、そんな不満など些細なものにしてしまう。
弁当の中身は、あっという間に俺の腹の中に消えていってしまった。
「ふぅ。ごちそうさま」
満足した腹を撫で、一服したい気分を抑え空になった弁当箱を洗う。そして、時計を確認して慌てて部屋を出た。
「それにしても、妖精さんかぁ」
会社への帰り道、昼休み前の倉持さんたちの会話を思いだし、思わず笑いが込み上げてしまう。
倉持さんの言う『妖精さん』は、実を言えば俺のことだ。もちろん、彼女はそんなことは知らない。俺と彼女の関係は、恋人どころか友人関係でもない。単なる職場の同僚にすぎない。同じ部署で働き、辛うじて名前を知るくらいの関係だ。
そんな俺がこうやって倉持さんの部屋に行って昼を食べるようになったのは、本当に偶然の出来事が重なったからだ。
数ヵ月前、偶然彼女の部屋を知り、これもまた偶然部屋の鍵を拾った。そして、ちょっとした出来心で合鍵を作って部屋に入った。……で、そこにあったお弁当を昼飯として頂いただけだ。そして、その日からなんとなく通いつめ、彼女が『妖精さん』のために用意した弁当を食べている。
彼女に対し下心なんてない。ちょっとした好奇心だけだ。だから、部屋に入っても弁当を食べるだけで、プライベートな部分には一切触れていない。そりゃ女性の部屋独特の甘い香りに惹かれないわけはないが、そこはグッと堪えている。
まあ、そうは言っても、他人の部屋に黙って入るなんて犯罪もいいところだよな。だけど、彼女は『妖精さん』なんて言って、斜め上な発想を持ち全然怪しんでいないし、せめてものお詫びとして、時々お菓子やらを置いて帰っているから問題ないよな。
なんて、自分を正当化しながら各々の職場に戻っていく人の流れに沿って、俺も明日の昼御飯に思いを馳せながら職場のあるビルに戻っていった。
◇ ◇ ◇
「あー。なんか、最近ダルいなぁ……」
身体に妙なダルさを感じ、手にしていた箸を弁当の上に置き、椅子の背凭れにぐったりと身体を預ける。そして、スンッと鼻をすする。
ここのところ、どうも調子が悪い気がする。冬になり外の風もすっかり冷たい。その一方で、室内は乾燥しながらも暖房の熱で暑い。この寒暖差に身体がやられたのか、鼻水が止まらないのだ。
「うーん。風邪でもひいたかな」
まだまだ若いつもりでいたが、もう三十手前だもんな。気分だけ若くても、確実に重ねられる老いには勝てないな……。
盛大なくしゃみの後、ティッシュで鼻をかむ。そして、鼻が通ったか確認するために思いっきり鼻から空気を吸い込んでみる。すぐ側にある弁当の匂いと共に、フワッと甘い香りが鼻腔に届いた。
「……何だろうな、この香り。お香かなんかなか? すごく惹かれる香りだな」
もう一度吸い込み、倉持さんの部屋に満ちる香りを堪能する。何とも言えない甘ったるい香りが、煩わしい怠さを引きずる身体を心地よいものにさせる。
「ああ、ゆっくりしている時間なんてないな」
良い気分に浸っていた視界に、ふいに入り込んだ時計を見て、俺は慌てて弁当をかき込んでいった。
倉持さんの部屋からの帰り道。
「あ、真田さん」
パタパタといった擬音が聞こえてきそうな足取りで、倉持さんが手を振りながら向かいの道路から走ってきた。
「あれ、どうしたの? お昼まだ食べてなかったの?」
彼女の手にあるコンビニの袋を眺め、首をかしげる。
「あ、これですか。これは、おやつですよ」
倉持さんはコンビニの袋に手を突っ込み、俺の方にお菓子の箱を突き出した。それはいつか見たチョコの箱だった。
「このチョコ、この前妖精さんが置いていってくれたんです。すごく美味しくって、気に入っちゃったんですよ、これ」
ほわんと笑い、カサリと箱を揺らし袋に戻す。
ああ、あのチョコを気に入ってくれたんだな。ちょっとしたお礼だが、喜んでもらえたなら妖精さんは嬉しいよ。……なんて、俺がその妖精さんだとは言えないので、嬉しさはそっと胸にしまい適当な言葉で返事をかえす。
「それはそうと、真田さん風邪でもひかれたんですか?」
「えっ? なんで?」
「だって。真田さん、ずっと鼻をスンスンさせてますもん」
倉持さんは心配そうな顔をして覗き込んでくる。
「あー。たしかに、最近ちょっと調子が悪いんだよね。すっかり寒くなったからね」
「そうなんですか。だったら、早く中に入らないと。こんな寒空で話しなんてしてたら、悪化しちゃいますよ」
倉持さんは俺の背に手をあてながら、ビルへと俺を押し込んでいく。
「真田さんの体調のことも考えずに、外で足止めしちゃってごめんなさい。あっ、私、風邪薬持っているんで飲みますか?」
「別に気を遣わなくてもいいよ。これくらいなら一晩暖かくして寝れば治るだろうから」
一応、遠慮するが、倉持さんは自分が引き留めたという負い目があるのか引き下がらない。
「いーえ。ダメです。風邪はひきはじめの治療が肝心なんです。それに、私って薬揃えは良いんです。だから遠慮なんかしないでくださいね」
「そうかい。だったら、お言葉に甘えて」
そう言うと、倉持さんはにっこりと優しく微笑みかけてくれた。そして、オフィスに着くなり駆け足で自分のデスクに戻り、引き出しから風邪薬を取り出して差し出した。
薬を受け取り給湯室に向かい、ふと倉持さんのことを考える。倉持さんは全体的にポワンとして、色んな意味で危なっかしい印象があったが、意外と中身はそうではないみたいだ。料理も上手で、仕事もそれなりにできる。そして、他人に対する気遣いもできる女性だ。少し天然な部分を除けば、理想的な女性だな。
「……それに」
スンッと鼻を鳴らす。薄くはあるが、心惹かれる甘い香りが届く。密着をしていた訳ではないが、スーツには彼女の香りが残っていた。
「……この香り……、やっぱり良いな」
妙な幸福感を感じながら、俺はしばらく服に残る甘い香りに浸っていた。
◇ ◇ ◇
「真田。お前、大丈夫なのかっ」
出社してすぐ、挨拶もなく係長が顔を強張らせ声をはりあげる。
「……えっ? どうしたんですか……」
「どうしたって……。昨日、無断欠勤したうえに、そんなやつれた格好で出勤してきたら心配になるのは当たり前だろっ!」
正面に立ち、なおも声を荒らげる係長。だが、無断欠勤とはどういうことだろう。
「……無断欠勤って。昨日は休みじゃ」
「何、言っているんだ。昨日は火曜だぞ、休日なんかじゃないぞ」
火曜……? 係長は何を言っているんだろう。変に思いながらも、携帯を取り出し日付を確認してみた。
「……あれ……?」
携帯の画面は水曜日を表記している。カレンダーを確認すれば、昨日は平日を示す黒字の『火』の文字。
何がどうなっているのか分からなかった。俺の頭の中では昨日は日曜日で、今日は月曜日の感覚だった。おまけに、今の今まで気付いていなかった会社からの不在着信が、ずらりと何件もあった。訳も分からず混乱する俺に、係長はさらに追い討ちをかける。
「真田、最近おかしいよな。仕事のミスも増えたし、たまに変なことも言うようになったよな」
「え……」
仕事のミスやおかしな言動? それさえ俺は気付いていない。
「それに……」
係長が心痛な面持ちで見据えてくる。
「その痩せ方は異常だ。お前、どっか身体が悪いんだろ」
ズキリと俺の腕に痛みが走った。視線を落とすと、腕が係長のがっしりと太い腕に掴まれていた。太いと言っても、係長の腕は俺とたいして変わらない太さだったはずだ。係長は最近太り始めていたが、それでもたいして俺と差はなかった。それなのに、今の俺の腕は係長よりも一回り二回り細く、まるで木の枝のようだ。体型も突き出た係長の腹でずいっと迫られれば、簡単に押し倒されてしまいそうなほどに薄く細くなっている。
「……えっ。でも……食事はちゃんと……」
ここまで言い、ふと思い出す。ここ最近、家にいる時は全く食欲が湧かず、何も口にしていなかったことを。俺が口にしていたのは、倉持さんが『妖精さん』のために用意していた弁当だけだった。
あの弁当だけが食べたかった。あの弁当だけが喉を通った。
あの弁当を思い出していると無性に食欲が湧き、あの弁当が無性に欲しくなり口内に唾液が溜まっていく。
「…………弁当……、食べたい……」
「はぁ? 真田、何言っているんだ」
無意識に口を衝いて出た言葉に、係長が眉をしかめる。
「真田。お前、今日は休んですぐに病院に行け」
「え……でも……」
「いいから行けっ。これは命令だ! 行かないと言うんだったら、無理やりにでも連れていく」
鬼気迫る言い方だが、なぜだか危機感が湧かない。どことなく、遠くで叫ばれているみたいに思考がぼんやりとしている。だけど、席に座ろうとしたところを係長に阻止された際、軽い衝撃にも関わらず踏ん張りがきかず、身体がふらついてしまったことには多少の不安は覚えた。
俺は席につくこともないまま、係長の指示にしたがい病院に向かうためにオフィスを出た。
「あっ、真田さん。おはようございます」
ビルを出ようとしたところで、出勤してきた倉持さんと鉢合わせた。彼女は笑顔いっぱいに駆け寄ってくる。彼女が傍に立ち、フワリとあの心惹かれる甘い香りが届く。無性に乾いた身体が、その香りに強く反応する。
「……あっ……お、おはよう」
意識してみれば、呂律も回っていない自分に気づく。甘い香りに惹かれながらも、ようやく自分の体調に危機を感じ始めた。
「真田さん。どこか行かれるんですか?」
「あ……ちょっと、病院にね……」
「えー、どこか悪いんですか?」
倉持さんは驚いたようだが、その様子はいつもと変わらない雰囲気だ。ポワンと、どこか浮わついた感覚で顔を覗き込んでくる。係長は青ざめるほどに俺の体調を危惧し、それを気に留めない俺を怒鳴りつけてきた。虚ろな意識のままなら、気にならなかったかもしれない。しかし、遠くにいっていた意識が、僅かながら戻ってきた今、俺は相反する二人の態度に違和感を覚えていた。
「あっ、そうだ。私、今日はクッキー作って来たんですよ。食べてくださいね」
俺の不審を気にする様子もなく、倉持さんは鞄からクッキーの入った包みを出してくる。……でも不思議だ。倉持さんの手作りなはずなのに、目の前に突き出されたクッキーには何の魅力も感じない。けっして、甘いものが苦手だとか言うわけではないのに。
「……いや、悪いんだけど。あまり食欲がなくて」
倉持さんの手作りクッキーが目の前にありながら、さっぱり湧かない食欲に、いよいよヤバイと感じる。受け取ることもなく、やんわりと断ると、
「やっぱり、ダメですよね。これ、みんなで食べる用なんで、入れてないですからね」
倉持さんはあっさりと諦め、明るく言いながらクッキーの包みを鞄に戻していく。
「……入れる? なにを」
俺の方は彼女の言葉が引っ掛かり、小さく呟く。
「真田さんは、やっぱりお弁当じゃないとダメですよね」
「…………えっ?」
弱々しかった鼓動がドクンと強く跳ね、眼前で微笑む彼女から目が離せなくなる。額にじわりと汗が滲み、玉になり流れていく。
その瞬間、冷たく強い風か吹き込み、倉持さんは「きゃっ」と小さな悲鳴を上げ俺から顔を逸らした。風が止み、乱れた髪を直しながら顔をあげた彼女は、いつものポワンとした笑顔だった。
「もー、今日は風が強いですね。あっ、私ったら、またこんな寒空に真田さんを引き留めちゃって!」
倉持さんは慌てて頭を下げる。そして、「早く、元気になってくださいね」など言いながら暖かなビルの中に入っていった。
俺は彼女の背を見送り震えていた。それは、体調の悪さからくる震えじゃなかった。おぞましい何かに囚われた、精神的な震えだった。
彼女は微笑んでいた。
普段は見せない闇を覗かせた歪な微笑み。全てを知りながら弄ぶ。そんな悪戯心も含んだ歪んだ微笑みだった。
【終わり】