スローライフとは
実はあんまり異世界関係ない気もする。
異世界に行ったらスローライフを送るのだという、意識の高い転生主人公さんはけっこう多いようです。
とはいえ、そもそもスローライフとはなんぞや?
ファーストフードに対するスローフードから派生した、大量消費社会にとらわれないゆっくりした生活様式を提案する思想らしいのですが、具体的に何をすればいいのかは特に定義されていないとかなんとか。
とりあえず、のんびり田舎暮らしとでも思っておけばよさそうです。
でもね、ただ田舎に住んでるだけじゃなく、自給自足をとか近くの野山で山菜や木の実を採ってとか言い始めると、全然ライフがスローにならないのです。とっても忙しいです。やること沢山です。
山菜を例にして考えると、まず山に入り山菜を採って、家に帰ったら可食部分を選り分け、アク抜き、調理。下手すると半日つぶれます。
じっくり手作業を楽しむという捉え方をするならうなずけるかもしれませんが、正直“スロー”という言葉がなにか間違ったイメージを持たせているのではとも思います。
自給自足や商売を目的としてこれを毎日となると、“優雅”“悠々自適”“のんびり”といった言葉からは遠くなってしまうのではないでしょうか。
あ、転生チートでいくらでもどうにでもなるとおっしゃる。なるほど、そうですか。
ひとつ思うのは、「異世界に行ったらスローライフしたい!」と言うのと「脱サラして農業したい!」と言うのって、なんか似てるよねってことです。
実際にそれがどんなものでどんな大変さがあるのかもよく考えずに、とりあえずかっこいいからとか素敵そうだからってイメージしかない感じが特に。
個人的には、大量消費社会がどうとか、ファーストフードがスローフードがとか難しげな思想に基づいた暮らしを意図して実践するよりも、自分のやりたいことをやっていたら、結果スローライフに当てはまるような暮らしになっていた、くらいのほうが健全だし楽しいと思うのですよ。
だから、転生主人公さんたちも、のんびり田舎暮らしをしたいくらいに言っておけばひねくれ者の筆者なんかに言いがかりをつけられなくてすむのになあって。
でも、田舎暮らしよりはスローライフのほうがかっこよく聞こえるじゃんですか。ごもっとも。
ここでひとつ、筆者がスローライフに疑問を覚えるきっかけとなった筆者の母の例を紹介してみましょう。
自然が好きで趣味多き人でもあったうちのママンは、
・休みの日には近隣の山や土手に出かけ、春は山菜を採ってきて、
・イチゴジャムを煮て季節の味を楽しみ、
・夏は梅干しを漬け、梅酒をはじめとする果実酒を漬け、
・ブルーベリーや庭で採れたブラックベリーのジャムを煮て、
・庭のハーブを使ったお茶や化粧水を作り、
・秋は木の実を採ってそのままたべる、あるいは栗ご飯にする、ムカゴを炊くなどし、
・冬は庭で育てて夏のうちにドライフラワーにしたハーブや山や土手で採ってきたアケビや藤のつる、ノイバラなどの実でクリスマスのリースを作り、
・ハーブのエッセンシャルオイル入りのせっけんやハンドクリームを手作りし、
・草木染めした糸や布で簡易の手織り布やパッチワークをたしなみ
――とスローライフを満喫しておりました。
では、先程の内容を注釈つきでもう一度お読みください。
・自然(笑)が好きで趣味多き人でもあったうちのママンは、
・休みの日には近隣の山や土手に(自家用車で)出かけ、春は山菜を(自分では食べきれないほど節操なく)採ってきて(あまりは周り中に押し付けたり結局捨てたりし)、
・イチゴジャムを煮て(あんまり大量に作るので大抵カビが生える)季節の味を楽しみ、
・夏は梅干しを漬け(梅のヘタを取るのも紫蘇の葉をもいでアクを抜いて揉むのは筆者とパパン、大量に作るので食べきれない)、梅酒をはじめとする果実酒を漬け(大量に作るので消費しきれない)、
・ブルーベリーや庭で採れたブラックベリーのジャムを煮て(採るのはパパン)、
・庭のハーブ(水やりも草取りもパパン)を使ったお茶や化粧水を作り(大量に作るので消費しきれない)、
・秋は木の実を採ってそのまま食べ、あるいは栗ご飯にする、ムカゴを炊くなどし(散歩がてら採ってくるのは筆者とパパン、栗の皮を剥くのも筆者とパパン)、
・冬は庭で育てて(水やりも草取りもパパン)夏のうちにドライフラワーにしたハーブや山や土手で採ってきたアケビのつる、ノイバラなどの実で(散歩がてら採ってくるのは筆者とパパン、たまにママンが自家用車で節操なく取りに行く。)クリスマスのリースを作り、
・ハーブのエッセンシャルオイル入りのせっけんやハンドクリームを手作りし(当然材料は手作りではない、使いきれない分は周り中に押し付けたり結局捨てたり)、
・草木染めした糸や布(散歩がてら草を刈ってきて染めるのは筆者とパパン)で簡易の手織り布やパッチワークをたしなみ
――と(趣味の内容だけ聞くなら)スローライフ(笑)を満喫しておりました。
しかも、これは毎週のように飲み会だの出張だのが入る激務の息抜きとして、忙しい生活の中のメリハリとして行われていました。超特急です。ちっともスローではありません。
あと、自然()のものを採りにいくのに車を走らせ、後のことも考えずにあるだけ採っていき最終的には廃棄、草木染め用の糸や布、クリームやせっけん用の各種オイル、ミツロウその他は金にものをいわせて大量注文。
なんというか、現代の大量消費社会を象徴するようなエピソードではないかと筆者は感じたりするわけです。
でもやってることだけ列挙したら、いわゆるスローライフでイメージされそうなことをけっこう網羅している気もするし。いったいスローライフって何?となったのです。
みなさんのスローライフ像って、どんな感じなんでしょうね。案外統一がとれてなかったりするのかもしれませんね。
ちなみに、この文章は、異世界スローライフへの疑問2割、めんどうなところはだいたい人まかせなくせに、自分ひとりで全部やったみたいな顔をして自慢してたママンへの恨みで出来ております。
こむるの友人は、ママンはスローライフ実践者ではなく、スローライフプランナーなのだと言っていました。
言い得て妙だなと思いました。