勇者召喚 3
水晶玉にはまず桜井が手を乗せた。すぐに彼は「おおっ!」と声を上げて嬉しそうにニヤニヤし出した。
ティアさんも嬉しそうに「聖剣使いですね!」と言っているから、二人には特別な能力とやらが分かったのだろう。
次に岩井が手を乗せた。彼は「やった――!!」と小さな声で叫んでいる。
ティアさんもニコニコ顔で「聖魔法ですね」と言っている。
「俺、聖剣使いだってさー」
「俺は聖魔法って出たよー。魔法だぜ、魔法」
「いいなぁ、使って見せてくれよ」
「後でな」
……などと桜井と岩井が浮かれて話している。
魔法かぁ……いいなぁ……。
「タケル様」
羨ましげに岩井を見ていた俺に、水晶玉を持ったティアさんが近づいて来る。
俺は偽名のバレる不安と特別な能力への期待を胸に、ゆっくりと水晶玉に手を乗せた。
『道案内』
突如、俺の頭に浮かんだのはそんな言葉だった。
「道案内?」
ティアさんも戸惑っている。
何で俺だけ、聖なんとかじゃないんだよ! しかも道案内って、そりゃあ俺は方向感覚はいいほうだが、特別な能力がそれって……。
もしかして、俺、巻き込まれ異世界人……?
「ああ! あなたは勇者様の従者の方なのですね!」
そんな声に顔を上げると、ティアさんが納得したような顔で頷いている。
従者って、そんな。
「いや、俺、たぶん巻き込まれただけなんで、元の世界に返してください」
道案内なんて能力で異世界を生き抜けるとは思えない。ここは潔く冒険を諦めて家に帰るべきだ。
ところがティアさんは困った顔で「できません」と首を振った。
「送還の魔法陣は存在しないのです」




