出発
おっさん宅で居候を始めて1ヶ月ほど経ったある日。
突然、おっさんが俺とキースに言った。
「ギルドの仕事で金も貯まっただろう。ヤマトの能力なら充分やっていけるだろうし、そろそろ旅に出たらどうだ」
その言葉に、キースは目を輝かせて喜んだ。
「ホントに!? 本当に旅に出ていいんだよね?」
俺はというと、正直ちょっと戸惑っていた。
ここでの生活にも慣れて、なんとなくこのまま過ごすのも悪くないと思い初めていたからだ。
しかしキースの喜びようを見ていると、旅に出たくないなんてとても言えない。
「ヤマト、今日は旅の準備をして、明日の朝出発しよう!」
キースが嬉しそうに言った。
そうして、俺たちの旅立ちの日は突如決まったのだった。
翌朝。朝食の後に俺たちは出発した。
荷物はキースが揃えてくれたけど、思ったより多くない。街道に沿って行くので、日が暮れる頃には次の町に着くから金と弁当と着替えがあれば大丈夫なのだそうだ。
俺の荷物に比べるとキースは解体用以外の武器を持ってる分だけ多いが、全然重そうじゃないのは鍛えているからか。俺も武器が欲しかったけど、使えないのに持っているのは危ないと言われてしまった。残念だが仕方が無い。いざとなれば解体用ナイフを使えばいいし、それに俺にはピーコがいる。
ピーコは今のところ、全戦全勝だ。猪に似た魔物のフンガも魔法の一撃で倒してしまった。ピーコが勝てないような魔物が出ないことを祈る。
ドランを出て5つ目の街がとりあえずの目的地だ。そこは冒険者の多い街で、仕事も多いから経験を積むのにうってつけだという。
今まで冒険者としてしてきた仕事は雑用がほとんどだし、収入の大部分はピーコが倒した魔物を売ったものだった。だから本当の冒険者の仕事をしてみたいとキースが強く主張したのだった。
5日目。何事もなく、目的地であるチヌスに着いた。
旅の資金は半分ほどに減っている。途中の町で美味い物を食い過ぎた。反省反省。
これから頑張って稼がなければ。
「まずは宿の確保だな」
「ギルドの近くがいいよね」
俺とキースはそんなことを言いながら宿屋へと向かっていた。もちろん、安くて、飯が美味しくて、二人部屋の空いている宿をナビさんに指定済みた。
「あの……」
どこからか声が聞こえたけど、俺たちに話しかけているとは思わずに歩いていると、今度は「あの!」と大きな声がしたので立ち止まった。
見ると17歳くらいに見える女の子が俺のことを見ていた。
「俺?」
「はい、あの、……あなたは勇者様ですよね?」
彼女の言葉に俺はドキリとした。まさか神殿の追っ手か!?
「勇者様、お願いです! 助けて下さい!」
なんか追っ手じゃなさそうだ。けど、こんな所で勇者とか言わないでくれ。
「とりあえず、別の所で話そうよ」
キースの提案に、俺たちは道の隅に寄って話すことにした。