初仕事
その後はピーコについて、おっさんに色々と聞いた。
「フィロ鳥は卵を孵した人間に懐く魔物でな。上手く卵を手に入れればいい従魔になるんだ」
それからフィロ鳥の能力についても教えてもらった。
「フィロ鳥は風の魔法を使ってな。フンガ相手でも勝てるぞ」
フンガというのは2mくらいの、山によくいる魔物だそうだ。
今日の料理にもフンガの肉が入っていたらしい。
おっさんは毎日のようにフンガを捕っているそうだ。
「とりあえず、おまえはうちで常識を学べ。でないと旅になど出せん」
それは俺にとっても好都合だ。
だけど、心配なことがある。神殿の追っ手だ。
「心配するな。神殿の奴らだって、従者一人をそう真剣に探さないさ」
そう言われれば、そんな気もする。俺、ザコ扱いだったもんな。
俺は安心しておっさん宅に居候することに決めた。
夜。俺はキースと同じベッドで寝ることになった。
狭い。しかし文句は言えない。
キースに申し訳なく思いながら、俺は眠りについた。
翌日。
俺とキースは麓の町の冒険者ギルドに来ていた。
俺の冒険者登録と、キースとのパーティー登録のためだ。
ちなみにここは神殿のあった街とは違う。神殿は山の北側で、こちらは東側だ。ここはドランという名前の町だそうだ。
冒険者ギルドに入ると、中は役場のような感じだった。
当然、絡まれることもなく、俺はキースに代筆してもらって(字は読めるが書けなかった)無事に登録を終えた。
登録名は本名の大和を使った。もちろん、名字は書かずに名前だけだ。平民は家名が無いのが普通らしいし。
こうして俺は念願の冒険者になった。ランクはFだ。
そして俺たちはFランク依頼の薬草採取をすることにしたのだった。
「こんな簡単に見つかるなんて」
キースが信じられないというように呟いた。
俺の能力で目的の薬草が苦もなく見つかったからだ。
「キース、これ根っこごと持って行くのか?」
俺はギルギリ草という薬草を掴んでキースに訊いた。
「……あ、それは葉だけでいいんだ」
そう言いながら、キースは慣れた手つきで葉をむしっていく。
俺も真似して葉をむしると、「傷めないように丁寧に」と注意された。
それからも俺が薬草を見つけて二人で採取していき、すぐに目的の量を集めてギルドに納めることができた。
「まだ早いから、もう一仕事する?」
キースに訊かれて、もちろん俺は頷いた。
「これなんかどう?」
キースが指さしたのは、猫捜しの依頼だった。
「いいんじゃないか?」
こっちの猫が俺の世界と同じかどうかは分からないが、ナビさんなら難なく見つけてくれるはずだ。
そう思って俺は依頼の猫を捜そうとしたが、なぜかナビさんが反応しなかった。
「あれ?」
「どうしたの?」
「いやー……その猫なぜか見つかんないんだよね……」
「それって、もしかして……」
俺が首をひねっていると、キースが何か思いついたように呟いた。
そして顔を寄せて、小声で「もう死んでるのかも」と言った。
それで俺は、ああなるほど、と納得したのだった。
依頼を受ける前に分かって良かった。
ほかには俺の能力が活かせる依頼が無かったので、俺たちは家に戻ってキースに狩りを教わることにした。
目立つからと連れて来なかったピーコのことも心配だし、とりあえず冒険者の仕事はしたし、俺としては満足だったがキースのほうはどうだろうか。
「俺に付き合わせてごめんな」
俺が謝ると、キースは驚いたように「何言ってんだよ!」と言った。
「俺はヤマトのおかげですげー助かってるんだから!」
「そう言われると、なんか嬉しいな」
ホント、俺が役立ってると思うと嬉しい。
「ヤマトのおかげで冒険者になれたし」
……冒険者扱いになったのがよっぽど嬉しかったらしい。
まあ喜んでくれるならいいけどな。