キース
「もうすぐできるよ!」
部屋の奥から少年らしき声が返ってきた。おっさんの息子だろうか?
「……息子さんですか?」
「おう。キースってんだ」
「失礼ですが、おいくつですか?」
「キースか? 13だ」
13歳かぁ……そんな年の子供を置いて旅に出るのは無理かなあ……。
「まあ、座れ」
おっさんに言われて、俺はテーブルに着いた。
おっさんも座って、俺をじっと見た。
「おまえ、アレだろ。家出して来たクチだろ」
おもむろにおっさんが言った。
「別に、家出したわけじゃ……」
「じゃあ何でそんな軽装で旅になんか出たんだ?」
「それは……これしか服がなかったから……」
「……ほかに何持って来たんだ?」
おっさんは俺のバッグに視線を向けた。
バッグの中に入ってるのは、ノートと筆記用具と、コート、マフラー、それに途中でもいだ木の実だ。
参考書や制服など必要のない物は神殿に置いてきた。
「父さん、できたぞ。客の分も用意すんのか?」
奥から少年が出てきておっさんに訊いた。
おっさんが「ああ」と頷くと、少年はまた奥に引っ込んでしまった。
おっさんも立ち上がって、「まあ、とりあえず夕飯を食おう」と言って俺の肩を叩いて奥に消えた。
部屋に一人になって、俺は正直に話をするべきか誤魔化すべきかと悩んだ。けど、結局は正直に話すことに決めた。
あのおっさんを誤魔化せるとは思えないし、仲間になってもらうなら全部話したほうがいい。
決心すると途端に気持ちが楽になった。
夕食は空腹のおかげもあって美味かった。
キースは最初は緊張していたようだけれど、そのうち慣れてきたのか俺がどこから来たのか、どこへ行くのか、色々聞きたがった。俺は正直に話すと決めていたので、訊かれたことには素直に答えた。
おっさんも時々訊いてきて、夕食の終わる頃には俺の事情は粗方二人に話してしまっていた。
「それなら俺と旅をしようよ!」
俺が仲間を探していると言うと、キースが目を輝かせてそう言った。
「ヤマトは冒険者になりたいんだろ? 俺とパーティー組めばいいじゃん」
「キースは冒険者なのか?」
俺が訊くと、キースは「まだ見習いだけど、ヤマトと組めば冒険者になれる」と言った。
詳しく訊くと、冒険者は15歳からじゃないとなれないが、10歳から見習いとして登録できるのだそうだ。そして冒険者とパーティーを組めば、見習いでも冒険者と同じ扱いになるのだという。
俺としてはおっさんとパーティーを組みたいんだが……。
「おじさんは冒険者になる気はありませんか?」
「俺は猟師を辞める気はねえよ」
やっぱりダメか……。
「俺じゃ不満なのかよ」
キースがふくれっ面になった。
「いや、そういうわけじゃないけど……おじさん、強そうだしさ」
それにナビさんの推薦だしな。
「俺だって強いぜ!」
そういうキースは16歳くらいに見えるし、実際、俺より強いだろうと思う。
ここはキースを仲間にして、ほかにも仲間を探すべきだよな。
けど、おっさんの許可がおりるだろうか。
俺の視線に気づいたおっさんは、「おまえが良けりゃ構わないぞ」と言った。
「じゃあ……キース、よろしく」
俺がそう言うと、キースは嬉しそうに「うん!」と笑った。