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夢∽現のリンカーネーション  作者: タナカつかさ
現実⇔夢。 プロローグ
9/41

閑話「巫女の事情、神の願い」

 鳥居の中、そこは本来現世から離れた神域とされている。

 境内、鳥居の中の神域。

 静まり返った本殿で、神様とその巫女は会談していた。

「……やれやれ。やってしまったのう」

「ミナカ様……」

 先程までの揚々《ようよう》と、飄々《ひょうひょう》とした気配は消えている。

 そこには、神に相応しき威厳と荘厳な気配が溢れていた。

「お主は悪くないぞ、ミコトよ。妾が言うておるのは……しかしまあ……ああいうのが好いのか?」

 からかうようでいて、超然とした神様の問い掛けに、命は顔を曇らせる。

 まるで目眩を覚えたように狐の半面を抑えて。

「……誰かに似ていたか?」

「……いえ、そんな筈は……」

 巫女は無言で首を横に振る。それはまるで頭の中の靄を払い除けるように。

 男の事を揶揄され物憂げなそれは、見る者によっては惚れた腫れたと勘違いさせたかもしれない。

 しかし、それとはまったく違った。

「……まあ、過ぎた事じゃ。それに儀式自体が失敗したわけではない。それこそ、あの少年が言ったようにの」

 そう、失敗などしていない。あくまで手続きに問題があっただけで、儀式自体は成功している。

 ただ、予定ではトリエとミーナ、そしてもう一人、この街を思う純粋な娘の願いを元に夢を繋げて、その思いに共感した勇者を選ぶはずだったが、丁度いい純粋な娘がいなかった。

 本来もう少し多いのだが、勇者が事が済んだら必ず元の世界に帰れるようにするためだ。幾ら願いを一つに濾しても強すぎる願いの結果、初代の勇者は帰れなかったのだ。

 二人程度なら、そして純粋な娘や男子であれば、そう難しい願いにはならない。

 異性で統一したのは、万が一、勇者が帰れなかったとしても心が繋がる娘がいるなら、勇者もほだされ慰められてくれるからだ。

「……しかし、才能も、知識も、取立てた運も持たず、心の内で己に素直な小心者、真に勇者というにはあまりにも平凡な者。特に善良でも悪辣でもない……そんな若者がどうして勇者に選ばれてしまったのかのう……」

 能力を度外視した精神面を観れば、人としては確かに間違えていないのかもしれない。

 少年は決して自分の好き勝手にやりたいことをやる人間ではない。その上でただ状況に従属するでもない。思慮深いとも言うし、臆病とも言う。人当たりは良いが、それも打算的であり、人並みである。

 ――そう誰にでも見えるだろう。

 けど彼が口先で、心の内で、どううそぶこうともともその魂は――

 面白い人間だ――決して己の分から変われない神から見れば。

 いや、人間の目から見ても、あれは《《変わっている》》のかもしれない。

 極々平凡に見えて、特異なところも無くて、しかし、個性が在る様に見えて、そうではない。

 そのどれでもあり、どれでもない、千遍万化――普遍的であり、不変に見え、そうあらず。

 とらえどころがない。特徴らしい特徴が無い。特別な何かが出来るようには見えないが、特別何かが出来ないようにも見えない。見る者が見れば、ちょっとした原石に、みえるかもしれない。

 結果的に普通に見える――

 そんな人間が何をできるというのか。

 そんな人間を、一体誰が願ったのか。

 それは、

「――なあミコト、お主は何を願っておった?」

「私は……」

 娘は黙した。

 儀式の性質上、娘たちは夢を見る。だから問う。

 それを問う声は、

「……どんな夢を見た? 怖い夢か? 懐かしい夢か?」

 神様としての威厳も、超然とした気配も何もない。

 子供をただあやすそれである。その声を聴き、娘は、

「……」

「……お主はこの世界をどう生きたいのじゃ?」

「……どう、生きたいのか……」

「そうじゃ」

 その言葉に、目の前の少女は目を逸らそうとする。

「……よく考えておくのじゃよ。――さて、ミコトにはどれ、今度男の誘い方でも教えてやろうかの。そろそろ大人の女として着飾りもせんとのぉ」

「……お母様」

 彼女は狐の半面の下、唇を引き結んだ。

 そして、

「……私は、まだそのようなこと……考えられません」

「……ふむ、まあ――好きおうた相手が出来れば、そのようなことは言えぬであろうがな……まだまだやや子じゃのお」

 命はそれを半ば無視するように、深々と座礼をし、そしてその場を後にした。


 神様はそれをただ眼で見送った。

 誰も居なくなった本殿で、寂し気に足を投げ出しながら呟く。

「……夢の中ですら、夢を見られぬ、か」

 嘆きとも、憂慮とも謂える。

 

 それは、誰に届くことなく、静けさの中に吸い込まれていった。

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