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夢∽現のリンカーネーション  作者: タナカつかさ
現実⇒異世界、「平凡勇者の町おこし」
21/41

「夢の現実、可能性の冒険」

「決闘?」

「ああ。彼女とのデート権を掛けて勝負して貰う」

 なんとなく分っていたけど、こうもストレートに自分の気持ちを表せるなんて。そこは素直に尊敬する。

 でも大迷惑だよ。でも彼は命さんの事が好きなのか。

 へえー。あれ、なに、ちょっと俺イラッとしてる? ははは。人の話聞かない感じがむかつくからだよな。好きな子と同じ顔して一緒に暮らして優しくされたりしたりしてるからってそんなつもりなんかない筈だよな?

 ――好きか嫌いで言ったらかなり好きだけど。

 いやいやいや――異性としてロックオンしてないし。

 人間としてとかベタな理由だから。いつもお世話になってるからとかそういう厚意的な好意だから。そう――家族みたいな――

 美人だぜ? 顔半分隠れてるけど。好きな子に似てる子を取られたくないとか? いやそれは違う。似てても彼女と彼女は明確に違う。

 ……ていうか、決闘?

「おい」

「え?」

「返事は」

「ああ……ごめん、意味わかんない」

 色々と混乱している。決闘? 決闘ってあれ? 

「単純明快だろう、彼女を掛けて俺と戦え」

「いや、むしろそっちじゃなくてこっちが、あれ?」

「……煮え切らない奴だな、早く返答をしろ」

「いや、そんなこと言われてもな……そこのお嬢様、面白そうに見ないで」

「いえいえ。恋の始まりを見ているのに何故笑わずに……クスクス、そ、それもピュア」

 なるほど、そう見えるのか。

 トリエはニヤニヤ口元を抑えて笑っていた。そして命さんも(えっ、そうなの?)的に目を丸くしている気配が仮面の下からする。顔は赤くない、動揺していない。決して喜んでいないので彼女にその可能性はないということか。

 ま、そうだよな? 幾ら苦楽をほんの少し共有しているからと言って、それだけで『特別な好き』になるとは思えない。

 それを理解した瞬間ほんのちょっと冷めた自分が居たことに驚いたが。

 問題はそこではない。

「いや違うから。マジ違うから――決闘なんて血生臭いもの挑まれてそんなものあるんだ的に面食らってただけだから!」

 背中合わせに歩き出して振り返ってズドン! 手袋を投げつけてサーベルでカキンカキンと打ち合わせて――

 どっちか死ぬよね普通に。マジなの? マジでそういう決闘なの?

「……命懸けんの?」

「いや、命さんとのデート権だけだ」

 本当だろうな? ならいいか……。

 いや。それだけじゃない。これは俺たち男二人の問題ではない。

 俺は命さんを見た。

 じっ。と、無言で返答を期待している――

 どう答えるのか、無表情ながら、何故だかとても不安そうに――

 心臓が共振した気がした。

 安心させなくちゃ――

「じゃあ却下で」

「何故だ!」

「そんなん普通にこんなこと命さん迷惑でしょ。あとこれ神様からのお達しだから。そういうのにしていい問題じゃないから」

「そんな常識的正論とか言い訳など要らない! 愛に対抗できるのは愛だけだ! 貴様の偽らざる愛を示したまえ!」

「おたくムード作りって知ってる?」

 無駄にカッコよく見え切ったところ申し訳ないが。それが出来なければ告白もデートもプロポーズもHも九九%失敗する。空気を読むというかそれを作るというか。

 幸せな二人に流れる空気って自然に醸し出されるだろう? ナチュラルに優しく出来ると言うべきか。自然に人を楽しませようとするとか幸せにするとかそういうことだ。

 こんなアホな状況で言うべきじゃない。さりげない日常生活中に告白紛いにポツっと言われたらグラッと来るかもしれないが。

「でもまあ言いたいことは分りますわね」

「まあね?」

「……」

 見捨てる気ですか? と言外に責められている気がするが。でも要するに、自分の恋路を邪魔するのなら正論ではなくそれに相応しい感情をぶつけて来い、と。まあこの男の言い分も分かる。

 しかしどうしよう、当然ながらそんなの分かるわけねえよ。

 今大絶賛、俺は俺の気持ちに気づいて動揺して迷走街道を爆進中だよ。

 好きな人の面影にぐらついてるだけじゃなく、彼女自身もちゃんといい子っていうか、ものすごい優しくていい子なのよ?

 いい子なのよ。責任を感じ過ぎるきらいはあったけど、でも――

 俺には別に。

「……じゃあ言いましょう」

「ほほう、ここで迷わないのかね」

「そりゃどこぞの優柔不断主人公じゃないんだから、きっぱりすっぱり言いますよ?」

「見上げた心意気――!」

「え? マジなんですの? マジでここで告白シーンなんですの!?」

「いやそういうわけじゃないよ」

あ、ヘタレるパターンだこれ――的な空気が辺りを支配したが。

「いや、おかしくない? なんで100%愛の告白になるの? 普通50:50でごめんなさいだからね? その間に保留とかキープとか恋人にはならずお試しでお付き合いがあるわけで」

「つまりそうすると」

「認めん! 認めんぞそんな奴が巫女様とデートだなんて!」

「父親か」

 まあそんな都合のいい付き合い、下心なしに善意的にそんな友達未満恋人未満の宙ぶらりんが許容出来るとしたらすごいが、それは冷めた目でなければ出来ないだろう。控えめに言ってあまり普通の人間ではない。試してもいい――なんて、善意ではなく高を括った考えだろう。聞き間違えれば前向きに検討しているのだが。

 相手の気持ちを汲むのならもう付き合っている、どうせ無理だというなら振っている。そんな選択が出来るのならある意味一番酷いだろう。

 とどのところつまり、そういうことだ。

 俺は多少恋愛至上主義――完璧に未練タラタラ片想いのそれだが、だからこそ分ることもある。

 曖昧なままにしておいて良い事なんてあまりない。だから、

「――まあ、はっきりと言うよ?」

 息を呑む。そこに居る面々が緊張と好奇心に塗れた。

 命さんは、特に背中に汗を掻いている様子だ。本当に気の毒だ。それに俺の為にもこの散らかった状況をそのままにするつもりはない。

 だって、

「……俺はいずれ自分の居たところに帰るから、この世界の誰ともそういう関係にはならない」

 シーン、とした。あれ? 期待外れだった的な空気が……。

 そしてややあって、あっ、って顔している。二人は忘れていたのかもしれないが、冷静にそういうことだ。

 うん、言ったよね? 二人とも、元の世界に好きな人いるって。しっかり言ったよね?

 大事なことを二度言わせんなよ(怒)! って社会人に怒られたことないのかな?

 それでも浮気するとか思ってんの? ちょっと迷走したけど。やっぱり彼女の事が一番気になってるし。

 そうじゃなかったら命さんには健全なお付き合いを頼んだかもしれないけどさ。

「――で! そもそも空気読まずに他人を困らせてる奴って人から好かれると思う?」

 ギロリ。

「うっ」

「ぐ」

 約二名、心当たりがある様子でなにより。

 俺、ラブコメの鈍感主人公より、周りの「全部わかってます!」的な友人やライバルの自分勝手な強引さが嫌いなんだよな。あれどう考えても主人公以上に自分が間違ってない的な良識気取りの自意識ナルシストあるだろ。 

……多分ブーメランじゃないよな? 当たり前のことを行っただけ――の筈。

 それはともかく。

 大概手の出し所間違ってんぞ? そうしないと話が面白くないからとかメタな理由は抜きにしてだ。

 人の恋話に口出すのってあんま好きじゃないんだよな。その愚痴を聞くぐらいならともかく。

「……この世界か。なかなかすごい覚悟だな」

「そこは置いといて。あとそれと、さすがに世話になってる人が迷惑そうなのも見捨てておけないから、とりあえず俺の居るところでこの人にそういうちょっかい出すの止めてくれる? 本当に個人的だけど迷惑だから。止めろって命令だからなこれ。今回のこれホント実はイラッと来てるからな?」

「う、す、すまない、周りを見ていなかった」

 よし。これで俺があの家で暮らす限りは安全だ。突撃してくることはないだろう。

 口約束だが。

「――うむ?」

「なにか?」

「世話になっている? 彼女に?」

「俺、今神社で神様の預かりなんで、必然的に」

「なに? ということは君は稀人マレビトなのか?」

「マレビト?」

「この世界に本当に偶然迷い込んだ異世界人の事だが、知っているだろう? そういう輩は勇者でもない限りは神様が管理することになっていて――」

「いやいや違う違う。神様が宿を貸してくれてるってだけ。ちょっと街興しでこの世界独自の文化や技術を使いたくて、一緒に済ませて貰ってるんだよ」

 そういうことにしました。今。まあ最初はハニートラップ回避だったが、いや、そんなところもあったが。それは他でも同じだ。

「……そうか。いや、街興し?」

「――そもそもそれでお伺いしたんですけどね」


「……なるほど、それで錬金術を頼りにな……」

「はい。出来ますかね?」

 彼の工房内に招かれていた。案外そこは綺麗に片付けられており、そこ此処に綺麗なガラス器具や炉のようなもの、遠心分離器にトンカチ。

 そして大仰なかまかまがある。

 そのわきの作業台と椅子に腰かけ、ベアマートはとりあえずまとめてみた【魔法の芋】の要望書に目を通していた。

 そして視線を上げ、

「まあ作るだけなら出来ないことはないな。だが――祭り当日までに数を揃えるとなると、最低でも一ヶ月、いや、二、三ヶ月は必要だぞ?」

「ああ、それぐらいなら平気ですよ。ていうかお祭りもちょうどそれくらいになるでしょうし」

 芋レシピの募集は街中だけだがもう掛けている。その審査や諸処の都合も併せてそれぐらい先が妥当と先日の会議で出ている。

「だが幾つか問題や懸念があるな」

「なるほど、で、それはどういったものですか?」

「大ざっぱに二つ三つ理由はあるが、まず問題①として作る人間の問題だな」

「人間ですか?」

「大ざっぱに言ってだが、この変わった芋を作る際一番簡単なのは、そういう料理として錬成することだ。これなら素材さえあれば安定して狙ったものが作れる。が、一々俺がすべての数を錬成ししなければならない――それでは俺が過労で死ぬ」

「それは間違いなく無理ですね」

労働基準法などなくてもやっちゃいけない。

 ただ労働時間の規制って、良い事のように思えるけど、働きたくても働けない、なんて問題も浮上するんだよな。単純に稼ぎたいというそれだけでなく。

 特に職場に入りたてのときは出来ない仕事をできるようにするまでの時間があるわけで、職場に残ってそれをやると雇い主はそこも労働時間として加算しなくちゃいけない。

 そういう自主的で健全なサービス残業もやりたくても出来なくなるのだ。職場でしか学べないこと、出来ない努力は多く「勤務時間内で仕事を出来るようにしろ」というのは思い遣りある真っ当な言葉だろう。暗に出来の悪い奴を辞めさせるために、あえて『練習させない』といういじめにも出来る。そのやり方の方が多い。

 それは余談だ。

「あ、でも他にも錬金術師がいれば――」

「居たとしても、自分のレシピを教えるわけにはいかないな。ただのレシピでもそこには法則性が存在する。それを研鑽してきた成果をただで他人に明け渡すような真似はしたくない」

「確かに、それはもっともですね」

「だから方法としては、錬金術を使った《《料理みたいなもの》》ではなく、全く新しい芋として錬成することになるだろう」

 それはどういうことか。

「ここで問題②だな。これは単純にレシピの問題になるんだが――」

ベアマートは作業台の上に様々な動植物の素材を広げた。

「品種として、植物として初めから作る以上は、その錬成が複雑になる――素材を混ぜ合わせるだけで料理みたいに存在したものを、最初から――芋そのものを作るわけだからな。かなり手探りになる上時間が掛る」

「一応そこそこ優秀な錬金術師の貴方でも?」

 トリエの微妙に辛辣な問いに彼は、

「当然だな。というより大概の錬金術師がそうだ。必要そうな素材を集めるだけ集めて、単純に組み合わせをしらみつぶしにしていくことになるだろう」

「ああ、普通の品種改良と変わらない手間と時間が掛るってことですか」

「そういうことだ。普通なら最低でも一年二年は確実に掛るぞ? 今回の祭りに合わせて一回限りならどうにかなるが」

 普通は十年、二十年掛けても当たりがでるかどうか。最低でも三世代通して同じものが作れなければただの突然変異というらしく新品種としては失敗らしい。

「そして問題③になるんだが、そもそもそんな変な芋、作れるような素材があるかどうかということだ」

「……あれ? 素材さえあればイメージ次第でなんでもできるって話じゃ」

「それは神の話だ。人の想像力には限界がある。この世界にある物には限りがあり、その中で得られる知識を元にして作られる以上、夢は無限ではなく夢幻ではない――極めて現実的な範囲に収まってしまう」

例えばと言いながら、彼は鉱物素材を一つ取り、手の中で見せつけるように転がしながら言い始めた。

「人の尺度では――例えば石をパンにすることは出来ない。錬成する素材が元になるんだ。仮にこれでパンが出来たとして、それは食べられると思うか?」

「食べられるわけがないですね……」

 ああ、素材を用いるってそういうことか。

在るもので、在る様にしか作れない。自由に組み合わせて新しいものが作れる反面、イメージ通りに作ることが難しいのだ。

 A+B=Cではない。見た目はあくまでCに見えても(A+B)なのだ。

「そこはまあ、うまい事必要のない要素を段階を経て取り除くかすればいいんだが……なんにせよだ。問題③の問題は根本的にそうじゃなくて――」

「相変わらず話が下手ですわね」

「やかましいぞ。その慎ましい胸に更にまな板を錬成してやろうか?」

「いや、話が逸れてるんで」

 咳払い、咳払い。

「そうじゃなくて、それを作るとして――夢の様な物質を作れる物質なんてあるのかい? って話だよ」

「なるほど、分ります……」

 ついさっきベアマートが言っていた、夢は無限ではなく夢幻ではない――極めて現実的な範囲に収まってしまう。

 つまりはそういうことだ。この場合は魔法のような芋のことだが。

 その辺にある常識的な物では常識的な物しか作れない――

 って、あれ? ということは――

「……ここに書かれている物のほとんどが、出来ないってことじゃ」


 考えてみれば、そうか。

 手の平から出す魔法と違って、そこにある物を素材として使う以上、想像だけで想像通りに出来るわけがない。

 現実の枷が嵌められる。

 思えば夢ってそういう制限があるよな、そこにある物に限られるっていうか――現実の夢って現実を元にして作られている。

 田舎町で見られる夢が公務員や都会に出ることであるように。

 何か物事を想像するにも構築するにも、まず先に物、情報ありきの世界在りきで、何もない所では思い描くことすらできない。町の人に募った【魔法の芋】の案も、大概現実にある物と、願望の組み合わせで出来ていただろう。

 芋の中チーズとか肉とか。

 漫画とかなら、世界最強とか、女の子にモテモテとか、ドラマチックな恋とか努力、友情、勝利の全国制覇とか。それだって現実に存在する物事の組み合わせで、現実に出来ないことを構築した――という制限がある。

 人が想像できることには限りがある。目の前に見えるもの、感じること、知り得たこと、様々な様々なもので出来ている。

 夢だって現実に支配されている。

 形――というそれだって空間や物質というものがあって初めて考えられるものだ。

 なんだっけ、光があるから闇が生まれた、みたいな?

 でもどうしよう、正直お祭りはこれが在るか無いかでかなり成否が分れる。

 今後の街の特産品としてもだ。正直伝統も技術もなしで覆せるとしたらこの魔法関連しかないと思ったのだが。

 だけど――

「いや、でも――花農家さんの【風の土】のような魔法物質はどうして作れたんだ?」 

 それを作れるような何かが、幻想的なものがこの世界にはあるんじゃないのか? 

でなければ科学的な原理無しで作動する魔道具とか在り得ないし。

 そこに気づいた瞬間、にやりと彼は笑った。

「――ああ。それを解決できるかもしれない物がある」

 ハッと顔を上げる。その先にはやけに自信たっぷりな顔のベアマートが居た。それに思わず期待してしまった。

 そこに付け込まれたわけじゃないけど。

「そこで君には頼みたいことがあるんだ」

「……なんですか?」

 そしてちょっと嫌な予感がしながら、どうしようもなくそれを確認する。出来ることならやるしかないと思った。いや、多少無理でもここは無理を通すべきだろう。

 そうすれば街興しにまた一つ可能性が増える。

 ほんのちょっと覚悟を手に入れた俺は、こう言われた。

「――君にはこれから、ダンジョンに潜ってもらいたい」

 

 そこには冒険の匂いがした。

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