彼女と趣味が合わない。
どうして二人は付き合ってる? どうして僕たちは一緒にいる?
彼女は変わっていた。雰囲気が違う。針みたいにオーラが出てるみたい。研ぎ澄まされていて、何やら高貴で、近寄りがたい。
同じ講義を受けていた。教授が几帳面で、席が決められていた。席がとなりだった。それだけ。話すようになって、なぜか気付いたら付き合っていた。たぶん僕も変わっていたのだろう。
性格だけではなく、彼女の趣味まで変わっていたと知ったのは、「ジューダス・プリースト」のアルバムを渡されたときだ。タイトルは「殺人機械」。何がなんだかわからなかったが、彼女は親しくなった人に布教しているらしい。
彼女はメタルミュージックの虜だったのだ。
パンク・ロックムーブメントの中にあって、古くなったハード・ロックの生き残りをかけた進化。それがヘヴィメタルだと彼女は熱心に語った。重厚なサウンドも悪魔崇拝もデスボイスも僕には無縁だったが、彼女のことは好きだったので僕は彼女の趣味に合わせて生活することにした。
ヘドバンのために髪を伸ばし、黒いTシャツに黒い皮ジャン、ピアスを開け、タイトなジーンズに、スタッドの打ち込まれたシューズを履いた。毎日メタル三昧。エレキギターまで買って彼女のために弾いた。
正直ツラかった。本来の僕ではないから。音楽性の違いというやつだ。それでも彼女のためだと思えば余裕でこなせると思っていた。
限界はある日突然やってきた。
その日、僕は彼女を自宅に招待した。独り暮らし。でも、下心はなぜかまったくなく、ただ集めたメタルのCDを彼女に披露したかっただけだった。
「一貫性がない。こだわりを感じない。薄っぺらい」
彼女はそう言い放った。僕はキレた。
パキ。パキ。
一枚ずつCDを割っていく。
「ちょっと……」
彼女もさすがに驚く。僕は構わず続ける。
「やめなよ!」
「ああ、やめてやるさ!」
僕は大声で言い返す。
「メタルなんてクソ食らえだ! こんなCDいらない! 僕はエグザイルが好きだ! AKBのみるきーみたいなふんわりした子が好きだ! メタル女子じゃない! ヘッドバンギングのために長髪にはしない! 白黒に顔面を化粧したりしない! キリストも呪わない! もちろんメタルフェスにももう行かない!!」
彼女は口を開けて呆然とする。僕はピアスを外す、穴は実は開いてない。
「スリップノットもブラックサバスもメタリカもジューダス・プリーストも!! 憧れてなんてない!! ギターの速弾きの練習なんてもうしないんだ!!!」
僕はそばにあったギターをつかみ、床に叩き付ける。粉砕とまではいかなくても割れた。壊してやった。結構高かったけど、もうどうでもいい。WRYYYYYYYYY!!!!
もう、僕たちは終わりだ。
「……素敵」
彼女は一言そう呟いた。
「え?」
「なんてメタル的なの! 今までの自分を捨てる、自己否定! 自己破壊!! しかも売れてるだけの音楽を完全肯定! メタルというものを知っていながら大衆文化に身を投じる! それは言うならば甘美なる堕落!! 人間性さえいらないというの?! ギターの破壊で見えたわ!! あなたこそメタルよ!!!」
「え、えーと……」
何がなんだかわからなかった。
「好きよ……。あなたも私のこと好き?」
「ああ、好きだよ……」
勢いに呑まれ答えている自分がいた。
そのあと、なぜか脱童貞させられた。なんだこれ?
今回の事件から得るべき教訓は、たまには本音でぶつかってみようということだ。それが円満の秘訣。うん、たぶん違うね。
恋愛って難しいよ?