冬華の力
茨木童子
平安時代に京を荒らしまわした伝説の鬼の一人であり、最強の鬼、酒呑童子の最も重要な家臣であったとされる鬼。
まぁ、異世界の住人であるミデアに、日本の鬼の名前などわかるわけがないから、わたしは好きに呼ぶように言ったわ。
「さてと、名乗り終えたのだから、そろそろ始めましょう。」
ミデアから一歩分下がり、戦闘体勢を取る。わたしは多分、笑みを浮かべてるのだろう。何せ数百年振りに暴れられるのだから。その相手が魔法師...昔風に言うなら術師を相手取れるなら申し分ない。
って、言う訳で先制行くわ。
「そい......やー......!」
そんな掛け声とは裏腹に、鋭い掌底がミデアの胸へと突き刺さり吹き飛んでいく。
「『絶華』」
それが、先程の業の名前。
体内の魔力を突き手の掌に溜め込み、対称に触れた瞬間にいっきに、対称に流し込み、体内から対称を破壊する業である。
しばらくして土煙のなかから、ミデアは口の端から血を流しながらも、立ち上がって来た。どうやら、咄嗟に魔法障壁で守ったみたい。だけど、構築が間に合わなかったのか薄い障壁しか張れず、わたしにその障壁事、打ち抜かれたのだ、ただでは済んでいないでしょうね。
今回はミデアが立ち上がって来れたのは、魔法障壁に阻まれた事と、冬華自身が余りある力の加減を間違え、ミデアを吹き飛ばしてしまい、魔力を本来の3分の1も流し込めなかった事が要因であった。
もっとも、ミデアも立ち上がれはしたものの、一撃で肋骨を何本も折られていた。本来なら、立ち上がる事はもちろん、呼吸すら辛い程の重症であった。
しかし、それが幸運である事をミデアは知らない。
何故なら、冬華が本気で『絶華』を放っていたなら、立ち上がる事すら不可能だったのだから。こうして、重症ながらも立ち上がる事が出来ただけ奇跡に近いのであり、それだけ鬼、ひいては『茨木童子』の力が規格外なのである。
立ち上がって来るミデアを見つめながら、わたしは、笑みが濃くなっていくのを感じる。
ああ......強者とはこういう者だ。ただの人間とは違い、一撃では終らぬ。
冬華の頭のなかで、いままで闘った者たちの事を思いだす。
無謀にも、何の力も持たぬ者たちが集団で討伐に来た事も、わたしの腕を切り落とした武士の事も、そして、わたしを封印した術師の事。
他にも、数多くの者たちを相手取り、京の都で暴れ回った日々。そんななかでも、術師は別格であり、数多くの仲間が討たれ、わたし自身も何度となく闘ったが、誰も彼も一撃で死なぬ猛者ばかりであった。
そんな彼らの事を思い起こしての笑みである。
強者との闘いこそ、彼女の喜びと言っても過言ではないのだから。
そこからも、冬華が一方的にに攻め続けた。ミデアも、かろうじて避けたり、魔法障壁を張れていたが、いかんせん冬華の力は規格外すぎた。
障壁は破られ、避けても打撃から生まれた衝撃波によって身体に傷つけていった結果、ミデアの身体と中庭は冬華に蹂躙され、ボロボロになっていた。
夜中にそれだけ大騒ぎをしていれば、警備兵や軍属が駆けつけて来る。
その中には彼女の姿もあった。
「フユ......」
そう、二冬の友人でもあり、ミデアの妹。王宮魔法士 ネムリア=フォーレストの姿も。