冬華
今回はかなり短めです。
ミデアは月明かりに照らされる中庭に立ち、今しがた殺した相手を見下ろしていた。ミデアが使用した魔法『黒死蜂の針』によって創られた黒い槍は、確かに二冬の心臓を貫いた。この魔法は低級魔法ながら威力・速度に優れ、魔法を使えない者には抵抗すらできないはずなのだが...
(だが、こいつはまだ生きている。)
殺したはずの二冬から魔力が溢れ出し、刺し貫いた胸の傷は徐々に塞いでいっているのがその証拠と言えるだろう。ミデア自身は、倒れる前に回復魔法を自身に掛けていたのだろうと推測するも、即死クラスの重体から蘇生する回復魔法など、聞いた事も見た事もなかった。
いくらミデアが王宮魔法師の末端とは言え、そのような魔法が発見、開発されれば嫌でも耳に入ってくるだろう。
だが、そのような報告は来ていない。ならば、異世界の魔法で在ろうと結論付け、二冬が回復しきるのを待った。
なぜなら、この戦闘の目的が二冬の魔法能力の把握である為、魔法を使い始めた今からが、むしろ本番なのだ。
まぁ、二冬が魔法師でなかったら、どうするか決めていなかったがそれも杞憂で終わったようだ。
やがて、二冬はゆっくりと立ち上がる。白衣と服の一部は出血により赤黒く染まっていたが、貫かれ破れた衣服から見える傷は完全に塞がっている。
だが、二冬はうつむきこちらを見ようとはしない。何かがおかしい。ミデアがそう感じ二冬に近寄ろうとしたが......。
「クスクス......二冬にはいきなり襲って来たのに、私にはずいぶんと慎重なのね。それとも、ただの小心者なのかしら?」
その声が聞こえると共に、ミデアは威圧感のような物を感じ取りバックステップで距離を取ろうとする。しかし、一瞬。そう一瞬目線が外れた瞬間、二冬は数メートルあった距離を埋めミデアの前に立っていた。
「あらあら......?、なにも逃げなくても。いきなり、逃げられると.....悲しくなるわね。」
その言葉とは裏腹に楽しげな笑みを浮かべていた。
いつの間にか、二冬の黒髪は白銀色に、瞳は深紅色に変化していた。ミデアには、それが色が変わっただけとは思えなかった。目の前の存在が先程まで逃げ惑っていた少女と同一人物とは思えなかった。
「お、お前は、いったい!?」
「わたし?わたしは冬華。昔の名前で言うなら......」
彼女、冬華はミデアを見つめながら続きを呟く。
「茨木童子よ」
次回は冬華VSミデアになる予定です。