戦えないこと
戦闘回というより二冬がやられる回です
魔法の練習をした夜。
食事を終え自室に戻ると、一通の手紙が扉の下に差し込まれているのが分かった。
こうなる予感はあったので躊躇なく手紙の内容を確認する。
「中庭にて待つ」
案の定、呼び出しである。差出人にも心辺りがある。彼であることはまず間違いないだろう。
正直、面倒くさい事だ。恐らく、向こうはヤル気だろうし。
たまらず「はぁ~」とため息をついてしまう。
こちらは波風を立てないようにしているというのに。
「しょうがない。」
そう呟き、白衣を手に部屋を出るのだった。
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彼は目を閉じ、まるで精神統一をするように月明かりに照らされた中庭にたたずんでいた。
成る程、準備万端見たいだ。
こちらとしては戦う気はなかったが、喧嘩を売られたのだ買ったうえで何倍にもして返すのが礼儀だとパパ...げふんげふん、父から仕込まれている。
仕掛けられたらやり返させてもらう。
「来たよ、ミデア。」
月明かりに照らされたミデアがゆっくり目を開く。
「俺が呼び出した事には驚かないのだな。」
「まぁ、こうなるかなとは予想出来てたしね。」
「では、なぜ呼び出されたかもわかっているのだろ。」
確かに呼び出される秘密はある。それをミデアが看破したのだろう。しかし、かくたる証拠がない状況ゆえに誰かに話す事も出来ず張本人である私を呼び出したのだろう。
しかし、こちらも正直に話すつもりはもちろんないので「なんの事」ととぼけてみる。
その態度が勘にさわったのか、語気が荒くなった。
「とぼけても無駄だ。おまえが魔法士なのはわかっている。」
いわく、魔法がない世界から来たと言うわりに魔法に驚いていなかった。
いわく、魔力の扱いになれた様子で苦もなく魔法を使用して見せた。
良くもまーそこまで見ているなと感心するよ。
確かに、ある事情から魔力の扱いに長けているし、魔法が実在するものだと言う事も知っている。
だけどね、それでも使いたくないんだ。
だから、今の私に出来るのは白を切る事だけ。
「魔法士?はっ、私がそんな者な訳がない。」
「強情な奴だ。ならば、力ずくでいかせてもらうぞ。」
彼の周りに黒く色づいた魔力が渦巻く。
『月夜に潜む愚蛇たちよ その牙をもちて我が敵を 拘束せよ』
その呪文が唱えられるにしたがい渦巻く魔力はいくつもの黒い紐のようにまとまりだす。
その呪文が示す通り、私を捕まえるための魔法なのだろうが、力ずくでいくとまで言ったのだ、ただ私を捕まえるだけの魔法なはずがない。
『月蛇たちの宴』
魔法名が唱えらた。魔法によって生み出された数匹の黒い蛇が私に向かって芝生の上を這って来た。
それを横に飛んで避けるが、蛇たちは私が居たところを通り過ぎると反転し再度、私に向かって来た。
追尾付きか、面倒くさい機能を編み込んでる。
ちっと舌打ちをし、追撃が来る前に立ち上がり次に備えるが、ミデアもそこまで甘くはなかった。
つまり、自動追尾の魔法を維持するかたわら、別の魔法を準備していたのだ。
『火の精霊 彼の者を 破砕せん』
彼の回りにいくつもの火球が現れる。つまるところ、あのポピュラーな炎魔法が出ると推測できる。
いやいや、普通に死ぬから。そんなの何発も直撃したら死ぬから。人間の炎に対性の低さ考慮してないな、あいつ。
通常、人体の20%が火傷すると重体とされる。50%で危険水準なんだ(70%で死亡確定らしい)。
いかに人間が火に弱いか解ると思うが、ミデアの奴、力ずくでわなく殺しに来ているよな、絶対。
この水準を知ってから私は、火は人に向けないと心がけていると言うのに。...まぁ、身内にはたまに飛ぶが、平然と打ち落としたり、返したりするような人たちだから問題はないと思う。
『火球弾』
......って、まず!?
馬鹿なこと考えてる余裕なんてなかった。
飛んでくる火球を慌てて横に飛ぶ事で避けるが、火球が地面に着弾した爆風によりバランスを崩し地面を転がってしまう。
その隙をつかれ、黒い蛇が右足に巻き付いてしまう。その蛇は実体をなくしたように消え、変わりに足に蛇を型どったような黒い跡が残った。
なぜ消えたと思う疑問もすぐさま知ることになった。自身の身をもって。
巻き付かれた右足に激痛がはしった。
視線を向けると黒い跡が意思をもったように動き、私の右足を締め上げていた。
その光景を見て私の予感があたっていたことを理解する。あの魔法はやはり私を捕まえる為の物ではなかった。むしろ、捕まえる方が副次効果だった。
これは呪いに分類される魔術。捕捉された部位を動かせば取り付いた蛇がその部位を締め上げ激痛を与えるというものだろう。
このまま動かし続ければ私の右足は蛇に締め壊されるだろうけど、それを危惧して動かなければ、他の蛇たちにも取り付かれ、あまつさえミデアからの魔法によって死はまのがれないだろう。
まさに絶体絶命的な状況だ。
この状況なら魔法を使えば助かるかもしれない。だけど、この力は使えないし、死ぬのはもっと論外だ。
なら、最後まで悪あがきをしよう。どうせなら、あの馬鹿の顔面を殴ってやろう。そうだ、そうしよう。
そう決意し激痛に耐えながら歩を進めるが....
スッ......
私はその場に倒れ伏せてしまう。
何が起きたか解らなかった。ただただ、身体が冷たくなっていくのが解る。
私の胸の辺りから血が止め処なく流れ出していく。震える手を胸に当てて見ると、親指程の穴が穿たれていた。
その位置は心臓。
時間とともに出血量は増え、助からない事を悟る。
死ぬことが悔しい。
だだそれだけを思い、私の意識は暗闇に堕ちていった。