訪問
俺は今、高級マンションの最上階にいる。
ここに来るのは3回目ぐらいだがいつ来ても落ち着かない。
中野と書いてある表札の前に立つとインターホンを押した。
中野というのは綾の苗字である。
しばらくするとドアが開き綾が抱きついてきた。
「ひっさしぶり! 会いたかったよ才覚〜」
綾はスタイルがいいもんだから柔らかい感触がはっきりと伝わってくる。
そんなことよりこいつ本当に引きこもりかよ。
綾は志帆と白神に目を向けた。
「志帆ちゃんも久しぶりだね…。でこちらの方は?」
白神は一歩前に出て挨拶をした。
「初めまして、私は才覚君の助手をしている白神茜と申します。」
「才覚の許嫁の中野綾です。」
白神と志帆が恐い顔をして俺の方を見てきたのでツッコミをいれた。
「なにが許嫁だ。変なこと言ってんじゃねぇよ。」
「ええー。幼い頃約束したじゃん。覚えてないの?」
「覚えてるも何も昔の記憶は全くないだろ。俺もお前も。」
「そうでした。じゃあ立ち話も何だし入って、入って。」
綾はテヘッと舌を出し部屋に入れてくれた。
席に着くといきなり本題に入った。
「今日、綾のところに来たのは映像化してほしい記憶があるからなんだ。」
「まぁそうじゃなきゃ来ないよね。で誰の記憶?」
「あるやつの記憶を志帆が見たんだがそれを映像にしてほしい。いけるか?」
志帆の能力は人の記憶を何枚もの写真のようなものにして見ることできる。
だが音声は聞くことができないので綾に頼みに来た。
「志帆ちゃんの能力で見た記憶を映像化か〜。たぶんできると思うよ!」
そう言い綾はまた別の部屋へと案内してくれた。
テレビやパソコンなどの専門の機器がたくさん置いてあった。
たぶん、いや絶対能力を使うための部屋だろう。
「とりあえず志帆ちゃんここに座って。」
志帆が席に着くと綾は右手で志帆の頭、左手でプロジェクトを触ると「ていっ!」と言い能力を使った。
終わるまで15分くらいかかった=15分間の記憶だということになる。
映像に映っているのはこの前の犯人とあの男の二人。
場所は暗くてよくわからない。
なにやらあの男が頼み事をしているようだ。
「あなたにやってもらいたい仕事があるんだ。やってくれるかな? いや必ずやってくれるだろう。」
そう言うとこの前の犯人の頭に手をかざした。
「お前の記憶をいじらせてもらうよ。今からお前は俺の言うことをなんでも聞く優秀な部下だ。こいつからデータの入ったUSBを殺してでも奪ってこい。」
「はい、わかりました。」
映像はここで終わった。
「予想はしていたがあの男も能力が使えるんだな。しかも記憶の改変か。やっかいだな。」
部屋が静寂に包まれた。
すると白神が口を開いた。
「そういえば、USBの中身ってなんだったの?」
「何もなかった。」
「へ? どういうこと?」
「たぶんすでにあの男の手にあって、俺らが奪ったのはダミーだったんだろう。」
ここで志帆が会話に入ってきた。
「でもあの男がUSBを取った時の記憶はなかったよ?」
「記憶改変だろう。あいつの能力を使えば会ったことを会ってないことに変えれる。」
今度は綾が質問してきた。
「じゃあ何で1回目会った時の記憶は変えなかったの?」
「たぶん俺らへの挑戦状だろう。」
ここで質問が途切れた。
「結局あの男の能力しかわからなかったか、いや能力がわかっただけでも収穫ありか。ありがとな綾。そろそろ帰るよ。」
「うん。力になれなくてごめんね。」
「んなことねぇよ。かなり助かった。あ、そうだ何回も言ってるが事務所に来いよ。綾が来てくれたらこれからも助かる。」
「うん! 考えとくよ。」
「才覚くーん。スーパーのタイムセールが終わっちゃうから早く行くよ!」
ついさっきまでシリアスな感じだったのに白神はもう夕飯のことを考えていた。
「じゃあな」
綾の家を出てスーパーに向かった。
「茜。ウチ、ハンバーグ食べたい。」
スーパーに行く途中志帆が急に喋った。
しかも志帆も夕飯のことを考えていた。
「わかった! 才覚君は何が食べたい。」
「何でもいいよ。」
「何でもいいが一番困るんですけど!」
(お前はオカンか)
俺の心の声だ。
「じゃあ俺もハンバーグでいいよ。」
スーパーでハンバーグの材料を買い。
事務所で3人で食べた。
次の日、綾が事務所に引っ越してきた。
あの男から手紙がきた。