消去
「白神! おい、白神!」
俺はあの男によって気絶させられた白神の名前を呼んだ。
嫌な予感がしていたので声が大きくなっていた。
「ん…。ここはどこ? あれ? 一緒のクラスの才覚君? 何で一緒にいるの?」
嫌な予感は的中した。
「白神、自分の名前わかるか!?
俺の名前は!?」
「だから才覚君でしょ? そんで私は白神茜。何で学校でも喋ったことないのに一緒にいるのよ? それにこの女性と女の子はどちらさまですか?」
どうやらすべての記憶を失ったわけではないようだ。
ここ最近、俺たちと出会ってからの記憶が消されたらいし。
俺と志帆は呆然とした。
綾はまだ出会ってそんなに経ってないが俺と志帆はけっこうな時間を共に過ごしてきた。
でも俺たちより白神の方が不安であろうと思い、あの男への苛立ちやら自分の無力さやらの後悔を我慢し状況を説明することにした。
「あのな白神、信じてもらえないかもしれないけど…」
すべて話すのに30分かかった。
白神は意外にも落ち着いていた。
「才覚君は記憶を消す能力をある男に与えられて、探すために探偵をしていて、私は助手をしていたのだがその男に記憶を消されたと?」
さすが学年一の秀才。
「まぁそんなとこだ。無理に信じろとは言わない。ただお前の記憶は必ず取り戻す。だから俺たちの側にいてくれ」
「確かに信じれるような話ではないわね。だけど私のここ最近の記憶が全くないのもおかしな話ね」
白神は「よし!」といい立ち上がり歩き出した。
「おい! どこ行くんだよ!?」
「どこって帰るのよ。こんな汚い工場にずっといるのなんて嫌よ」
「帰るってどこにだよ?」
「私は才覚君の事務所に住んでいるのでしょう? だったらそこに帰るしかないでしょうが」
俺は志帆と綾と顔を合わせた。
「早く帰るよ! 私の記憶のことで質問したいことがいっぱいあるんだから」
俺たちは顔を合わせたまま笑った。
記憶は無くなっているが、そこにはちゃんと白神茜がいたから。
「じゃあ帰りますか、我が家へ」
2人は頷きそのまま綾が喋った。
「茜ちゃん、先行っちゃったけど事務所の場所もきっと忘れてるよね」
確かにその通りだな。
あいつ頭いいけどバカだったな。
「ったく。追いかけるぞ」
すると志帆が裾を引っ張ってきた。
「才覚、疲れた、おんぶ」
志帆が両手を前に出しおんぶを求めてきた。
というかせめて文章にしろよ。
「じゃあ、私は先行って茜ちゃん止めてくるから。頑張ってね才覚パパ」
そう言うと綾は走っていった。
さっきまであんなことがあったのにどいつもこいつも能天気なやつらだ。
「ほれ。早く乗れ。白神を追いかけるぞ」
俺たちは廃工場をあとにした。




