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まぁなんだ、これが俺の冒険譚だ。  作者: TSO
第一章 〈光の花〉と〈闇の宝玉〉
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7

 ◇◇◇


「……ン、ンン……?」


 瞼の上に強烈な光が刺し込み、意識が強制かつ急速に眠りの底から引き上げられる。


(……朝か)


 カーテンの隙間から差し込む朝日から目を庇うよう、顔に手を当てながら上体を起こす。


「クッ!――ハァァーーー……ねみ」


 自然とそう言葉が漏れたが、実の処目覚めはそう悪くない。

 もう暫くこのままボーッとしていれば、頭の中にかかった靄もそのうちきれいに晴れるだろう……二度寝はしないで済みそうだ。


「……うにゅ」


 モゾモゾ……


「ん……?」


 思い切り猫背状態のままボーッとしていると、隣から俺以外の声と何かの動く気配が伝わってくる。

 ソレが一体何なのかは大方以上に予想が付くのだが、一応確認のためまだ半分程しか開かない目を横に向けて見ると――


「くぅ~~……」


 其処には案の定と言うか何と言うか、直ぐ隣で寝息を立てながら丸くなっているフールの姿が在った。


(……またか)


 俺はカーテンを閉じた薄明るい朝の一室で、半目のまま隣で眠る相方の姿をジーッと観察してみる。


「スピ~~……」


 まるで寝癖の見当たらない水色の髪が、カーテン越しの朝日をキラキラと反射している。

 閉じられた瞼から伸びるまつ毛は長く、小さく開かれた瑞々しい唇からは静かな寝息が漏れている。

 愛用のだぶ付いた寝間着の襟からは、白い首筋と右肩が何とも扇情的に剥き出しに成っており、何も知らない男が見ようものなら間違って欲情しかねない“無駄”な色気をかもし出している。


 見た目は小さな子供だが、“その手”の連中なら決して放ってはおかないだろう……もっとも、俺がコイツを襲うなんてことは、間違っても“絶対”にない訳だが。


 グゥ~~~


「……」


 別に二度寝していびきを掻いた訳ではない。腹の虫が鳴っただけだ。


 さっきからアホな事を考えていたお陰か、徐々に寝起きの頭がハッキリしてきた。おかげで昨日、結局あのまま寝てしまい夕飯を食いそびれた事を思い出す。

 フールが俺抜きで夕飯を食うとは思えないので、たぶん寝ている俺を起こしには来たのだろうが、どうやらそれでも起きないくらいに爆睡していたらしい。


 つまり俺は昨日、あれだけさんざん動いておいて、昼飯と夕飯の両方を抜いてしまった事に成る。


(そら腹も鳴るわな)


「……てい」


 ゲシ、ドテッ


「うぎゅ」


 未だ気持ち良さそうに寝息を立てるフールの奴を、ベットの向こう側へと蹴り落としてやった。


「あぅぅ~~……いたい~……」

「起きたか?」


 落ちた衝撃で目を覚ましたフールが、目を擦りながらノロノロと起き上がってくる。

 蹴り落としておいて何だが、謝罪してやる気は一切無い。毎度の事ながら、人の寝床に勝手に潜り込んでくるコイツが悪い。自業自得と言うものだ。


「ふわぁ~~……おふぁようございまふ……」

「お前なぁ、狭いベットが更に狭くなるから入ってくるなって何度言えば解るんだ?」

「うい……ごめんなふぁい……」


 果して、この台詞も何度聞いたことか……。


 人の寝床に潜り込んでくるたび、フールにはこうして言い聞かせているのだが、何故か一向にやめようとする気配が無い。

 もう子供じゃ在るまいし、ちゃんと専用の寝床を用意してやっているのだ。大人しく其処で寝ていれば、こうして毎朝俺に蹴り落とされずに済むものを……。


(しっかし、何でわざわざこんな狭いスペースに入って来ようとするんだ? 寝床が広い方がずっと良く眠れると思うんだが)


 昔、まだコイツと一緒に暮らし始めた頃は、こんな感じではなかった。

 何時からだろうか、コイツがこうして頻繁に俺の寝床に入ってくるように成ったのは。


 前に、もういっその事ベットを今の物より広くして、二人用に新調しようかとも考えたのだが、それだと何故か俺が負けた気になる。

 なので、未だこうして狭いベットを使い続けている訳だ。言ってしまえば、これは俺とフールの意地のぶつかり合。

 果してどちらが先に音を上げるのか……現時点でこの家の主たる俺が、この戦いに負ける訳にはいかないのである。


「ほれ、とっとと顔洗って朝飯の準備してくれ。いいかげん腹減って死にそうだ」

「うい~、じゅんびする~~」


 そう言って部屋を出て行こうとするフールだが、その歩みはまるで浮いているかの様にあっちにフラフラこっちにユラユラ。

 いつ壁や柱にぶつかるものかと見ているこっちがハラハラしてくる。


「ああホレッ、水場まで連れてってやるから」

「……おんぶ~」

「お前……ハァ、わ~たよ」


(結局こうなったか)


 ま、ここは二階で水場は一階だ。途中の階段から転げ落ちでもされたら、大惨事になってしまうかもしれない。

 幸いコイツを抱え上げるのはもう慣れているので、特に問題無く連れて行く事ができる……“幸い”か?


「スピ~~……」

「おいコラッ! 人の背中で寝るんじゃねぇよ!」


(ったくコイツは、このまま井戸に落っことしたろか!)




 ◇


「――んで、最後には仲良く川にドボン。だ」

「そっか~、だから濡れて帰ってきたんだね~」

「ああ。まさか一日に二度も川に落ちる羽目に成るとは思わなかった」


 下の水場で顔を洗いスッキリとした後、俺達は昨日俺が捕まえた泥棒鳥を、二人で美味しく頂いた。


「ごっそさん。あ゛~~食ったー食ったー」


 昨日、必死になって追い駆けていた時はなんとも憎らしかったものだが、こうして腹の中に納めてしまうと意外に外感慨深いものがある。ごちそうさまでした。


「うい、お粗末さま~」


 今朝の献立は――と言うか昨晩の献立なのだが、昨日俺が捕まえてきたあの鳥と、家に僅かに残っていた数種類の根菜をまとめて煮込んだものだ。

 長期間家を留守にいてたのでまともな食材なんてそれ位しか残ってはいなかったのだが……いや、なかなかどうして美味かった。


 我が家での料理担当はフールの奴だが、冗談ではなく料理こそがコイツの天職なのではないかと本気で思う。

 もし遺跡発掘で稼げなくなったら、二人で食堂なんかやるのも良いかもしれない。


(いや、そうするとあのマスター相手に喧嘩を売る事に成るのか……やめとこ)


 いっそ正式にあの酒場に就職して、合法的にあの店を乗っ取った方が元手が掛からないで済むのではないだろうか……うむ、検討してみる価値は在りそうだ。


「お前ってホント料理上手いよな」

「そう? 今回はあり合せばっかだよ~?」


 今しがた食った煮込み料理は、一見すると単純な調理法に思える。


 だが、具の鳥肉からは臭みなどは殆ど感じられず、それでも僅かに残った匂いは、加えられた香辛料の絶妙なバランスによって完全に打ち消されている。

 火の通り加減も申し分なく、肉も野菜もぜんぜん型崩れを起こしていないのに、口に入れるとトロリホクホクと崩れるのだ。

 鳥の出汁と根菜の甘みが融合したスープに、食欲をそそる香辛料の適度な香りと絶妙な塩加減が、具材その物の旨味を何倍にも跳ね上げている。


 作ってから既に一晩が経過しているが、それは寧ろ怪我の功名と言うものだろう。一度冷めた具材の中に、スープの旨味がシッカリと染み込んでいる。

 もしも具材の下ごしらえに少しでも手を抜いていたら、コレだけの材料でここまでの味を作り出すことは不可能だっただろう。

 単純な調理法だからこそ、料理の“前段階”こそが何よりも重要に成ってくる。正に“お手本”と言っても良い料理だった。


「いや、あり合せでコレなら十分だろ」

「そうかな~?」


 更に言うと、スープにすれば料理その物の“カサ”も増す。


 おかげで俺は朝の空きっ腹にも優しいその料理を、満腹に成る直前まで十分に堪能する事が出来た。

 色んなモノが抜け出て空っぽに成った身体の隅々に、力が漲ってくる感じがする。


 もしフールの奴が其処まで考えてこの料理を作ったとするのなら……我が相方ながら侮れん奴。


 ズズ~……


「それで、今日はどうするの? 何か予定ある?」


 椅子に座って食後のお茶を啜っていると、フールの奴がそう尋ねてきた。


「いんや、特に予定は無いんだが……どうすっかなぁー」


 まぁどうするかとは言っても、これから先の予定が酒場での“バイト”か遺跡での“発掘”の二択である事に変わりはない。

 だが、せっかく一週間ぶりにこうして我が家に帰ってこれたのだ。暫くはこのままのんびりと、羽を伸ばす時間があっても良いのではないだろうか。


(まぁ上手いこと切り詰めれば、あと一週間はこのまま暮らせるくらいの蓄えは在るからな)


 睡眠を取って満腹になったお陰か、昨日よりも随分と気持ちに余裕が出てきた。

 人間、生きる上で余裕は不可欠だ。余裕があれば思考が柔軟に成る。思考が柔軟になれば、遺跡内で危機的状況に遭遇しても即時の対応が可能に成る。


 俺も、常に余裕のある行動を心掛けたいものだ……もっとも――


 “一週間はこのまま暮らせる”と言うことは、裏を返せば“一週間しか暮らせない”という意味と同義である。

 幾ら心に余裕を持とうと、それだけでは懐に余裕は産まれないのだ。


 それを過ぎてしまえば、遂に塩と水だけの生活が始まってしまう。そうなれば発掘作業は暫くお預け、今後の選択はバイト一択になる。

 いや下手をすれば、昨日フールが言っていたようにそれこそ借金をして“夜逃げ”なんて事にも……。


 ウム、あまり余裕ぶってもいられないな。早急な対応と対策が求められる。


「むぅ……」


(本当にどうしたモンだか……)


「ねぇレイド~」

「ん、何だ?」

「予定がないなら~、一緒に買い物行ってくれない?」

「買い物?」

「もう食べ物がな~い」

「ああ、そうだったな」


 そうだった。さっき食った朝食で、家に残っていた食材を全て使い切ってしまったのだ。


 フールが開けた食料庫の棚には、調味料以外にはチーズやソーセージの欠片はおろか、野菜の切れ端やパン屑の一つすら残されていない。

 コレには流石に残飯を漁るネズミですら、そんな我が家に見切りを付けて実家に帰える有様だろう。


 ……ウム、早急な対応と対策が求められる!


「せめて二日分の食ベ物くらいは確保しておきたいかな~」

「二日分か……まぁ、それくらいなら大して問題ねぇか」


 幾ら家計が厳しいからと言って、流石にコレは必要経費だ。

 今の俺達にとって節制節約は大前提だが、人間食うものを食わなければ生きては行けない。

 食材の件もそうだが、生活に必要な物は最低限買い揃える必要がある。


「んじゃ行くか。ランプの油も足さなきゃなんねぇし」

「やった~。おっ買いもの~おっ買いもの~♪ レイドといっしょにおっ買いもの~♪」

「いちいちはしゃぐな」

「フッフ~~♪」


(聞いちゃいねぇな……)


 だぶついた寝間着を着たちっこいのが目の前でクルクルと回っている。


 まぁその程度の事で喜んでくれるのならそれで良いのだが、俺と二人で買出しに行く事の何がそんなに楽しいのだろうか……。

 単にコイツが買い物好きと言うのもあるのだろうが、そんな浮かれる程でもあるまいに……あ、察した。


(荷物持ち要員の確保だな。何だ、それならそうと言えば良いものを)


 フールにはなんやかんやで日ごろから世話に成ってる。

 なのでこの程度の頼み事なら二つ返事で了承してやるのだが、いかんせんコイツはそうそう俺に“お願い”と言うものをしてこない。

 お陰でたまの礼に何かをしてやろうとしても、何をしてやれば良いのか判らなくなる事がしばしばある。


「……悪ぃが、今回は余計なモン買う余裕はねぇからな」

「わかっと~わかっと~」


 いつもならその礼も兼ね買食いの一つや二つくらいなら奢ってやるのだが、今回は事情が事情だ。

 当然フールもその事は承知してるだろうが、念のため買出し前に一応釘を刺しておく。


「それじゃ~着替えて早速いこ~。早くしないと朝市終わっちゃうよ」

「ン? もうそんな時間か?」


 この町で一日の一番初めに開かれる市場――通称“朝市”には、その日の早朝に取れたばかりの新鮮な食材がズラリと並ぶ。


 インフレ気味の昨今、基本単価が下がることはまず無いが、そこでは通常なら決して店先に並ばないような品も売りに出される。

 形の悪い品だったり少し傷んでいたり一部が虫に食われていたりと、流石にそういった代物は相場の値段よりずっと安く買えるのだ。


 俺とフールの狙いは正にソレなのだが、何気に競争率が高く早めに行かないと売切れてしまう。

 今から支度をして家を出るとなると……まあギリギリ間に合うかと言った処だろう。


「よし! じゃあとっとと支度して出かけるか!」

「ういッ」


(なんだ、結局のんびり過ごせねぇのか)


「あ、レイド」

「あん?」

「これ~」


 支度をしようと部屋に戻る途中、フールが俺に何かを投げて寄こした。

 振り向きざまにソレをキャッチすると、俺の手には昨日鳥に飲み込まれた例のコインが在った。


「ちゃんと見つけておいたよ~」

「おう、サンキューな」


 さっき食った鳥を解体した際に取り出したのだろう。

 折角だ。ついでにこのコインの買い手についての情報も、同時に探してくる事にしよう。




 ◇


「うし、着替え完了」


 自室に戻り、買出しに行く準備を手早く済ませる。

 まぁ準備とは言っても着替えて金を持てばそれで済む。只でさえ金欠で買える物なんて殆ど無いのだ。特別に何かを持って行くなんて事は――


「――と、いけね」


(コイツを忘れる処だった)


 何やら腰の辺りが寂しいと思ったら、いつも腰に携えている短剣を差し忘れていた。


 この短剣。渡されたばかりの頃は少し邪魔とも感じたが、身体がデカくなった今では特に邪魔とも思わなく成った。今ではもう、腰に差していないとシックリ来ない。

 残念なことに短剣としては全く役に立たない代物だが、俺にとっては御守りのような物だ。


(親父からも、なるべく持ち歩くように言われてるからな……)


「あれ?」


 短剣を腰の後に差そうとした処で、短剣に何か妙な違和感を感じた。


(ちょっと待て……コレって――)


「ゲッ!!」


 気に成って鞘の部分を良く見てみると、ホンの僅かだが端の一部が欠けている事に気が付いた。


(チョッ! 欠けてるじゃねーか!!)


「うわマジかよ!? エーー? 何時ぶつけたんだこれぇ~?」


 昨日、遺跡内でコレを見た時はこんな傷は無かった。

 なのでこの傷は昨日遺跡から川に落ちた時か、或いは泥棒鳥との追走劇の際に出来たものだろう。


 あれだけの事が在ったのだ。いつの間にか何処かにぶつけていてもおかしくはない。

 いつも持ち歩いている以上、何時かはやるのではないかと思ってはいたが……遂にやってしまった訳だ。


「くっそ~、ヤッパとっとと売払っときゃ良かった……」


 この短剣は俺の親父がこの町から出て行く際、息子の俺にと残していった物だ。

 その翌年にはフールの奴が家にやって来たので、あれはもう四年も前の話になる。


 その頃はまだ、俺にはこの短剣のサイズは大きくて扱い辛かったのだが、短剣その物はそう悪い物には見えなかったので、親父にしては気前が良いとは思いつつ、素直に貰っておく事にしたのだ。

 しかし、短剣を貰った後に気が付いた事だが、実はこの短剣――


 扱いが難しい以前に、どうしても鞘から“引き抜くことが出来ない”のである。


 そのため短剣としてはろくに機能せず、最初はただのガラクタでも掴まされたものかと訝しんだこともあった。

 しかし、あの親父がそんな無意味なことをするとはどうしても思えなかった俺は、今でもこうしてこの短剣を手元に残してきたのである。


(ま、本当に金に困った時は、何の躊躇も無く売り払ってやる積りだったんだがな)


「――って、うん?」


 傷が付いた事による売り値の低下を悲観しつつも、他にも何処かに異状がないか短剣全体を確認していると――


(何だコレ……?)


 欠けてしまった鞘の内側に、外側とはまた違った“別の装飾”が施されているのが見て取れた。


(鞘の下に……装飾?)


「……まさか」


 その瞬間、俺の脳裏に閃くモノが在った。

 俺は机に近付くと、短剣を持った腕をそのまま大きく振りかぶり――


「――ッフ!」


 一切の躊躇なく、ソレを机の上に叩きつけた。


 ガシャーーンッ


 親父から譲り受け今迄大切にしてきたその短剣は、意外な程アッサリと砕け散ってしまう。


(……成る程な)


 俺はバラバラに成った“鞘の破片”と、その内側から現れた“ソレ”に視線を落とす。

 鞘の“内側”から現れたとは言ったが、中から出てきたのは抜き身の“刀身”ではない。


(コレが、今迄この短剣から感じていた“違和感”の正体か)


 この短剣を受け取った際、その瞬間からある種の違和感を感じ取っていた。

 刀身が鞘から引き抜けないと言うのも違和感の一つだが、そもそもこの短剣、その見た目の“バランス”が明らかに奇妙だった。


 短剣の“柄”の大きさに対し、“鞘”の大きさが釣り合っていない。

 短剣と言う割にはその刀身の厚みも幅も一周り――いや、二周りはサイズの大きい鞘が使われていた。


 かと言って刀身が鞘の内側でガタ付く事もなく、一時はこういうモノなのかと納得していたのだが……。


(まさか、こういうカラクリがあったとは……)


「ったく、玉ねぎの皮でもあるまいに」


 一体誰がこんな奇妙な真似をしたのかと思ったが、こんな事をする奴なんて俺の知り合いには一人しかいない。十中八九、親父の仕業だろう。


(でも親父の仕業だとして、一体何の為に?)


「レイド~? いま何か割れるような音が~」

「フール」

「え? わっ」


 鞘の割れた音を聞きつけ、様子を見に来たフールに金の入った袋を投げる。


「え? え?」

「買い物は一人で行ってくれ」

「……え?」

「スマン、少し調べ物が出来た」

「えぇ~~~~!?」


 滅多に使わない「!?」まで使い、フールの眉間に珍しく小さなシワが寄る。


「んな顔すんな。代わりに何か一つ好きなモノ買って来て良いから」

「うぅ~~…………わかったよ……」

「悪いな、荷物持ちはまた今度だ」


 よっぽど俺の荷物持ちに期待していたのだろう。悪いとは思うが、今の俺にとっては買出しよりもコッチの方が遥かに優先度が高い。


「(別に荷物持ちが居るから喜んでた訳じゃないんだけどなぁ)」

「ん? 何か言ったか」

「ううん、なんでもな~い」

「そうか、気を付けて行けよ。特に“ジジババ”連中にはな」

「も~、そんなこと言っちゃダメだよぉ。じゃ、行ってくるね~」

「おう」


 何やらボソボソと呟いているフールだったが、直ぐにいつものノンビリとした口調に戻ると、愛用の大きく丸い帽子を頭に乗せ、朝の町へと出掛けて行った。


 一人で行かせるのは多少気掛かりと言えば気掛かりだが、食材などの買出しは普段からフールの奴が一人でこなしている。

 なので買出しに関しては寧ろ俺より手際が良い位だ。心配することはないだろう。


「うし、じゃあコッチも始めるか!」


 フールが家から出掛けたことを確認し、俺は机の上に置かれたままのソイツ――“偽の鞘”の下から現れた、“本当の鞘”に収まった短剣を調べに掛かった。


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