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まぁなんだ、これが俺の冒険譚だ。  作者: TSO
第一章 〈光の花〉と〈闇の宝玉〉
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ここからが謎解きの本番・・・と、行くのかな?

 ◇


 〈トルビオ〉を出発してから二日、俺たちは無事〈アマス大鐘楼跡地〉へと辿り着いた。


「とうちゃ~く」

「ふぅ、意外と早く着けたな」


 〈アマス大鐘楼跡地〉は〈オグマ山岳地帯〉の麓に広がる〈オグマ森林地帯〉の中にある。

 普通に森の中を進むのであれば、徒歩なら到着まで凡そ五日~六日は懸かる道のりだ。

 だが、〈オグマ森林地帯〉には俺たちが船に乗った〈トラスビオ〉と〈トルビオ〉を繋ぐ一本の街道が通っており、〈アマス大鐘楼跡地〉はその街道沿いに存在する。


 今では殆ど使われていない街道だが、お陰で徒歩での移動である俺とフールでも、それほど苦労せずに目的地まで辿り着くことが出来た。


「しっかし、こりゃあ予想以上にボロボロだな」

「そ~だね~」


 密度の高い森を抜けたその先、開けた空間の至る所に昔の建造物らしき残骸が散乱している。


(聞いてはいたが、聞きしに勝る廃墟だなこりゃ……)


 壁や柱は崩れ、石畳の間からは背の高い草が生え、栄えていたであろう過去の栄華は、もはや廃墟の中央に立つ鐘楼を残すのみである。


「あ、ほらほらレイド~、ニワトリ~」


 中央の鐘楼へと向かっている途中、フールの奴がさっそく道端に例の鶏の石像を発見した。

 随分と劣化しているため、言われなければとても鶏とは思えない風貌になっている。


 ボキッ


「あ――」

「……おい」


 フールが物珍しそうに像を触っていると、摘んだトサカらしき部分があっけなく取れてしまった。


「……レイド、接着剤もってない?」

「ねぇよンなモン。良いから行くぞ、もう直ぐソコなんだから」

「うい~……ごめんね~」


 申し訳なさそうにトサカを元の位置に戻し、何度か振り返りながらも俺の後に付いて来る。


 そんなフールを引き連れ廃墟の中を進んでいると、俺も途中で幾つか鶏の石像や装飾を見付けることが出来た。

 多少興味を於そられたが、俺たちが今探すべきは鐘楼に有るであろう“出発点スタート”である一羽だ。

 関係の無いものまで気にしていては、直ぐに日が暮れてしまう。


「ここだな」

「わ~、おっきいね~」

「ああ、立派なもんだ」


 鐘楼の根元までやって来た俺たちは、鐘楼を見上げ感嘆の息を吐いた。


 高い。コレほど高い建造物は、現代の首都である〈王都ファルーゼン〉でもそうお目に懸かれる代物ではない。

 遺跡の周りは樹齢何百年といった背の高い木々に囲まれているが、この〈アマス大鐘楼〉の高さは更に頭一つ分飛び抜けている。

 例え森の中で迷っても、背の高い木に登って周囲を見渡せば、遠目にもこの塔の姿を見付けることが出来るだろう。


「気を付けろよ、瓦礫や破片が落ちてくるかもしれねぇからな」

「うい」


 確かに立派な塔なのだが、その表面は周りにある建造物と同じくボロボロだ。

 上の一部が剥がれて頭の上に落下しようものなら、怪我どころの騒ぎでは済まないだろう。


(でも鐘楼そのものはまだ丈夫そうだな)


 塔の表面はボロボロだが、壁に穴が開いたり鐘楼そのものが傾いたりはしていない。

 報告書には十歩程の直径がある塔と記されていたのだが、それはどうやら鐘楼の上の部分らしく、根元の方は更に広く大きな基礎でしっかりと固められている。

 周りも背の高い木々に囲まれているため、嵐などの風雨に晒されたとしても、恐らく今後百年以内に倒れたり崩れたりする心配はないだろう。


 この場所に暮らしていた古代の人々が、この鐘楼を重要視していた事が伺える。もしかしたら当時は、信仰の象徴とも言える塔だったのかもしれない。


「取り合えず入ってみるか」

「ういうい」


 俺を先頭に塔の中へと足を踏み入れる。

 中は薄暗かったが、採光用の小窓があるためカンテラを取り出す程ではなかった。


 一階の中央にまで進み上を見上げると、そこは頂上にまで繋がる大きな吹き抜けになっている。

 今は無くなっているが、昔はここに鐘を鳴らす為のロープでも吊るされていたのだろう。

 中央から周囲を見渡せば、壁には幾つか例の鶏の装飾が描かれ、入口の反対側には上に昇るための階段が一つある。

 足元には前に誰かがここで野営でもしたらしく、幾つか古い焚火の後が残っていた。


(まぁまともに風雨を凌げる場所なんて、この遺跡じゃここ位なもんだしな)


 もしかしたら、今日は俺たちもここで野宿をする事になるかもしれない。


「よし、一端ここで休憩だ。歩きっぱなしで疲れたろ」

「お茶飲む~?」

「おう。火ぃ起こしとけ、水汲んでくっから」

「ういう~い」


 ここに来るまでの道中で、そこそこの薪は集めてある。

 荷物の中にはまだ固形燃料はあるが、消耗品の現地調達は基本だ。無駄遣いはできない。


 薪を床に置きフールに火起こしを任せると、俺は近場にある川にまで水を汲みに出掛けた。

 川はこれまで通ってきた街道沿いに流れており、ここに来るまでにも何度か飲み水として利用させて貰っている。

 〈オグマ山岳地帯〉に水源があるのだろう。水質は思った以上に澄んでいて、自前で用意したろ過機を使う必要もない。


 持ってきたポットと水筒に川の水を汲み鐘楼へと戻る途中、ふと背後から妙な気配を感じた。


「――ん?」


 立ち止まって振り返るが、特に気になるモノは見当たらない。聞こえてくる音も、川のせせらぎや鳥の鳴き声くらいなモノである。



 野犬や盗賊の可能性もあるが、野犬だったらもっと大挙して押し寄せるだろうし、仮に盗賊だとしてもこの辺りの街道は滅多に人が通らない。

 そんな場所で誰かを待ち伏せをしていても、野党的にはこれっぽっちも旨みなどない筈だ。


(気のせいか……?)


 結局は気のせいと判断し、俺はそのままフールの元へと戻った。


「ほれ」

「ありがと~」


 汲んできた水をフールに渡すと、早速お茶用の湯を沸かし始める。

 俺たちは暫しの間、〈トルビオ〉で購入した好い香りのするお茶を堪能してから、鐘楼の調査を始める事にした。


「それで、どこから調べるの?」

「先ずは外側から見ていくか。手分けするぞ、お前は右回り、俺は左回りで外壁を調べる」

「うい」

「何か変わった所があったら言えよ」

「“かわったトコロ”って~?」

「ん、そうだな……一羽だけ向きが違ったり、叩いた音が違ったり、押したり引いたりしたら簡単に動いたり――って感じだな」

「触って良いの……?」


 声と表情に若干の戸惑いを滲ませるフール。どうやら石像のトサカをもぎ取ってしまった事を引き摺っているらしい。


「触らなきゃ調べられねぇだろ。俺たちは学者じゃねぇんだ。いちいちんなコト気にしてたらいつまで経ってもお宝なんか手に入らねぇよ」

「ん、わかった~」


(うむ、素直で宜しい)


「よし、じゃあ調査開始」

「りょ~か~い」


 そうして、先ずは鐘楼の外側から調査を開始する俺たち。鐘楼の入口から出て右に曲がるフールを見送り、俺も逆の左側へと向かう。


 因みに、休憩はしたが俺もフールも未だ背負った荷物を降ろしてはいない。

 通常の遺跡発掘でも、余程の安全が確保できない限り、俺たちは常に荷物を背負ったままで行動する。

 多少窮屈には感じるが、物資の調達が見込めない遺跡内では、道具はそのまま自分たちにとっての生命線だ。

 多少の窮屈で命が拾えるなら安いものだし、本当に荷物が邪魔に成った時はその時捨ててしまえば良い。


「さて、先ずはコイツからか」


 早速鐘楼の外壁に見付けた鶏の装飾を調べてみる。

 観察して、押して、引いて、叩いてみるが、特に変わったところは見受けられない。


(特に何もねぇか)


「ふむ、次――」


 そうして、次が終わったらまた隣の鶏へと、一つずつ順に壁の装飾を調べて行く。

 やがて入口の丁度裏側にまで来た時点で、逆からやってきたフールの奴と鉢合わせた。


「何かあったか?」

「ううん、特になかった~」

「そうか」


(外壁の装飾には何もないか……)


「因みに幾つ見付けた?」

「五つ~」

「俺も五だ」


 というコトは、外壁には合計で十羽の鶏が描かれている事になる。


(一応覚えておくか)


「……よし、んじゃ次は中だな。行くぞ」

「ういうい」


 次に塔の内側を調べるため、俺たちは再び中へと戻った。

 入口から中へと入り、先程と同じ要領で二手に分かれて調査を行う。今度は壁だけではなく、床や天井にも注意を払いながら鶏の装飾を調べる。

 観察して、押して、引いて、叩いてを繰り返しながら進み、入口の反対側にある階段の下でフールの奴と合流した。


「あったか?」

「ん~ん、さっきと同じ~」

「そうか……」


 どうやら、ここにもお目当ての“出発点ニワトリ”はないらしい。

 見付けた鶏の数はここでも合計で十羽。天井や床には描かれておらず、全て側面の壁に描かれていた。


「じゃあ次は二階だな」

「うい」


 そのまま階段で二階へと昇り、再び手分けして辺りを調べる。


「足元気をつけろ。吹き抜けから落ちるなよ」

「わかった~」


 二階から上の階は、皆一様に部屋の中央に吹き抜けの穴が空いている。

 淵には手摺りもないため、気を抜いていると強制的に一番下まで戻された後、そのまま上からの“お迎え”を待つ羽目になりかねない。


(内側も意外とボロボロだな。コレ一番上まで昇れるのか?)


 二階に昇って見上げると、天井の所々が崩れ落ちているのが見えた。つまり、三階の床に穴が開いているのだ。

 吹き抜けから他の階を見上げても、幾つかそんな穴が開いているのを確認することが出来る。


(途中で崩れなきゃ良いんだが……)


 そんな心配をしつつも、無事二階の調査が終了。

 だが矢張り、そこでもお目当ての“出発点ニワトリ”を発見する事は出来なかった。


「次だ」

「うい」


 その後も三階四階と順に昇りながら各階を調べて行く。

 途中、床が抜けて落ちそうになったり、無くなった足場を飛び越えたり、階段が崩れて壁をよじ登ったりと予想外のハプニングはあったものの、何とか六階まで全ての鶏を調べることが出来た。


 そうして階を昇って行き、現在はこの鐘楼の最上階である七階部分を調べている最中だ。


 コツコツ、コツコツ


「くっそぉ、コイツも違うか」


 鶏の装飾をハムの柄で叩き、その音が他と変わらない事に落胆する。


 この最上階に来るまで各階に十箇所、外壁にあった十箇所も含め計七十箇所。更に、今この階で調べた分も含めれば、合計で七十三箇所の鶏の装飾を調べた事になる。

 フールの奴と半々なので、実質俺が調べた数は四十近くでしかないのだが、その全てが外れたとなると流石に精神的に“クル”ものがある。


(まぁでも、一ヶ月前の“アレ”に比べりゃ可愛いモンか)


 こうして壁の装飾を叩いていると、一ヶ月前に遺跡に篭っていた頃の事を思い出す。


 あの時は狭くて暗い遺跡の中で、何千何百個という石積み一つ一つを何日も掛けてひたすら叩き続けたのだ。気が遠くなるどころの話ではない。

 しかも、その作業が漸く報われたと思ったら、手に入ったお宝は二束三文の薄汚いコインが一枚のみ。

 その後、立て続けに剪定蟹の大群に襲われたり、装備品の全を失ったり、崖から冷たい川の中へと飛び込んで命からがら逃げ延びたりと、正に踏んだり蹴ったりの状況だった。


 あの時の絶望感に比べれば、今の状況なんて蚊に刺された程度のモノですらない。

 実際こうして当時の事を思い出しただけで、生きる気力が湧くどころか逆に目減りしたくらいだコンチクショウ。


「ね~レイド、レイドってば~」

「ハッ! な、何だフール?」


 いかんいかん。思考が完全に明後日の方向に飛んでいた。


「全部調べたよ~」

「そ、そうか、ご苦労さん」


 この階に来てから俺はまだ三箇所しか鶏の装飾を調べていない。と言うことは、フールの奴には残り七箇所全てを任せてしまった事になる。


(ったく、何やってんだか……)


「それで、何か変わったところは無かったか?」

「なかった~。他とおんなじ~」

「そっか……はぁ……」


 これでこの鐘楼の一階から七階、外壁も含め全ての装飾を調べた事になる。

 なのに、親父の伝言にあった例の“出発点ニワトリ”らしき装飾は、どこにも見付けることが出来なかった。


(読みが外れたか? んなコトねぇと思うんだが……)


 腰のバックから伝言の書かれたメモを取り出し、もう一度その内容に目を通す。


 《大昔の〈トルビオ〉には二羽の鳥が居た》

 《一羽は空飛ぶ鶏、もう一羽は夜更かし梟》

 《太陽が好きな鶏は、夜明けに喜び唄を歌う》

 《太陽が嫌いな梟は、怯えて鶏の後に隠れてしまう》


「……やっぱ“鶏”意外にゃ考えられんのだが……」

「もしかしたら途中で見落としちゃった? また下まで戻る? 今度は調べる場所こうかんして~」


 確かにその可能性はある。しかし、アレだけ分かりやすく壁に描かれていたのだ、見落としなんてそうはないだろう。

 だが、見落としてはおらず、全ての装飾を調べて何もないとなると、親父の伝言に対する俺の解釈が間違っている事になる。


「うーん……?」


 グゥゥ~……


 そんな具合に頭を悩ませていると、盛大に腹の虫が鳴き出した。


(昼か、予想じゃあもっと長引くと思ったんだが……)


 目的の物は見付からなかったが、割と早めに一階から七階までを調べ終わることが出来た。


「取り合えず休憩にするか。フール、魚の日干し出してくれ、齧る」

「ういうい」


 背負っていた荷物を置いて床に座ると、俺たちは昨日買った魚の日干しを取り出し、二人揃ってソレを頭からガジガジと齧り始める。

 随分と雑な食い方だが、実はこの魚の日干しが長期の旅や発掘には重宝するのだ。


 手の平サイズの小魚なのだが、日差しによって徹底的に乾燥されているお陰で、身も骨も丸ごと食べることが出来る。

 かなり硬いので食い切るのに多少時間は掛かるのだが、噛んでいるうちに魚の旨味が徐々に口の中に広がるため、これで意外と飽きる事がない。

 サイズも小さく余計な調理をしなくても済むので、歩きながら食うことだって出来る上、魚丸ごと一匹分の栄養が取れて保存食としても優秀だ。


 勿論、ちゃんと調理して食べることも出来る。


「ンガンガンガ――」

「アグアグアグ――」


 何よりこうして噛み続けていると、考え事をする際に頭が冴えるのだ。

 なので俺は、食事けん頭の清涼剤として、よくこうして乾物を直接齧ることがある。


(うーん……絶対に鐘楼ここに有ると思うんだけどなぁ……)


 魚の日干しを齧りつつも、メモから視線は外さない。


 もし本当に今迄の解釈が間違っているとするのなら、また初めからこの伝言の意味を考え直す必要がある。

 だが現状では、他の解釈の仕方がどうしても思い浮かばない。そうなると、この文章に対する俺の解釈が間違っているのではなく――


(この文章の中に、まだ解けてない“謎”があると考えるべきか……)


 無論、まだこの文章の全ての謎が解けたとは思っていない。

 だが、そもそもコレはあの親父が俺宛に残したモノだ。一筋縄にはいかないと思ってはいたが、その認識自体がどうやら既に甘かったらしい。


(舐めんなよクソ親父、絶対解いて吠え面かかせてやる)


「ンガンガンガ――」

「アグアグ――あ、見て見てレイド、鹿の親子だ~。カワイイ~」

「君も少しは考えてくれないかなッ!?」


 本当に俺の相方様は、相も変わらずのマイペースである。


フール「レイドは“干し肉”は食べないの~?」

レイド「食わないコトはねぇが、魚の方が良いな。今回は海魚だが、〈メルトス〉では川魚の干物も齧ってたぞ」

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