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まぁなんだ、これが俺の冒険譚だ。  作者: TSO
第一章 〈光の花〉と〈闇の宝玉〉
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ちょっと重たい話に・・・なるのか?

 レビスト邸を発った後、俺は一人〈トルビオ〉の街角を歩いていた。


「はぁ……」


 果たして何度目の溜息だろうか。


 すでに時間帯は夕暮れ時。

 西向きの斜面に造られた〈トルビオ〉の白い街並みは、遠く水平線に乗った夕日に照らされ見事な朱色に染まっている。

 空も雲も海原も、そして空で羽ばたく海鳥すらもが朱に染まり、昼とはまるで違った色彩の街並みは、昼とは別の街に居るのではと思わせる優美な見応えがあった。


 しかし、徐々に水平線の向こうへと沈んで行く夕日と、暗く染まる空を見ていると、同じように自分の心も重く暗く沈んで行くように感じられた。


「……っと、いけね」


 そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか街の北側にまで来てしまっていた。

 〈波間の朽木亭〉を目指していた筈なのだが、知らないうちに通り過ぎていたらしい。


(なぁにやってんだか……)


 自分に呆れつつ直ぐ来た道を戻ろうとするのだが、気付けば今の心境と同じく足まで重く感じる始末。

 休憩がてら、俺は近くの階段に腰を下ろすことにした。


「……まぶし」


 今にも水平線の向こうに沈みそうな太陽だが、未だその猛威を失ってはいない。

 目を刺し肌を焦がす夕焼けから逃げるように、俺は建物の影へと身を隠した。

 日の光から逃れれば、路地を抜ける風が直ぐに肌に張り付いた熱を奪ってくれる。

 早く帰らなければまた夕食を食い逃すが、その涼風が心地よく、俺は暫くその場に留まる事にした。


「はぁ……」


 だが、そうして腰を落ち着けていると、別れ際にしたレビストさんとの最後の会話が否が応にも思い出されてしまう。




 ◇


「それじゃあ、資料ありがとう御座いました」


 玄関の扉を出た所でもう一度頭を下げる。


「すまないね、大したもてなしも出来ないで」

「いえ。お茶、美味かったです」


 俺の見送りには、さっきまでお茶を入れてくたメイドさんと、館の主であるレビストさんまでもがわざわざ玄関先へと出向いてくれた。


「レイド君、さっき僕がした話はあくまでお節介だ。そう重くは受け止めないでほしい」

「はい。助言、感謝します」


 そうは言われても、あの内容を軽く流して忘れられるほど俺も図太くはない。矢張り、自分なりに考えなければいけないだろう。


「だが、もし君が本気でパートナーを代える気があるのなら、また僕の所に来るといい。その時は、僕が君に劣らない実力を持った発掘者を紹介しよう」


 その提案を是非にと受け入れる事も、結構ですと断る事も、その場ではハッキリと口にする事が出来なかった。


「勿論、ただ遊びに来てくれるだけでも良い。もし君の相方が承諾するなら、一緒に来て貰っても構わないよ」

「あぁいや、アイツこの辺りの雰囲気が苦手で、余り寄り付きたがらないんですよ」


 正確には雰囲気“だけ”と言う訳ではないのだが、別にそれ以上詳しく説明する必要はない。


「そ、そうかい? 確かにこの辺りは少し敷居が高いからね……仕方ないのかな」


 すると、レビストさんは残念そうな表情を浮かべた。

 そんなに遊びに来て貰いたかったのだろうか? 結構寂しがりやな人なのかもしれない。


「それじゃあ、お邪魔しました」


 そう再度頭を下げてから、俺はレビスト邸を後にしようとした……のだが――


「……あ、そうだ」


 最後に一つだけ、どうしても気に成る事があったので、それをレビストさんに尋ねてみた。


「あのレビストさん。一つ聞いても良いですか?」

「ん、何だい」

「アリストの奴、なんで“女の格好”なんかしてたんです?」


 フリルつきの可愛らしいワンピースを纏い、俺を出迎えてくれた小さなアリスト。

 だが三年前に会った時は、確か“男の子”と紹介された筈なのだが……。


「……見たのか」

「え、ええ。最初に出迎えてもらいました」


 すると、途端にレビストさんの表情が硬くなった。

 見ると、後ろに立っているメイドさんも、何処か気まずそうに俺から目線を逸らしてしまう。


「あれは……妻の趣味でね」

「あ、そうなんですか……」


(これは、なんと返したら良いんだ?)


 良い趣味だとは言い難く、しかしあの格好が似合っていた事もまた事実。

 他人様の趣味をどうこう言えるほど俺も出来た人間ではないので、果たして何と返答したら良いものか判断に困る……。


「だ、だが勘違いしないでほしい、いつもは普通の格好をさせているんだよ。ただ、一種の発作のようなものでね。妻がどうしてもと……」


 “普通”というのは、“男”の格好と言う意味だろう。どうやら色々と事情があるらしい。


「えっと……なんかスミマセン」

「いや、良いんだ……」


 どうやら、俺は知らずにこの館の暗部に触れてしまったらしい。『知られたからには』――とか言われなくてよかった。




 ◇


「はぁ……」


 また口から溜息が漏れる。


(“新しい相方”……ねぇ)


 正直、考えた事もなかった。


 親父の奴が俺の前から姿を消してからの約一年間、俺はずっと一人で遺跡発掘を続けてきた。

 たまには遺跡の中で他のチームに協力する事や、どこぞのクランに勧誘された事も何度かある。だが、基本的には常に一人で発掘をこなしてきた。

 そして、それから先もずっとそうしてやっていく積もりだったのだ。


 だが、そんな時だ――フールの奴と出会ったのは。


(最初はアイツと一緒に発掘をする事になるとは、全く思ってなかったんだがなぁ……)


 以来、俺はフールと二人で発掘作業をこなすようになった。


 無論、最初から上手くやれていた訳ではない。

 フールはそれまで遺跡に入った事もなかったし、今以上に体も小さく体力もなかった。

 それに俺も、親父以外の人間と正式にチームを組むのは初めてで、お互い色々と勝手が分からず苦労したものである。


 だが、そんな諸々を乗り越えて、コレまでお互い上手くやってきた。

 出来る事ならこれから先も、同じようにやっていけたらと考えている。そしてそれは、フールの奴も同じだろう。

 だからこそ、アイツはこの旅に付いてきたし、俺もアイツを追い返しはしなかった。


(……でも、本当にそれで良いのか?)


 初めに一悶着あったものの、こうして未だ二人で旅を続けているのは、お互いの望みを優先した結果だ。

 だが、もし本当にフールのことを考えるのなら、アイツの要望を無碍にしてでも、これ以上の同行はさせない方が良いのではないか?


『これから先も、そのやり方は通用するのかい?』


 レビストさんの台詞が脳裏をよぎる。

 正直、今までの俺とフールのコンビを否定されるようで若干釈然としないが……その答えは“否”だ。


 あの人の言っていたことは、どれもこれもが正論だった。

 これから先、俺とフール双方の安全を考えるのなら、自分と同じかそれ以上の実力者とチームを組んだほうが良いのは確かだ。

 それも一人や二人の少人数ではなく、もっと多くの複数人で組むのが理想的。

 そんな連中がそう簡単に集まるとは思えないが、レビストさんの事だ、ひょっとしたらコネや資金にモノを言わせ、本当にかき集めてしまうかもしれない。


 だが後々のことを考えれば、その方がお互いの為になるんじゃないのか?

 今の想いばかりを優先して、そのせいで俺とアイツのどちらかが――もしくは、その両方が死ぬような事があっては意味がない。

 そう考えるのなら、この街でフールの奴と一度別れて、せめて今回の騒動の間だけでも、他の連中とチームを組むのもありなんじゃないのか?


「……ま、俺一人で決める事じゃねぇわな」


 しかし、こうして一人ウジウジ悩んでいても仕方がない。ことは俺一人の問題ではなく、フール自身の問題でもある。

 それに、俺はフールの奴と約束したのだ。もしまた勝手にアイツを置いて行くような真似をしたら、今度こそ愛想を尽かされてしまう。


「さて、と」


 休んでいる間に夕日は既に半分ほどが水平線に沈み、周囲も大分暗く成ってきた。そろそろ帰らなければ、本当に晩飯を食い逃してしまう。


「……あれ?」


(そういえば、この辺りって……)


 腰掛けていた階段から立ち上がり、宿へ戻ろうと何となしに周囲を見渡すと、僅かだが周囲の光景に見覚えがある事に気が付いた。


(……ちょっと、寄ってみるか)


 俺は予定を変更し、記憶を頼りに路地の奥へと足を進めてみる事にした。


「確か、コッチの方だったはず……」


 特に何か用事があった訳ではない。

 ただ、今抱えている悩みの内容と、ここで昔起った思い出の内容に多少の繋がりを感じたので、何となく立ち寄ってみる気になっただけだ。


(ここは、三年前とは随分と様子が変ったな……)


 暫く進んでいると、思った通りそこは前に来たことのある場所だった。

 だが、周りに建っている建物などは、三年前とはその景観が随分と様変わりしていた。


 ここは街の北端で、三年前はどの建物も寂れた雰囲気が濃く、道もまともに整備されてはいなかった。

 しかも当時はそこかしこに浮浪者が徘徊し、とても治安が良いとは言えない区画でもあったのだ。

 地元民でもない見知らぬ人間が足を踏み入れれば、大抵はガラの悪い連中のカモにされるような場所だった。


 だが今は道も綺麗に舗装され、周りの建物の壁もしっかりとした物に変っている。恐らく、街の発展に合わせて区画整理でもされたのだろう。

 大まかな地形に変わりはないが、その見た目と治安は随分と改善されたらしい。

 とは言え、街の中央や南側に比べれば、決して治安が良い場所でもない。


(ま、この手の場所は何所にでもあるわな)


 事実、たまに路地で擦れ違う連中の殆どは、どいつも何処か物騒な雰囲気を漂わせている。


「ん?」


(今のって……)


 うろ覚えの記憶を頼りに細い路地を進んでいると、前方の十字路をスッと横切る人影が見えた。

 路地は狭く、日もそろそろ水平線に沈む頃合だ。お陰で周囲は薄暗く、その人物の姿をはっきりと確認することは出来なかった。

 だが、あの分かり易く、それでいてこの場にそぐわない白と黒の燕尾服には、つい最近見覚えがあった。


「セイゼルさん……?」


 ほんの僅かな間だったが、俺にはその人影がレビスト邸で俺を出迎えてくれた、あのセイゼルさんのように見えた。


(何でレビスト邸の侍従長がこんな所に?)


 レビストさんの館は街の反対側だし、富裕層の暮らす高級住宅地に勤めている彼が、こんな物騒な場所に用事があるとも思えない。

 小走りで十字路に近づき、その人物が消えていった先を覗いてみたのだが、そこにはもうセイゼルさんらしき人物の姿は見当たらなかった。


(見間違いか?)


 まぁ仮にセイゼルさんだったとしても、何か個人的な用事でもあったのかもしれない。下手な好奇心で首を突っ込んで、厄介事に巻き込まれるのは勘弁だ。

 それに、今俺が向かっている先はさっきの人物が“出てきた側”だ。わざわざ追い駆けてまで真相を究明する積もりはない。


 俺はそれ以上の事は特に気にせず、路地の更に奥へと向かう事にした。


「んん?」


 やがて一番奥の突き当りにまで辿り着くと、今度はそこでさっきの人影以上に意外な人物と遭遇した。


「あ、レイドだ~」

「フール!? おまっ、こんなトコで一体何やってだよ!?」


 意外も意外。まさかこの場所で悩みの元である相方に遭遇するとは思わなかった。

 さっきも言ったが、この辺りは決して治安の良い地区ではないのだ。

 俺は慌ててフールの奴に近づくと、無事かどうかを確認する。どうやら特に怪我などはしてない様子。


「ん~、ちょっと確かめにね~」

「“確かめに”って……」


 “何を”――とは聞かなかった。


 コイツがここに来た理由に、俺なりの心当たりがあったからだ……いや、“心当たり”というより、それはもはや“確信”に近い。

 寧ろコイツがここに来る理由なんて、“ソレ”意外には考えられない。


 一体いつからそうしていたのか、フールは特に何をする様子もなく、舗装された道に立ったままジッと路地の突き当たりを見詰めている。

 その表情にはいつもの気楽な笑顔は無く、ただ目の前にある光景を、坦々とその瞳に映しているだけでしかなかった。


「お前――」


 周囲は大分暗くなっている。見上げれば、建物の隙間から覗く紫の空に、少なからずの星が瞬き始めているのが見て取れた。

 こういう場所は、暗くなればそれだけで危険度が増す。

 本当なら、今すぐにでもフールの手を引いてこの場を離れたいところなのだが、その横顔を見た途端、俺はコイツにそれ以上の言葉を掛ける事が出来なくなった。


「……ホントはね」


 そのまま暫くフールの隣に立っていると、やがてフールが呟くように口を開いた。


「やっぱり、ちょっと不安だったんだよね」

「だろうな」

「あ、やっぱり分かっちゃった?」

「口ではどう言ってたって、お前がここに来るなんてこれっぽっちも思わなかったよ、俺は」


 本当に嘘偽り無く、コイツがこの場に来ているとは、まったく予想していなかった。寧ろ、全力で避けるものと思っていたくらいだ。


「でもね~、来ちゃったんだな~」

「……大丈夫か?」

「うん、思ったより平気~」

「そうか」


 その声音には、確かに無理を隠しているような様子はない。

 だが、その胸中に渦巻いているであろうコイツの想いまでは、俺には理解できそうにはなかった。


「レイドは覚えてる? ここでのコト」

「ああ。最初は野良犬でも居んのかと思ったが、出てきたのは薄汚れた濡れ鼠だったからな。あのインパクトは忘れられねぇよ」

「あ~、ヒドイな~」


 そう、忘れる筈がない。


 三年前、親父の手紙でこの街に呼び出された俺は、レビスト邸から宿屋への帰り道、不覚にもこの路地へと迷い込んでしまった。

 見るからに治安の悪い場所から抜け出そうと焦っていると、やがて雨まで降り出し全身ずぶ濡れになる始末。

 自分の不運を呪いながらも足を止めず、さっきの十字路を曲ってそれでもここから抜け出せなければ、最終手段として屋根伝いに宿まで帰ろうとすら考え始めていた、その時――


 丁度この場所で、蹲っていたフールの奴と出くわしたのだ。


「いや~、レイドに拾われてラッキーだったよ~。もしあのままだったら、間違いなく死んでただろうからね~、ボク」

「お前はラッキーだったかもしれんがな、見付けたコッチは大慌てしったっつーの」

「あははー、ゴメンね~」


 などと、倒れていた当の本人は軽く笑い飛ばしているが、俺たちの出会いはそんなお気楽なモノではない。


 “着の身着のまま”なんて控えめな表現ではなく、フールが纏っていたのは文字通りの薄汚いボロ布一枚のみ。

 本人もそのボロ布に負けない位に汚れており、雨に打たれたせいか全身は小刻みに震え、顔には殴られたような痕まであった。

 唯一、その紫色の瞳だけが宝石のように綺麗だった事を覚えているが、その時のコイツの瞳には、“怯え”と“諦め”にくすんだ光しか宿っていなかった。


 まるで状況が飲み込めなかったが、明らかに衰弱しているコイツの姿を見た俺は、大慌てでボロ布ごとその小さな体を抱きかかえると、今迄さんざん迷っていた経緯も忘れ、大急ぎで自分の泊っていた宿へとひた走ったのである。

 それまでは右も左も判らなかった筈の道程だったが、コイツを抱えて走っている間は、不思議と道には迷わなかった。


 連れ帰った宿でコイツから詳しい事情を聞いたところ、本人は奴隷商から逃げ出してきたとのこと。

 しかも家や家族、自分の名前すら詳しい事は覚えておらず、一種の記憶喪失まで患っていた。

 今コイツが名乗っているフール・フレイという名前も、前に俺が適当に付けてやったモノだ。


「最初はここの〈治安維持隊〉にでも預けようかとも思ったがなぁ。事情が事情なんで結局〈メルトス〉まで連れ帰っちまった」

「ナイスはんだ~ん」

「うっせ」


 そんな経緯があったからこそ、俺はフールの奴を〈トルビオ〉に連れて来ることに否定的だったのだ。

 幾ら三年も前の話とは言え、確実にトラウマ級の出来事である。

 だから仮にこの街に来る機会があっても、まさかコイツが自分からこの場所に足を運ぶとは思いもしなかった。

 たぶん、自分からこの場所に足を運ぶことで、三年前の出来事を克服しようとでも考えたのだろう。


(コイツ、だいぶ精神が図太くなったな)


 全くもって感心する。嫌な事には極力関わろうとしない俺とは雲泥の差だ。


 この三年の間、身長は少ししか伸びていないくせに、精神だけは俺の予想以上に成長していたらしい。

 コイツのパートナー兼保護者である俺としては、その成長が嬉しくもあり、また微妙に寂しくも感じられる。


(まぁ、妙に肝が据わった処のある奴だからな。余り物事に動じないっつーか、大器晩成型っつーか)


 因みに、この国では奴隷の売買は固く禁止されている。だが、そういった裏の商売は、中々に根絶する事が難しい。

 そして奴隷商の連中は、“商品”としての奴隷をぞんざいに扱う事はないが、逃げ出した奴には決して容赦しない。

 奴隷の“品質”にも因るが、逃げ出した奴隷はその大抵が他の奴隷に対する“見せしめ”にされる。


 もし逃げ出した奴隷から自分たちの素性が割れ、〈治安維持隊〉の調査が及べば、下手をすると“売り手”から“買い手”にまで芋蔓式に手が入る可能性がある。

 なので奴隷商の連中は、自分たちの持ち得る有りと有らゆる“伝手”や“コネ”を利用して、何としてでも逃げ出した奴隷を探し出そうとする。

 その手段は、正に執拗の一言に尽きるだろう。


 そしてその繋がりは、一部の貴族や権力者にまで及んでいるから性質が悪い。

 下手に〈治安維持隊〉にコイツの身柄を差し出せば、直ぐにでもコイツの居どころが奴らに伝わる可能性がある。

 なので俺は、コイツを保護した責任として、どこにも行く宛ての無いコイツの身柄を、一時的にだが預かる事にした……のだが――


「まさか、こうしてレイドのお仕事を手伝うことになるなんて、あの頃はボクも思ってなかったな~」


 以後現在に至るまでの三年間、諸々の経緯や事情もあいまって、俺は未だにコイツの身柄を預かり続けていたりする。


「そりゃコッチの台詞だ。俺はな、帰ったら速攻マスターかゴルドの爺さんに預ける積もりだったんだぞ」


 それなのに直前になってコイツが、“俺と一緒が良い”とか訳の分からんこと言い出すものだから、マスターも爺さんも面白がって、結局俺がコイツの面倒を見る羽目になってしまったのだ。


「やっぱり迷惑だった~?」

「まぁ今更だな。寧ろ、今はこれで良かったと思ってるよ」


(半分は、な……)


「だよね~、えへへ~」

「調子に乗んな」


 いつものように笑うフールの頭を軽く小突くが、当の本人は大して気にする様子はなかった。


そんな訳で、レイドとフールの出会いでありました。

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