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二話同時投稿です。タイトル47からどーぞ。
今回のお話の始まりは・・・またトイレからかよorz
◇
〈黒羽〉トイレ内にて――
『「――無視するならそれでも別に構わねぇし」』
「良いのかよ!?」
(本当に、あの親父の考えてる事はよく分らん)
そう半ば以上呆れていると――
『「もしそいつを見付けられたら、半人前からは抜け出したって事にしてやるよ」』
などと、相も変わらず上から目線の台詞を吐きやがった。
『「まぁ、まだ一人前には程遠いが、発掘ゴッコからは卒業できるぜ。よかったな?」』
「ッチ、さっきからゴッコゴッコと……」
『繰り返すが、我の台詞ではないからな』
「わぁってるよ」
文句を言ってやりたいのは山々だが、当の本人がこの場に居る訳じゃない。
それに、余り認めたくはないが、アイツの目線から見れば俺のやっている事なんぞ、確かにゴッコ遊びに過ぎんのかもしれん。
俺にとっての命懸け程度なら、平気でやらかす様な奴だったからな。
『「だが今のお前が俺に対するつまらん対抗心や、ただ生きていく程度の目的しか持ってねぇなら、“その先”には手を出さねぇことだ」』
(“その先”……?)
「おい、“その先”って何だよ」
『さてな、我にも分からん』
「親父から聞いてねぇのか?」
『別段詳しく聞こうとは思わなんだし、寧ろ我より息子であるお主の方が、彼奴については詳しいのではないか?』
「それ言ったらお前だって、四年前まで親父の奴にずっとくっ付いてただろーが」
少なくとも俺は、そんな話を親父から聞かされた覚えはない。
その“プレゼント”ってのを見付ければ、もしかすると自然と分かるのかもしれないが。
「ったく。含みの在る言い方しやがって……まぁいい、続けてくれ」
『ウム――「そっから先は、今のお前がやってきた発掘ゴッコとは訳が違う。無理だと思ったら素直に諸手と白旗上げて、全部投げ出して逃げちまった方がよっぽど賢いってモンだ。何事も命あっての物種だからな」』
(だぁから、俺よりよっぽど命知らずな奴に言われてもまるで説得力がねぇんだよ)
因みに、そう思っているのは俺だけじゃない。親父と付き合いの長い知人連中も、俺と同じくアイツの無茶振りを良く分かってる。
お陰で一時期は“命忘れ”、なんて言う異名を付けられた事すら在った。
その為か、俺の親父がこの町から姿を消してそろそろ四年。以来まったく音沙汰はないが、アイツが何処かで野垂れ死にしているなんて考える奴は一人もいない。
『「それでも行くって言うなら止めやしねぇ、さっきも言ったが好きにしろ。ただし……覚悟だけはしておけよ」』
「ん?」
そこで、少しだけ伝言の声色が変化した。
『「テメェで選んで、テメェで決めた道だ。誰かのせいなんて言い訳はできねぇし、何かが起これば間違いなくお前が背負う羽目になる。生半可な覚悟で手を出せば、泣きを見るのは目に見えてる」』
いつもの無駄に偉そうな口調はそのままだが、そこに人を見下す様な雰囲気はない。
その代わり、発掘の最中にも滅多に見せる事のなかった妙に鋭く真剣な――それでいて何処か暗い視線を向けられた気がして、自然とコッチの表情が引き締まる。
『「だがもしお前がソレを承知で、それでも本気でその先に足を踏み入れようってんなら、ソレは正真正銘――“お前の冒険”だ」』
「――ッ!」
それを聞いた瞬間、胸の内側からまるで拳で叩かれる様な衝撃が走った。
その衝撃に驚いたのか、それとも驚いたから衝撃に襲われたのか分からないまま、俺は自然と自分の胸に手を当てていた……丁度、心臓の真上辺り。
『どうかしたか?』
「……いや」
そのまま擦ってみるが、特に変わった様子はない。
さっきの突然の鼓動は勿論、疲弊した時の様な早鐘を打っていなければ、衰弱して脈が弱まっている気配もない。
手の下の鼓動は、いつもと変わらず規則正しい脈を刻んでいる。
「何でもない。続けてくれ」
『ウム――「ンでだ、一応最後にコレだけは言っておいてやろうと思う。俺と一緒に居た頃、お前よく俺に聞いたよな。「何でこんな事をやってんのか?」ってよ」』
確かに、そんな事を聞いた覚えが在る。
そう頻繁に聞いていた訳じゃないが、昔から親父が発掘で何か無茶をする度、そんな質問をアイツに投げ掛けていた。
一緒に遺跡に潜る様に成った最初の頃から、唐突に俺の前から姿を消すその直前まで。
ただし、聞いた処でその都度はぐらかされたり、相手にされなかったりと、終ぞ真っ当な答えを聞く事はできなかった。
『「その質問に、俺はいつも答えてやらなかったよな。つまんねー質問だったし、何より意味がなかったからな」』
「悪かったな、つまんねー質問でよ」
『再三言うが、我の台詞では――』
「だーからわぁってるって」
(畜生あのバカ親父。いちいち挑発しやがってからに)
たかが伝言なんだから、もっと簡潔に要点だけ伝えられんのかアイツは……ソレに釣られる俺も俺だが。
『「でもま、今なら答えてやるよ」』
「え?」
一体どういう風の吹き回しか。一緒に居た頃はあれだけ答えを渋っておきながら、どうして今此処でソレを答えるのか。
真意の程は判らないが、あの親父の事だ。どうにも嫌な予感が拭えない。
脳裏には何故か、ニヤリと笑う親父の顔が思い浮かぶ。
『「なぁレイド、お前――」』
◇
ガタンッ
「アダッ!」
また荷台が大きく揺れ、寝転んでいた後頭部が荷台の屋根とぶつかる。
「ッツ~……」
後頭部を擦りながら上体を起こす。
(ったく。走っている自走輪の屋根じゃ考え事はしねぇ方が良いな)
特に寝ながらは止めておいた方が良い……痛い目にあう。
後頭部の痛みが引くのを待ってから、また手にした短剣を日にかざす。
昼の暖かい日差しを受けてるにも関わらず、その刃の跳ね返す光は、相も変わらず背筋にゾクリとした寒気を感じさせる。
最初見た時は随分切れ味が良さそうだとは思ったが、その頃はまさか木の幹どころか床石にまで突き刺さるとは思わなかった。
「ったく。なぁにが“答えてやる”だよ。なぁ、親父からの伝言、本当の本当に間違いねぇのか」
『お主もクドイ奴じゃのぅ。伝言に間違いはないと何度も言っておるじゃろうが』
「でも四年近くも前の話だろ」
それ位時間が経っていれば、間違いの一つや二つ在っても不思議じゃない。
しかも一言一句の全てを覚えてるなんて、どう考えても人間技とは思えん……まぁ人じゃないんだが。
『四年だろうと十年だろうと一万二千年だろうと、伝言の内容に間違いはない』
「十年からエラく跳んだなオイ!? それならお前が俺の前で初めて口を利いた時、俺が何て言ったか覚えてるか?」
『……覚えておるし教えてやっても良いが、お主は覚えておるのか?』
「うンにゃ。全然」
『我をおちょくっておるのかお主は!?』
「ンなこと言ったって、もう一週間くらい前の話だからなぁ」
しかもあの時は完全に不意打ちだった。そんなモン普通なら覚えてられん。
「まぁ百歩譲ってお前の言っている事が正しいとして、だからって“アレ”はねぇだろ」
『何の話じゃ?』
「伝言の“最後”だよ。何でアレが俺の質問の答えに成るんだ?」
答えと言うよりは、文字通り質問を質問で返されたからな。
『それを我に聞かれてものぅ。じゃが、そう難しく考える必要はないのではないか』
「アン? どういう意味だ」
『そのままの意味じゃよ。お主の父親は、本当に伝えたい事は割と素直に話しておったからな』
確かに、それはコイツの言う通りかもしれん。
親父の奴は普段から、俺にはワザと色々と回りくどい――と言うか、とにかく分かり辛い言い回しをする事が多かった。
しかも、発掘の最中でもそんな話し方をしやがるもんだから、親父の意図が掴めないまま危険な目に合う事が何度もあった。
だが、確かにハムの言う通り、ここぞという時には厄介な言い回しはせず、割と率直に答えを返してきた。
ただし、普段から話が分かり辛く、それでいて突然まともな意見を返してきたりするもんだから、常に親父の言葉を深読みしようとするコッチとしては、寧ろ普段より遥かに内容が分かり辛かったりする。
「俺の考え過ぎ……って事か?」
『“相手の裏を読む”のは良いが、ない裏まで読んでは逆に足元をすくわれるぞ』
「そりゃ前に親父にも言われたよ」
もし親父の息子が俺じゃなくフールの奴だったら、多分とっくの昔に人間不信に陥っている事だろう。
少なくとも俺の親父と二人で行動をしてれば、相手を“疑う”事に関しては十二分に鍛えられる……ま、お陰で今迄生き残ってこれたのも事実なんだが。
「ったく。我が親父ながら厄介過ぎる」
『じゃが、それでも行く気には成ったんじゃろう?』
「……まぁな」
そう言って、屋根の上に立ち上がる。
決めるまでに色々な奴等に焚き付けられた感はあったが、最終的に親父の思惑に乗ると決めたのは俺だ。
恐らくと言うか、絶対に面倒臭い事に成るとは思うが、乗るにしろ反るにしろ、親父の奴に関わる以上それは覚悟しておかねばならん。
それなら、乗ってしまった方がまだマシってモノだろう。
『それで、質問の“答え”は解ったのか?』
「多分な。在る意味で親父らしい答えと言うべきか……確かに下らねぇ答えだよ」
『ほう……して、その答えは如何に?』
「あン? 聞いても本当につまんねぇぞ」
『良いから答えい。このままでは気になって眠れんではないか』
「普段から夢と現の区別も付かん奴が何言ってやがる」
親父からの伝言――その最後の一文を思い出す。
(『なぁレイド、お前……“何でそんな事やってんだ”』)
それが、俺の質問に対する親父の“答え”。
初め〈黒羽〉でこの台詞を聞いた時は、親父の奴が一体何を言っているのかがイマイチ掴めなかった。
だが、今なら分かる。あのバカ親父の奴と同じ様に厄介事――危ない橋だと判っていながら、自分から進んでそこに足を踏み入れようとしている今なら、アイツの考えていた事が少しは分かる気がする。
「そんなモン――“面白そう”だからに決まってるじゃねぇか」
自分で言っておいて何だが、確かにつまらん答えだと思う。
だがそれが、親父が俺に言いたかった本当の答えなのかは、正直よく分からない。
親父の奴、要は今の俺と同じ心境だ――とでも言いたいんだろうが、質問に質問で返された以上、あくまでそれは俺の自身の“答え”だからな。
『ウム。単純じゃが明確な答えじゃ。もう、迷いは振りきれたようじゃな』
「ああ。ここまで来たんだ」
そこで出発前。三角耳の幼馴染から言われた台詞を思い出す。
(『“枷”にはしないでほしい』……か)
もう、誰かを理由にして、自分を縛るつもりはない。
「俺は俺のやりたい事を、俺のやりたいように、やりたい奴とやるだけだ」
『カッカッカ! 良く言った。それで、そのやりたい者の中に、我も含まれておるのか?』
「何言ってやがる。お前みたいな危険物、その辺に置いとく訳にいかんだろうが。お前に限っちゃ強制参加だ」
こんな胡散臭い物、その辺に置いておいたり誰かに預けておくなんて怖くて出来ん……手元に置いておいた方がよっぽど安心だ。
『何じゃい、その嫌々連れて行くみたいな言い草は……まぁ良い。見ておれよ、必ず我と一緒に居て良かったと言わせてみせるからなのぅ』
「ああ。期待しないで待たせてもらうよ」
『その台詞、忘れずに覚えておくがよい』
そう言うと、それっきりハムの奴は黙ってしまった。ヘソでも曲げたのかもしれん。
俺は腰裏にある鞘にハムを収めると、視線を前へと向ける。
自走輪の進む先には、未だ広大な耕作地と地平線が広がっている。
目的の場所はまだ先だが、〈トルビオ〉は間違いなくこの空の下に在り、この大地の上に在る。
留まる事なく進んでいけば、いつかは必ず辿り着けるだろう……もっとも、地面の上“だけ”を行く積もりは毛頭ないが。
(不味いな。だいぶ浮かれていやがる)
荷台の中で目を覚まし、〈メルトス〉から出たと言う実感が徐々に湧いてくると同時に、自分の内側から沸々と沸き上がってくるモノを感じる。
短剣を握る手に力が篭もり、立っている膝は怖くもないのに小さく震え、気を抜くと自然と表情が緩んでしまう。
心なしか空の蒼も大地の翠も、いつもより色鮮やかに見える気がする。
こんなにも足元がふわついた状態じゃあ、何かあった時に咄嗟に対応する事が出来ん……でもまぁ、それも仕方がない。
結局の処この俺も、あのバカ親父とそう変わらんのかもしれん。
◇
こうして、なんとも奇妙な経緯を経て、俺の冒険は始まってしまった。
ゴルドの爺さんは今回の一件が、かの伝説と謳われる〈三遺の十二宝〉の一つ、〈光の花〉に関係していると考えているらしい。だが、正確な処はまだ分からない。
あの親父の事だ。もしかしたらこれから俺が行く先には、そんな伝説級のお宝とは全く関係のない、下らない代物が用意されているなんて可能性もゼロじゃない……まぁ、それにしちゃ随分と手が込んでいるとは思うが。
それに、世界にたった十二個しかないお宝の内の一つだ。そもそもの話、実在しているかどうかすら妖しい。
ゴルドの爺さん曰く、〈黄金の瞳〉の調査じゃあその存在が確実視されているそうだが、だからってその実物を見た者はまだ誰も居ないのだ。
そして、コレが一番の疑問なんだが――もし俺の親父がそんなお宝を本当に見付けたとして、どうして自分では手を出さず俺に譲る様な真似をするのか。
〈三遺の十二宝〉なんてお宝。あの親父なら周りの都合や静止なんて一切無視して、たった一人でも突っ込んで行きかねない程の大好物だろうに。
考えられる可能性としては、例のプレゼントとやらが本当に下らない只のガラクタか、お宝だとしても親父が興味を持たない程度の小物か、それとも……あの親父ですら手を出す事を躊躇させる、そんな規格外れの“本物”かって処だろう。
ガラクタなら手を出すつもりはないし、“本物”なら“本物”で厄介な事に成るのは目に見えている。
なので最初は、この件に首を突っ込むつもりはなかった。
だが、何故かハムから伝言を聞き出した後、突然物騒な連中に襲われたり、国軍のお偉いさんが出てきたり、爺さんから伝説級のお宝の話しを聞かされたり、果ては幼馴染のネコ娘に妙な説得をされたりと、一度に様々な出来事が立て続けに起こった。
それからは、その他諸々の要因も重なり、あれよあれよと言う間にこうして住み慣れた町から旅立つ事に成ってしまった。
こうもトントン拍子に話が進んでしまうと、まるで親父の奴に嵌められている様に思えて釈然としない。
しかし、最終的にその誘いに乗ると決めたのは俺自身の意思だ。それに付いては言い訳をする積りも、また後悔をする積りもない。
目指す先は、この国〈レムンレクマ王国〉第二の玄関口――〈港湾都市トルビオ〉
そこに何が有るのかは分からないし、何が起こるかも分からない。
そんな、何もかも分からない状況に不安を感じないと言えば嘘に成るが、今はそんな不安よりも、正直期待のほうが大きい。
そこは、無断で俺に付いてきてくれた小さくも心強い相方に、多少なりとも感謝するべきなのかもしれない。
そして、ヤルと決めた以上、必ずあの親父の鼻を明かしてやる。
なんたってコレは――“俺の冒険”なんだからな!
◆◆◆
レイド・ソナーズ――〈黄金の瞳〉メルトス支部での総合報酬金額“第十二位”。
上位十圏内に届かず、ソレだけを見ればそう目立っているとは言えない順位。
しかし、レイドとフール。彼等コンビの存在は、この町で遺跡発掘に携わる者達の間では、まず知らぬ者のいない存在で在る。
他の発掘者に比べ二人共に歳が若く、内一人は外見が童子と変わらない。
そして、その若さで発掘者としての経歴が実質十年を越えており、更に〈黄金の瞳〉メルトス支部の支部長であるゴルド・マーベリックとも親睦が深い――ともなれば、当然の如く周囲の目は彼等に注目する。
だが、レイド達が注目を集める最大の理由は、その様な表面的なモノではない。
発掘者である彼等にとって、その実力が正しく評価されるのは、発掘をして獲た成果以外に在り得ない。
現在、順位表に記載されている内容は、あくまでもクラン代表者の氏名と報酬の総合金額のみである。
故に、頻繁に遺跡発掘を行なっている上位三十のクランは、そもそもこの順位表に因ってその他クランを評価し判断する事はない。
肝心な事は、発掘で得られる収入が、発掘を行なう為の支出をどれ程上回るか。
遺跡発掘を行なうには、どうしても活動の為の資金が必要と成る。如何に多くの報酬を得ようと、支出が収入を越えてしまっては意味がない。
そしてクランは、基本的にその規模が巨大に成り人員が増えるにつれ、発掘に因る収入の額は多く成るものの、それと同時にどうしても出費がかさんでしまう。
大きな組織は、その維持だけにも多くの資金を必要とするからだ。
現在、順位表に記載されている上位三十のクランは、その多くが十~三十の人員を抱える大所帯である。
その内、主流である“怪物狩り”ではなく、“宝探し”を主として活動しているクランは、レイド達を含めた僅か三組。
そして、レイドとフール。たった二人という少人数での活動を行なっているクランは唯一――“彼等一組のみである”。
フール「お家の食材は、勿体無いからシュルちゃん食べてって言っといた」
レイド「だからどもってやがったのかアイツ」
レイド達は2人で活動。他は最大30人で活動。
レイドの金額順位は12位。1位との金額差は約10倍・・・ちょっと盛り過ぎたかな?




