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まぁなんだ、これが俺の冒険譚だ。  作者: TSO
第一章 〈光の花〉と〈闇の宝玉〉
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随分と遅れてしまいました。なので二話分投稿しまふ。

漸く主人公に視点が戻ります・・・主人公・・・だよな??


 ◆


 ――余談である。


 遺跡発掘の専門機関。〈遺跡発掘世界機構〉の下部組織である〈黄金の瞳〉では、各支部において発掘者たちの競争心を煽り、発掘事業を促進する目的の下、ある種の順位表ランキングが掲示されている。

 表示されている内容は、〈黄金の瞳〉に登録されているクランの代表者の氏名と、〈黄金の瞳〉での報酬で得た金額の合計が昇順で表示されており、支部に訪れる誰もがそれを閲覧する事が可能と成っている。


 現在〈黄金の瞳〉に登録されているクラン数は、小さなモノを含め百を越える。

 だが、その内で遺跡発掘を主な収入源として活動しているクランは、上位三十程しか存在していない。

 そしてその中には、レイド・ソナーズの名も記載されている。


 レイドとその相方であるフール・フレイ。彼等の順位は、全体的に見れば決して低いモノではない。

 だが、その三十のクランの内では、その順位は中の上。上位十には届かず、現在彼等の順位は十二位に留まっている。

 更に、レイド達のクランと、一位であるクランに表示されている報酬の合計金額には、約十倍近い差が開いている。

 


 ◇◇◇


 ガタンッ


「ンが?」


 ゴンッ


「アダッ!? ッツ~~……なんだぁ?」


 いきなり地面が揺れて飛び起きた。同時に、持ち上げた前頭部に衝撃が……ウチの天井ってこんなに低かったか?


(って、ンな訳ねぇよな。暗ぇーし狭ぇーし。何処だココ?)


 起き抜けで上手く頭が回らない――が、直ぐに自分がどう言う状況に置かれているかを思い出した。


(……ああ。あの箱の中か)


 徐々に意識がハッキリしてくる。どうやら、結構長い間寝ていたらしい。

 しかも狭い所に閉じ込められていたせいか、体の節々が妙に痛い。

 取り合えず外に出ようと目の前の蓋を押し開けて上半身を起こす。


「フッ――!」


 背筋を伸ばし首や肩の辺りを回すと、体のあちこちからコキコキと小気味の良い音がする。


「ハァーー……眠み」


 実際はもう大して眠くはないが……ま、寝起きの決まり文句だな。


 辺りを見回すと随分と薄暗い。もう夜にでも成ったのかと思ったが、壁の上方に開いている採光用の小窓からは、煌々とした光の帯が差し込んでいる。

 腹の辺りに手を当て空腹の具合を確認し、差し込む日の角度と合わせて考えるに、どうやらまだ昼前らしい事が分かった。


(無事に町から出られたのか)


 〈治安維持隊〉の連中に見付からないよう木箱に入った処までは覚えてるんだが、どうもソコから先の記憶がない。

 出発したのが朝の早い時間だったから、そこそこ長い間寝ていたらしい。

 我ながら危機感が薄いとは思うが、結構疲れた上での徹夜だったからな。

 しかも木箱の中には緩衝用の藁まで敷かれている。なので、割と寝心地が良かったのも原因の一つだろう。


 ガタンッ


「――トッ!?」


 自走輪の揺れに合わせ小さく体を揺らしていると、下からの不意の衝撃に腰が浮いた。

 車輪が段差でも乗り越えたんだろう。どうも、さっきはこの揺れに叩き起こされたらしい。


 舗装された街道ならこんな揺れもないんだろうが、王都と〈メルトス〉を結ぶ街道の舗装工事は、未だ全体の半分も終わっていない。

 なので、どうやら今は大して整備のされていない人や馬、自走輪等が通って出来ただけの素道を進んでるんだろう。


 ゴト……


「うン?」


 そう一人でぼぉっと外の様子を考えていると、何処からか小さな物音が聞こえて来た。


 荷台が揺れた拍子に何かが動いた――って感じの音じゃない。揺れとはなんの関係もなく、勝手に動いたような感じの音だ。

 俺と一緒に積み込まれている遺跡怪物が騒いでんのかと思ったが、さっきの音は奴等が閉じ込められている檻とは違う方向から聞こえてきた……と言うか、もっと近くから聞こえたぞ。


(……後?)


 気になって振り向くと、ソコには俺が入っているのと同じ様な木箱が置かれていた。


(確か、シュルシャの奴と居た時もこの辺から物音がしたよな)


 あの時はシュルシャの突然の豹変に気を取られて、ろくに調べもしなかったんだが……コレ、一体何が入ってんだ?


「よっ、と」


 取り合えず寝ていた箱から抜け出す。

 体にくっ付いた藁を払って、物音がしたであろう背後の箱を一通り調べてみる――が、外見からは特に変わった様子はない。


 俺が入っていた木箱より少し短く、箱の表面には〈黄金の瞳〉のシンボルである“左手に握られた獣の眼”のマークが焼印されている。

 箱の端には出荷番号の様な数字の書かれたタグが打ち付けられているだけで、中身についての情報は特に見当たらない。


(遺跡の発掘品でこの位の大きさとなると……剣とか錫杖とかか?)


 箱の大きさと形からそう当たりを付けるが、そもそも剣も錫杖も勝手に動いたりはしない。

 よしんば自走輪の揺れが原因で中の物が動いたとしても、遺跡での発掘品はキズか着かないよう緩衝材の藁や干草などと一緒に入れられている。

 だから、さっきみたいに大きな音の出るようなぶつかり方はしない筈なんだが。


(音がしたのこの箱だよな。ホントに何入ってんだ?)


 何故か中身が妙に気に成る――が、流石に開けるのは拙かろう。


 俺がさっきまで入っていた箱とは違い、当然ながら出荷用の箱には釘が打ち付けられている。

 実際この箱の蓋にも釘が打ち付けてあるので、俺が素手で持ち上げた程度じゃあまず開かない。

 せめて、何か工具の変わりに成る様な物でもあれば――


 パカ


「え――?」


 なんて考えながら蓋を持ち上げてみたら、予想に反してあっさりと開いてしまった。


 良く見ると、蓋に刺さっていたのは釘の“頭部分”だけで、ちゃんと箱に固定された様子がない。

 因みに、俺の入っていた箱の蓋にも同じ様な細工がされている……まぁ偽装だな。

 内側から簡単に開けられる様に釘を打たないでおくと、他の箱と明らかに見た目が違って怪しまれる。

 なので、こうやって釘で留めてある様に見せかけてる訳だ。


「……おい」


 正直、この時点で嫌な予感がするんだが、ここまで来たらもう見ない訳にもいくまい。

 そう思い、ソッと中身を覗き込み――


「くぅ~~……」


 パタン


 即行で蓋を閉めた。


「フゥ……まだ寝ぼけてんのかね~」


 なんたって、さっき起きたばかりだからな。こんな時は、夢と現実の境が多少曖昧に成ってもしかたがなかろう。


 俺はまだ残っている眠気を完全に追い払う為、両目を擦ってから深呼吸を数回繰り返えす。

 そして、さっきより頭がスッキリしてきた処で再び蓋を開ける。


 パカ


「スピ~~……」


 パタン


(……………おかしい)


 何故かさっきから、俺の良く知っている奴が箱の中で寝てる様に見えて仕方がない。


(俺、寝惚けてる処か実はまだ寝ってんじゃねぇのか?)


 意識はさっきよりハッキリしてる。

 別に寝ぼけている訳でもない。

 なので、コレが幻覚じゃないんだとしたら、コレは俺の見ている――“意識のハッキリした夢”と言う事に成る。

 自分でも何を考えているのかよく分からんが、それなら今の状況にも説明がつく。

 何たって“夢”なのだ。

 何でもアリなのだ。


 なので、早速検証してみる事にした。


 パカ


 俺は再び箱の蓋を持ち上げ、いつものアホ面晒して寝こける相方の頬を引っ張ってみた。


「ぅみゅ~~……」


 はなす。


「うぅぅん」


 相方は引っ張られた方の頬をゴシゴシ擦ると、口元をモニョモニョと動かした後――


「クカァ~~……」


 まるで何事もなかったかの様に再び寝息を発て始めた。


(……成る程)


 頬の抓り具合。頬の伸び具合。そして頬の戻り具合と様々な角度から検証した結果、どうやらこの相方は俺の夢や幻の類ではない模様……ホンモンだー!?


「アーイーツーらぁぁぁぁぁ……!!」


 憎々しげな台詞が零れる。


 現状から考えるに、俺が一人で町から出るのを誰からか聞きつけて、荷台の中に潜り込んだんだろう。

 付いて来ようとしても、俺に反対される事はコイツにも予想できただろうからな。


 だが、コイツがこうして此処に居るのは、どう考えてもコイツだけの意思じゃない。

 あのネコ娘かエロ爺ィか、或いはその両方が手引きした事は明白だ。もしかしたら、ミリーヤさんまで関与している疑いがある。

 わざわざコイツ用の箱が用意してあるのが良い証拠だ。ここまでの準備がコイツ一人に出来る訳がない。


「あンのネコ娘ぇぇー!」


 何が『フールにまで黙って行く事はないんじゃないかニャ?』だ。此処に居るじゃねか!


(ったくコイツは~)


「俺がコレから何処行くか分かってんのか~?」


 俺がコイツを置いて一人で行こうとしたのは、シュルシャにも言ったが“邪魔だから”なんて理由じゃない。

 あくまでも、コイツ自身の事情を考えての事だ。


(何もわざわざ自分から、古傷を広げる様な真似をするこたぁねぇだろに。人の気遣いを無下にしおって)


「アホ面晒しおってからに……てい」


 小さな鼻を摘み上げる。


「ン……パァ~~」


(起きねぇ……)


 何でこんな状況下でも幸せそうに寝ていられるんだコイツは。

 摘まんだ鼻を放してやると、フールは鼻の辺りを擦りまた規則正しい寝息を立て始めた。


「はぁ……」


(……ナンか、どーでもよく成ってきた)


 そのまま暫くフールの寝顔を眺めていると、何だか色々と気を回している自分がアホらしく思えてきた。

 だが、コイツと出会ってからもう三年も経つ。

 いい加減、コイツも心の整理が付いたのかもしれん。

 もしそうなら、俺からコイツにどうこう言うつもりはない。寧ろ、手を貸す事だって吝かじゃない。


 だがまぁ、ここまで来たのだ。どちらにせよこうなった以上――


「最後まで付き合って貰うからな。覚悟しとけよー」


 そう言って、俺はフールの寝ている箱に寄りかかる様にして、ズルズルとその場に座り込んだ。

 整備のされていない街道を進む自走輪の揺れに合わせ、体がユラユラと左右に揺れる。


「フゥ……」


 思わぬ展開から訪れた人生初の大舞台。

 その旅立ちの初っ端から、こうして盛大に予想外の事態に見舞われている訳だが……コレも、冒険の醍醐味と言うモノだろうか。


「“お前の冒険”、か……ン?」


 之から先の事を考えながら、ぼぅっと天井に視線を彷徨わせていると、視界の端に何か妙な物が見えた。


(アレって……)


 見上げた視線の先――丁度、天井の中央付近に“四角い枠”と“ハンドル”らしき物が見える。

 採光用の窓かと思ったが、それにしちゃ随分と枠の幅が広い……窓っつーより“扉”か?


 床から立ち上がり、開けてみようと近付くが、俺じゃあ背伸びをしてもそのハンドルに手が届かん。

 フールの奴を肩にでも担げば届きそうなんだが、こんな事でわざわざ起こすのも忍びない。

 なので、近くに在った木箱を移動してきて足場にする。

 いち発掘者として発掘品の上に乗るのは少々憚られたが、まぁ俺の体重程度で抜ける様な柔な作りはしていなかろう。


「よ……!」


 掴んだハンドルを右に半回転してみると、ガチャリとロックの外れる音がする。

 そのまま鉄で出来た扉を押し上げると、僅かに開いた隙間から差し込む日の光に目が眩む……薄闇に慣れた目にはちとキツイ。


「フンッ」


 力を込め一気に扉を開け放つと、その向こうから大量の日差しと、草の匂いの混じった爽やか風が吹き込んでくる。


(確かシュルシャの奴、出入口は後の扉だけって言ってたよな?)


 ただの勘違いか、それとも忘れていただけか、そもそも知らなかったのか……まぁ外に出られるのは在り難い。

 流石に一日中、こんな暗くて狭い場所に遺跡怪物と一緒に閉じ込められていては気が滅入る。


「ッ――!」


 開いた穴から顔を出した瞬間、不意の突風に前髪が煽られる。

 強風が過ぎ去るのを待ってから目を開くと、そこには雲一つない抜ける様な青空と、街道に因って左右に分けられた深緑の麦畑が、空と大地の境の向こう側にまで広がっている。

 風によって波打つその後景は生命溢れる緑の海原そのもので、この広大な耕作地こそが、この国に暮らす人々の胃袋を支えている。


 後方に在る筈の〈メルトス〉の町並みはもう見えず、遥か北の果てには、一年を通して山頂に雪を湛えた山脈が、東西にかけて長々と横たわっている。

 あの山からの豊富な水源と肥沃な土壌が、この国に多くの実りを齎していると言う訳だ。


(今年は“アレ”、見られねぇのかなぁ)


 上がった荷台の屋根に座り込み、辺りに広がる緑色の大地をグルリと見回しながらそんな事を思う。


 あと一~二ヶ月も経てば、今は緑の麦穂も徐々に色付き、この大地一面が金色に輝く後景を見る事が出来る。

 特に気に入っているのが夕暮れ時で、夕日の朱と混じった黄金色の稲穂が、比喩ではなく本当に輝くあの瞬間だけは、あの町で暮らしてきて未だに飽きる事がない。


 だが今回の旅は、正直いつ帰ってこれるか見当も付かない。

 残念だが、今年はあの後景を拝む事はたぶん出来ないだろう……出来ないんだろうなぁ。


「ハァ……」


 自分の予想に落胆し、倒れる様にして日に暖められた屋根の上に寝転がる。

 服を通して背中に屋根の熱が伝わるが、吹き抜ける涼風と相まって寝心地は意外と悪くない。

 顔に降り注ぐ日光を手で遮りながら、もう片方の手で腰裏の短剣を引き抜いた。


「……なぁ」

『何じゃ』


 答えは直ぐに返ってきた。


「親父の伝言。あれで本当に全部だろうな」

『そうじゃ』

「内容に間違えは?」

『ない。一言一句そのままじゃ』

「そっか……」


 引き抜いた黒い刃を日の光に翳しながら、俺は昨日の〈黒羽〉でしたコイツ――“ハム”との会話を思い出した。

 親父からの伝言。ゴルドの爺さん達に伝えた“前半”部分も確かに気には成るが、俺にとっちゃあ残り“後半”部分の方がよっぽど印象深かった。


ハム「間違いなどない、はず・・・たぶん・・・きっと」

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