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今回は〈黄金の瞳〉に居る二人組みのお話
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レイドを乗せた〈巨大鰐〉が丘を越え、大通りから朝市の撤収が済んだ頃。
〈黄金の瞳〉の一室――深夜レイドやシュルシャ達が話し合っていた部屋の扉が開かれる。
「失礼します」
ミリーヤは恭しく部屋へ入ると、奥の豪奢な机の前にまで歩み寄る。
机の向こう側には、一人の老人が彼女に背を向けて椅子に腰掛けていた。
「報告が入りました。レイド君を乗せた〈巨大鰐〉は〈メルトス〉を出発。その後を追い町から出て行く者の姿は、現在まで確認できてはいないそうです」
「そうか。どうやら無事に町を出られたようじゃな」
「例の“伝言”もアレッシオの下へ届けられました」
「ホウ。つまりあの“提案”を呑んだか……ふむ」
ゴルドは座ったまま椅子を回し、体の正面をミリーヤへと向ける。
「アレッシオの奴め、昔より多少は丸く成ったか? 正直、五日は難しいと思ったんじゃが……ま、良かろう。ここまで譲歩を引き出したんじゃ。あとはレイドの奴が何とかするじゃろうて」
そう言って老人は、少し安心した様子で背凭れに上体を預けた。
「ふぅ……老骨に徹夜は堪えるわい……」
首を傾けながら肩をほぐすゴルドを見詰めながら、ミリーヤがゆっくりと口を開く。
「思惑通り……と言った処ですか?」
「む?」
真っ白に染まった眉毛の下、老人の眠そうな瞼がピクリと持ち上がる。
「何の事じゃ?」
「誤魔化さないで下さい」
呆れた様に嘆息しながら、ミリーヤは眉間に寄った皺に指先を置く。
「一週間程前。シュルに手紙を出させましたね。“王都宛”に……しかも“鳥”まで使って」
すると、ゴルドはさして驚いた様子も見せずに言った。
「バレとったか」
「自分の上司のやる事は極力把握する様にしておりますので」
“鳥”とは所謂、鳥を利用した伝書方法である。
一般的に遠方との情報のやり取りは、各村や町を定期的に行き来する馬車等の定期便が利用されている。
近年では自走輪の開発や街道の整備等により、その伝達速度は昔に比べ随分と速く成ったものの、情報を運ぶ上で“鳥”の存在は、未だ欠かす事の出来ない重要な通信手段の一つであった。
山や谷、地形に左右される事のない“鳥伝”は、気候の条件さえクリアすれば、目的地にまで最速最短のコースで情報を相手へと届ける事が出来る。
更にその性質上、敵からの奇襲を受ける可能性が極めて低く、機密保持の観点から見て極めて有効な手段とも言えた。
ただし、伝書用の“鳥”の飼育には多くの費用も長い時間も掛かる。その為に総数が少なく、そう頻繁に利用する事は出来ない。
よって“鳥”を使っての情報の伝達は、火急や緊急の際に用いるケースが多く、利用した際には情報の内容までは判明しないまでも、ソレを“利用した”と言う事実自体は比較的露見し易い。
「今回の〈メルトス〉への〈レクマ騎士団〉師団長の直々にして突然の訪問……その手紙が原因なのではないのですか?」
「まぁそうなんじゃろうな……たぶん」
「“たぶん”……? それは一体」
ミリーヤが問詰めると、老人は意外な程アッサリと自分がこの騒動の火付け役である事実を認めてしまう。
だが、その口調は何処か他人事で、どうにも責任の重さと言うモノを感じている節がない。
老人の楽観的な態度に、彼女の表情には自然と怪訝な色が浮ぶ。
今回の一件。下手をすれば大陸各国を巻き込んだ大騒動に発展する事実に、彼女の主であり狡猾なこの老人が、気付いていない筈がない。
「実はあの手紙、ワシが書いたモノじゃないんじゃよ。なので内容は知らんのじゃ」
「え?」
そう言って老人は、長い白髭に隠れた口元をニヤリと歪める。
「あれを書いたのはな、“レイドの父親”じゃよ」
「え……!」
老人の口から語られた予想外の人物の登場に、一瞬ミリーヤの瞳が丸く成る。
「……“彼”が」
「そうじゃ。彼奴がこの町から出て行く際。息子のレイドがある“条件”を満たした時、あの手紙をアレッシオに届けるよう頼まれておったんじゃよ」
「“条件”――ですか」
「あの“黒い短剣”じゃよ。レイドがあの短剣を持ち歩いておったら、手紙を送る算段に成っておった」
「レイド君が持っていたあの短剣ですね。“彼”からの伝言が残されていたという」
レイド達との深夜の開合。その最中に見た黒色の短剣が脳裏に思い浮かぶ。
「一週間程前にな、あの短剣を持って歩いているレイドの姿を見かけての。じゃから約束通り、アレッシオにあの手紙を送ったんじゃよ」
正確には八日前――レイドに何時もの“日課”を見咎められ、ゴミ捨て場に不法投棄されかけた際、この老人はその別れ際に、レイドの腰に備えられていた短剣を目聡く目撃していた。
「そうだったのですか」
「まぁ、お陰で手紙の内容は予想し易かった。アレッシオの反応から鑑みるに、恐らく自分の息子が〈三遺の十二宝〉に繋がる情報を持っている――とでも書いてあったんじゃろう」
「成る程……」
そこでふと、彼女は昨日から気に成っていたある件を思い出した。
「では、まさか“あの報酬”も?」
不意に出てきたその質問に、今度はゴルドの方が意外そうな顔をする。
「何じゃ。ソレもバレとったのか」
「此方は本当に偶然です。昨日、レイド君へ報酬を渡すシュルシャを見かけたのですが、その時に渡していた金額が明らかに多かったもので」
彼女は昨日の昼頃。レイドが報酬を受け取りに〈黄金の瞳〉へ訪れた際、支払われていた報酬の金額が予定よりも多い事に気が付き、それを不審に思っていたのだと言う。
「金額の間違いではないかとシュルシャに確認した処、マスターの指示だと言っていたので、後で伺おうかと思っていたのですが……」
「うむ。確かにワシの指示じゃ。アレッシオへの手紙と同じく、あれも息子のレイドに渡してくれと彼奴の父親から頼まれ預かっておった金じゃよ。丁度都合よくレイドが遺跡で“抜け道”を見つけたとの報告が入ってな。報酬にその金を上乗せして渡す事にしたんじゃ」
「何故その様な真似を……?」
事情を説明し、普通に渡せば良いだけではないのか。
「そりゃーお前さん。父親からの餞別だと聞かされたレイドが、それを素直に受け取ると思うか?」
「……成る程」
あの少年は基本的に思考は柔軟なのだが、自分の父親の事となると途端に意地を張ろうとする。
ここ最近は金銭に難儀していた様子だったが、父親からの餞別と知れば、きっと素直に受け取りはしなかっただろう。
「早めに渡せて良かったわい。予想しておったとは言え、アレッシオがこうも早く訪れたのは流石に予想外じゃったからのう」
もしその資金がなければ、レイドを町から送り出すのにもっと時間が掛かっていただろう。
送り出すのが遅れるだけ分、彼がアレッシオ達に捕らえられる確立は高くなる。
「まぁ在る程度ならワシが融通してやっても良かったんじゃが、それはそれで渋っておったじゃろうし……まったく、手の掛かる親子じゃよ」
「……成る程。つまりあの二人とも、手の掛かる処は“親譲り”という訳ですか」
「そうじゃな。二人とも親譲り……む?」
そう納得するミリーヤとは裏腹に、ゴルドは何処か釈然としない顔付きに成る。
「……フム。まぁそれはそうと――」
だが、老人は直ぐにその表情を改めると、悪戯っぽく眼を細めミリーヤに話し掛けた。
「実はのぉ、あの短剣にはある仕掛けが施してあってな。鞘から刀身を引き抜く事は疎か、場合によっては柄を握る事すら出来んのじゃよ」
「そうなのですか?」
そう言われ、再びあの黒い短剣を思い浮かべてみる。だが彼女には、あの短剣がそれ程変わったモノの様には思えなかった。
特に華美な装飾が施されていた訳でもなく、鞘に収められたままだった為、刀匠の業を知る事も出来なかった。
それに、ソレ自体が割りと小振りだった為、そう複雑な仕掛けが施されているとも考え辛い。
なので一体どの様な仕掛けが施されていたのか、彼女にはどうにも見当が付かない。
「うーん?」
無意識だろう。いつもは見せない可愛らしい仕草で首を傾げていると、目の前の老人は彼女に向かって――
「なんと言っても“意思を持った剣”じゃからな。アレはワシ等〈黄金の瞳〉でも滅多にお目に掛かれん、最高ランクの“古代遺物”よ」
そう、とんでもない事実を口走った。
「ナ――ッ!!」
瞬間息を呑み、口を開けたまま固まってしまう。
五秒か十秒か――少なくとも本人の内では十分な時間を掛けた後、ミリーヤは呑み込んだ空気を吐き出す様にして老人に尋ねる。
「それは、本当……ですか……?」
「そうじゃよ」
特になんの感慨も見せず、老人はアッサリと頷く。
「レイド君は、その事に?」
「無論気が付いておるじゃろうな。父親からの伝言も、その短剣から聞かされたんじゃろうて。本人は隠したがっておったようじゃから、ワシからは特に何も言わんかったがの」
「……」
目の前で一人頷いている老人を見ながら、彼女は今度こそ本気で絶句した。
それは、先程見た短剣が本物の“古代遺物”であった――と言う事実に対してではない。
その事実を知っていて尚、それが一体どれ程重要な事かを知っていて尚、何時もとなんら変わる事のない調子で語るこの老人の、その飄々とした態度に対してのモノである。
レイドとの会話の時もそうだったが、何故この老人はこんなにも心臓に悪い事実を、こうも平然と言ってのけるのか。
その場で気を失わず、気丈にも立ち眩み程度で済ませる事が出来たのは、彼女が今迄でに積んできた経験と、老人との無駄とも言える長い付き合いの賜物であっただろう。
「何てコト……“本部”に知られたらどうなるか……」
自身が予想していた最悪の――ソレを更に上回る状況の深刻さに、彼女は頭を抱えたく成る。
「何をそんなに落ち込んどるんじゃ?」
「……落ち込みたくも成ります。少しは報告書を書く此方の身にも成って下さい」
呆れを通り越し、諦めに近い感情を込めて長く深い息を吐く。
この老人の破天荒さは今に始まった事ではないとは言え、今回の件は些か度が過ぎている。
今回の一件。下手をすれば〈黄金の瞳〉の本部である〈遺跡発掘世界機構〉から、ゴルドへ対する直々の“審問要請”が送られてくる可能性すら考えられる。
この支部の責任者であるゴルドや、立場的に彼に最も近い自分だけの処罰で済むのならまだ良い。だが最悪の場合、この“メルトス支部”そのモノの存続自体が危うく成る。
故に今回提出する報告者は、今迄で最も慎重に内容を精査しなければならない。
此方の正当性を説きつつ不利に成る表現を極力避け、成る丈相手に疑問を抱かせない内容にする。
報告書の内容だけではなく、提出する前に一部関係者への根回しも必要に成るだろう。それから――
「別にこの件を上に報告する必要はないぞ」
これから先の懸念に、アレやコレやと頭を悩ませているミリーヤに、そんな無責任極まりない言葉が投げ掛けられる。
流石の彼女も、コレには些かの苛立ちを覚えた。
「何を馬鹿なコトを――」
「言っているのだ」――と言いかけ処で、彼女はハッと顔を上げる。
いつの間にか下がっていた視線を前へ向けると、目の前の老人は特に焦った様子もなく、何食わぬ顔で彼女の事を見詰めていた。
……妙だ。
確かに、この老人は面倒事を嫌う。
自身の立場と言うモノを慮る事など滅多になく、時には自身の役目を他の人間――主に目の前に居る女性に押し付た挙句、自分は一人仕事場を抜け出し、町で若い女人の尻を追うなどといったはた迷惑な行為に耽る始末。
果して幾度それに関する苦情の対応に、自分や他の受付の娘達が追われてきた事か。
「――ん? 何じゃ」
自身の仕事の合間を縫い、その残された仕事を片付けても、この老人は抜け出した先でまた新たな仕事と問題を作ってくるのだ。
もう随分と前から他の職員達にも協力を要請し、何度もその悪癖を止めさせようと試みてはいるものの、未だ望んだ成果を得るには至っていない。
「……いえ。マスターの顔が不愉快なだけです」
「何じゃその唐突な理不尽は!? 余り老人をイジメんでくれんかのう!」
それはさて置き――このゴルド・マーベリックという人物は、その行動とは裏腹に、決して思慮を怠る事はない。
此方にとって迷惑である事に変わりはないが、外で起こす問題の質も量も、あくまで自分達に対処できる範囲内に留めている。それはもう計ったかの様に――いや。この老人の事だ、実際に計っているのだろう。
そして、ソレはこの支部で働いている職員と、現場で起きている状況を正確に把握していなければ、決して真似の出来る事ではない。
事実この老人は、この〈黄金の瞳〉“メルトス支部”に勤めている誰よりも、此処の事を見て、聞いて、そして知っている。
「まったく……そんな事を言うなら、これから先ずっと仮面を着けた生活をしてやるわい」
「止めて下さい。そんな子供じみた真似」
故にこの老人は、一度想定外や予想外の事態が発生した場合――そもそも、そうならないよう事前に手を打っている事が殆どだが、誰よりも迅速かつ的確に指示を飛ばし、幾度も困難な状況を乗り越えてきた経緯がある。
「……まぁ。今のは多少言い過ぎました」
「ム。なんじゃ? デレ期か? 遂にお主もワシの魅力に気が付いたか?」
「わざわざ顔全体を隠さなくても、目と鼻と口を“一生”塞いでいてさえくれればそれで結構ですので」
「……あの、“一生”までのカウントダウンが三分切りそうなんじゃが?」
「寿命ですね。御労しい」
「産まれたての赤子も大して変わらんよ!!」
国連によって設立された遺跡発掘の専門組織とは言え、〈遺跡発掘世界機構〉は設立から未だ五年と経過していない若い組織。
更にここ〈メルトス〉は、大陸でも有数屈指の遺跡発掘地域であり、当然発生する問題の数も種類も多岐に及ぶ。
この町に〈黄金の瞳〉が建てられた当時は、一日の内に何度も新しい問題が発生し、そのつど対応と処理に追われ続けていたものである。
人員も設備も整ってはおらず、何度も維持と継続が困難な局面に差し掛かったにも関わらず、今でもこうしてこの“メルトス支部”が機能しているのは、間違いなくこの老人の存在が在ったからこそ。
それ程の功績を積んできたこの老人が、今の状況下に在ってこうも態度を崩さないのは、何らかの理由が必ず存在する。
「時代が変わったんかの~。ワシが若い頃はの~。もっと年寄りを敬まっておったんじゃがの~。虐待も良い処じゃ~」
「しかし、本当に宜しいのですか?」
「宜しいも何も――」
ワザとらしく椅子の上で腰を曲げ、一気に老け込んだ様子を見せるゴルドだが、それが演技である事を彼女は百も承知している。
なので老人は、ミリーヤに訊ねられると直ぐに何時もの調子を取り戻した。
「こんな不確かな情報、上に報告する訳にいかんじゃろう」
「不確か……あ」
そこで、彼女にも漸く合点がいった。
「成る程、“そういう事”ですか……理解しました」
それと同時に、今度は己の迂闊さに頭を抱えたく成るミリーヤ。
話の規模が予想以上に大きかった為、周りが見えなく成っていたのだろうと、今は取り合えずそう納得しておく事にする。
「結局は全て見越した上……ですか」
支部である〈黄金の瞳〉は、その活動の内容を本部である〈遺跡発掘世界機構〉へ定期的に報告する義務がある。
組織の性質上、報告する内容はその殆どが遺跡に関わる事柄であり、今回の様な〈三遺の十二宝〉と言う重要度の高いモノに関わる情報ならば、尚の事その報告を怠る訳にはいかない。
だが、何も活動の内容や入手した情報。その全てを詳細に報告する必要はない。特に情報といった形のないモノは、報告する前に必ず“裏付け”と言ったモノを取らなければならない。
もともと〈三遺の十二宝〉の存在は、伝説や御伽噺として古くから多くの人々の間で広く語られてきたモノである。
当時から真偽不明の話が幾つも存在し、近年訪れた遺跡発掘の波がその根拠のない噂に更なる尾ひれを付け、急増した発掘者達に因って大陸各地に急速に広まったのである。
情報の出所の確認。その真偽の有無。それ等が確認出来なければ、その情報は巷に流布された噂や、酒場に居る酔いどれの戯言と何ら変わらない。
もし、そう言った“裏付け”を取らぬまま、入ってきた情報の全てを本部に報告しようものなら、数日と経たぬ間に様々な情報が無作為に交錯し、一瞬で収集が付かなく成るだろう。
――成らば、此度の一件は如何なのか。
「相も変わらず。本当に悪知恵だけは達者なのですね」
「ホッホッホ」
小さく漏れた呆れの嘆息が、愉快そうに笑う老人の声に掻き消された。
冷静に成って考を巡らせればそう難しい話ではない。そもそもレイド達との会話自体、その殆どが憶測の域を出ていないのだ。
昨晩の内に彼等が得た情報の中には、実の処“確実”と言えるモノが“何一つとして存在していない”のである。
ゴルドの言では、レイドの持っていた短剣は、人と同じ意思を有し会話が可能な“古代遺物”であり、レイドはその短剣から父親の“伝言”を教わった、とのコトなのだが――
「――ですが、その内容は“彼”が息子であるレイド君に対して送った個人的な意見と、例の謎掛けらしき一文のみ」
〈三遺の十二宝〉や“闇の宝玉”、“光の花”等といった単語は一度として出て来てはおらず、文章として残されてはいない為に、第三者がその内容を確認する事も不可能。
そして、レイドが持っていた短剣が本物の“古代遺物”であるとの証言も、現段階ではこの老人のモノだけなのである。
「話合いの最中。マスターが短剣の事に余り言及していなかったので、少し妙だとは思っていたのですが」
「そりゃそうじゃ。ワシだって要らん厄介事は背負いたくはないからのう」
もしもあの場で短剣を調べ、短剣が本物の“古代遺物”であると言う事が判明していたのなら、ソレは裏付けの取れた真偽明瞭な情報に成る。
そう成れば当然、本部に報告する義務が発生するのだが、実際にその確認が取れていない以上は、本部に対して彼等は知らぬ存ぜぬを通す事が出来る。
「今から短剣を確認しようにも、短剣とその持ち主は既にこの町から出て行った後……これでは、本部に正確な報告など出来ませんね」
「だから言ったじゃろ。報告の必要はないと」
昨晩に起こった騒動の中で、今からでも裏付けの取れる情報となると、レイドを襲撃したアレッシオ達の存在くらいなのだが――
「彼奴等もあくまで“隠密部隊”として動いておるんじゃ。あからさまな痕跡を残す愚は冒さんじゃろうて」
「つまり昨晩の一件。マスターはその全てを“状況証拠”のみで片付けるお積りですか?」
「ま、実際そうじゃしのぉ」
――などと、老人はさも当然とばかりに言ってのけた。
お爺ちゃんに徹夜とか、その時点で虐たi…




