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まぁなんだ、これが俺の冒険譚だ。  作者: TSO
第一章 〈光の花〉と〈闇の宝玉〉
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39

「話は終わりか? じゃ本当にもう行くぞ。さっきから言ってるが、余り時間掛けたくねぇんだ」


 そう言って外したフードを被り直すと、俺は踵を返して元居た場所へ戻ろうとする……のだが――


「待つニャ」

「グエッ!」


 途端、シュルシャに襟首捕まれて引き止められた。


「ゴホ……あンだよ。まだ何か在るのか?」


 コッチは急いでるんだぞ。


「まさか、本当に徒歩で向かうつもりかニャ?」

「しょうがねぇだろ。俺馬になんか乗れねぇし、隣町までの乗合い馬車もまだ出ないしな。取り合えず今日中に隣町につければ問題ないだろ」


 とにかく、今は町から出る事が先決だ。


「ハァ。どーせそんな事だろうと思ったニャ。イセアって遺跡以外の事となると途端に性能が下がるからニャー」

「何だよ、まるで遺跡発掘以外じゃ役立たず――みたいな言い草じゃねぇか」

「役立たずとまでは言わないけど、いつも何処か抜けてるんだニャ」

「ンなこたぁ――」


 ない――と、言いかけた台詞を飲み込む。


「レイド?」

「……」


(案外、このネコ娘の言う通り……か)


 実際、俺の主な行動範囲はこの〈メルトス〉の町と、その町の周囲に在る遺跡に限られる。なので、この町と辺りの遺跡での事なら、そこいらの古参発掘者にも負けない自信がある――が、結局はそこまでだ。


 ここ〈メルトス〉には、大陸中から多くの人間が集まってくる。それと同時に大量の情報も流れ込んでくるので、町の外の状況を知るのはそう難しい話じゃない。だが、それ等の情報が全て正しいとは限らない――いや、寧ろ正しい事の方が少ないだろう。情報なんてモンは捉える側次第でどうとでも変化するからな。

 偏見で歪み、解釈で塗り替えられ、伝達の過程で抜けや継ぎ足しが生じる。中には完全に間違った情報も在れば、正しい情報も在るだろう。

 だが、俺にはその真偽を確認する方法がない。


 大量の情報を集め、そこから虚と実の選別を行い、俺自身が如何に納得のできる答えを出す事が出来たとしても、結局それは俺の推論であり推測だ。当然、間違える事も在るし、それが俺の限界とも言える。

 外からの情報をただ話で聞くだけで、実際に体験した事のない俺には、その情報が本当の意味で正しいかどうかを判断する基準がない。

 

 だが、俺と同じ質と量の情報からでも、あのゴルドの爺さんなら俺以上に真実に近い解答を導き出すだろう――ソレは、一重に“経験の差”だ。


 ただ単純に“生きた年数の差”というモノも在るが、俺と爺さんを隔てる最も大きな壁は、この〈メルトス〉の周りでしか活動しない俺とは違い、あの爺さんは大陸各地を実際にその足で廻った経験が在ると言う点だ。

 爺さんだけじゃない。俺の親父も〈黒羽〉のマスターも、この町の外からやって来た連中は皆同じだ。


 この町で生まれ育った俺だけが、この町に引き篭もってるって訳だ……そりゃ遺跡バカと言われても仕方がないかもしれん。


(“殻”か……言いえて妙だな)


 ハムの台詞を再び思い起こし、自嘲気味の笑みが浮かぶ。


 結局の処、この〈メルトス〉の町と言う“殻”から抜け出せない以上、俺には“殻”の外側を知る事なんて出来る筈がないのだ。


「……お前の言う通りだよ」

「え……?」

「お前の言う通り俺は抜けてる。知らない事も、分からない事も多すぎるんだわ」

「どしたの突然? 変な物でも食べたかニャ?」

「……それは、さっき俺に朝食を作ってくれたミリーヤさんに対する宣戦布告か?」

「嘘ですゴメンなさい! シュルシャは何も言ってないです!」

「ったく……。まぁそんな訳だからよ、チョッくら“お勉強”して来ようと思ってな。“社会勉強”ってヤツだ」

「ほっほ~う」


 ニンマリと、ネコ娘はお馴染みのイヤらしい笑みを顔に浮かべる。


「……ンだよ」

「いや~。シュルシャは別に何も言ってないニャ~~。ムフフ。成る程ねー、あのレイドが遂に重い腰を上げたかぁー」


 ――などと、一人したり顔で頷いている。


(何言ってんだコイツは?)


「まぁ“勉強”つっても、自分の目で見て耳で聞いてくるだけだ。見聞を広げるって言った方が良いかもな……で、本当に何で引き止めたんだよ?」

「うん。どうせレイドの事だから、移動用の足まで確保してないだろうと思ったんだけど……予感的中だったニャ」

「……」


 何も言い返せん――いや、別に何も考えていなかった訳じゃないぞ。


 目的地まで徒歩で移動するってのは、幾ら何でも時間が掛かりすぎる。例の連中に捕まらないよう急いで町を出たっていうのに、目的地に向かう道中で捕まったりしたら洒落にならん。ただ、今回は速度を優先したせいで、そこまで手が廻らなかっただけだ。

 まぁ上手くいけば、途中で荷馬車に便乗できるかもしれんし、最悪隣町まで行けば乗合い馬車を捕まえる事も出来るだろう。其処から先は……臨機応変で。


「そこでだニャ。困っているであろうレイドの為に、このシュルシャさんが一肌脱いであげる事にしたのニャ!」


 ドーンと、何とも偉そうに胸を反らすシュルシャ。


「あ、一肌脱ぐと言っても、別に服を脱ぐ訳じゃないから、其処まで期待はしないでほしいかニャ」


 モジモジと、何とも恥かしそうに身を捩り出すネコ娘。


「だけど、レイドがどーしてもって言うなら、少し位なら考えない事もないかニャ~。一枚、二枚……いや、ココは出血大サービスで三枚までなら! 四枚以上は要相談と言う事で!」


 グッと、何かの決意と共に硬く拳を固めるバカ猫。


「え、『ソレはモチロン下からだろ』――って? さ、流石にソレはマニアックすぎないかニャ!?」


 ウネウネと、何処かの原住民よろしく不思議な踊りを始めるルラール族の人。


「で、でも~。シュルシャはこう見えて尽くす女ニャ。レイドが本当にソレを望むなら……是非も無し! さあ! どっからでもかかって来るが良いニャ!――って、アレ? レイド??」


 そして――既にその場に居ない俺。


「ちょっ! ちょっと待つニャ! 突っ込み放棄して一体何処に行くつもりだニャ!?」


 元居た場所に戻ろうとする俺の腕に、突然ルラールの雌が縋り付いてきた。


「何ですかアナタ? イキナリ人の腕掴んで。離して下さい急いでるんで」

「他人のふり!? ソレは流石に傷付くニャ!!」

「ええい煩い! 俺は本当に急いでんだよ! こんな時までお前の漫才に付き合っていられるか!」

「わ、分かったニャ! もうふざけないからちゃんと話を聞いてほしいのニャ!」

「……ったく何々だよ? さっさと言え」

「フゥ、ホントせっかちさんなんだからニャ~。“アレ”を使うと良いニャ」

「あン?」


 俺の腕を掴んだままのシュルシャが指し示す先を見てみると――


「アレって確か、“金目”専用の“自走輪”じゃねぇか」


 広場の隅に一台の自走輪が停まっていた。自走輪と言っても、その辺の発掘者が使っているような代物じゃない。


 〈黄金の瞳〉専用の自走輪は、主に遺跡での発掘品を別の町へと運搬するのに使われる。遺跡での発掘品なんて物は、言ってみればお宝の山だ。なので当然それを積む自走輪は、通常の自走輪よりもデカく頑丈に造られる。

 運転室と荷台は共に厚い鋼板で覆われ、車体を支える車輪もデカく片側四つの計八輪。お陰で重量は一般の自走輪の三倍近いが、その馬力は脅威の五倍増しだ。

 見た目もゴツく、盗賊なんかが下手に襲いかかろうモンなら、そいつ等纏めて轢き潰してしまい兼ねん。


 今俺の目の前に有るのは、そんな“化物自走輪”である。


「……悪い、シュルシャ」

「ニャン?」

「こんなん貰っても、俺操縦できねぇよ」

「あげるなんて一言も言ってないニャッ!」

「ん? そうだったか?」

「流石にシュルシャもそこまで太っ腹じゃないニャ! ホラ、冗談言ってないでコッチに来るニャ」


 手を引かれ、荷台の裏手へと廻る。


「ぃよいしょ、っと」


 閂を外し、シュルシャが重そうに荷台の扉を開くと、中には様々な大きさの木箱やら、恐らくは“遺跡怪物”の詰っているであろう檻やらが、大きな布に包まれた状態で積み込まれている。


「コレに乗っていけば町の外に出た事もばれないし、歩いて行くよりずっと効率的で安全ニャ」

「安全ってお前……良いのかよこんなことして」

「フフン。この程度、シュルシャに掛かればお茶の子さいさいニャ」


 無論、そんな事が只一介の受付嬢にできる筈もなく。


「……成る程。爺さんの許可は取ってあるって訳か」

「ぐ、流石に誤魔化せないか……仰る通り。ま、シュルシャが思い付く程度の事、あのじいちゃんはとっくに気が付いてたニャ。実際、シュルシャが頼む前には“コレ”の手配はもう終わってたし」

「そうか……」


 一歩引き、自走輪の全体を一通り眺めて嘆息する。


 さっきまで町からどう抜け出そうかと考えていた俺に、こうして用意された妙手を使わない理由はない。せいぜい有り難く利用させてもらおう。

 だが、これで俺はまたあの爺さんに、大きな“借り”を作ってしまった事に成る。借りは作らず、作った借りは早めに返すのが俺の心情なんだが、あの爺さん相手には、その借りをまともに返せた事がまだ一度もない。

 一つの借りを返したと思ったら、次の瞬間には二つから三つの借りが湧いて出てくるのだ……どうすりゃ良いんだよ。


 なので、また負債が増えると思うと些か気が重くなるが、ここまで来ると最早“今更”感の方が強い。

 何だかんだ言って、この町で俺が赤ん坊の頃から一番世話に成っているのは、間違いなくあの爺さんだからな。今じゃ爺さん相手に一体幾つの“借り”が在るかなんて、両手両足の指を使った処で到底数えきれん――が、それでも俺は、爺さんに借りを返すのを諦めた訳じゃない。


 いつか必ず熨斗のしつけて、全額きっちり返済してやる所存である……見てろよ爺さん。


「在った。おーいレイドー」


 俺が自走輪を眺めていると、シュルシャが荷台の中から手招きしていた。続いて俺も荷台に上がると、俺を待っていたシュルシャの横には、丁度人一人が入れそうな“縦長の木箱”が置かれている。


「さあ、この“棺桶”に入るのニャ!」

「オマエな! ヒトがあえて避けた表現するんじゃねぇよ!」


 無論、それは棺桶なんて辛気臭い代物じゃなく、只の空の木箱なんだが……そう言われると入る気が極端に失せるだろうが!


「……はぁ。まぁ仕方ねぇか」


 荷台に乗り込んで扉を閉めてしまえば、この自走輪なら外から中を伺う事はまず出来ない――が、町の出入口や関所では、直接積荷が確認される事も在るだろう。それなら、やっぱり木箱の中に身を隠していた方が安全だ。


「言わなくても分かってると思うけど、この自走輪は〈トルビオ〉までは行かないニャよ」

「ああ。俺はあくまで運搬の“ついで”だろ、其処は弁えてるよ」


 ここ〈メルトス〉での発掘品――宝石や装飾品の類ではなく、主に“遺跡怪物”等の“材料”と成る発掘品は、〈ハーガン〉って町にまで運ばれ、そこで加工され“製品”として出荷される。この自走輪は、その〈ハーガン〉にまで“材料”を運ぶ為の物だ。

 もしそのまま〈ハーガン〉にまで行ってしまうと、逆に目的地である〈トルビオ〉から離れてしまうので、途中で降りて別の移動手段を確保しなきゃならん。


「荷物の方は大丈夫かニャ?」

「コッチはミリーヤさん達に手伝って貰ったからな。問題ねぇよ」

「そっか。あ、操縦はウチの信用できる職員がするから、其処は何も心配いらないニャ」

「そりゃ助かる。そこは俺にはどうしようもねぇからな。お前がそう言うなら安心だ」


 俺には自走輪の操縦なんて出来ないからな、走行中は全面的に命を預ける事になる……精々、事故を起こさない様祈っておこう。


「何か質問はないかニャ?」

「ん、そうだな……この荷台の扉、内側からでも開くのか?」

「扉の閂は外側からじゃなきゃ外せないニャ。でも、もし道中で何か在ったら、前の方の壁を叩けば良いニャ。そうすれば操縦者が気付いて扉を開けてくれるニャ」

「そうか。分かった」


 出来れば内側からでも開けられると良かったんだが、流石にそこまで贅沢も言っていられんか。


「他には何かあるかニャ?」

「うんにゃ、特には……あ、そうだ」


 思い出した。


「そういえば、昨日の朝市で結構な食材買い込んだんだった。フール一人じゃ食い切れねぇな……シュルシャ、お前俺の変わりにアイツと一緒に食っちまってくれよ」

「ああ、それならもう――」

「あン?」

「あ、い、いや……そ、それは助かるニャ~! 暫くは食費が浮くニャ~。あり難いあり難い」


 そう言って、ネコ娘はうんうんと大袈裟な様子で頷いている……何だコイツ?


「……お前、またなんか変な事企んどるんじゃなかろうな?」

「そ、そんな事ないニャ。シュルシャはただ、レイドの旅の無事を祈っているだけだニャ」

「……」


 疑惑の念が尽きん。それにコイツには色々と前科が在る――が、今はソレを問い詰めている暇はない。


「まぁいいか。どうせ当分、お互い顔を合わせる事もねぇ訳だし」


(――あ)


 何気なく口にした台詞だったんだが、そこで改めて自覚した。


(そうか……考えてみれば、当分コイツとも会えなくなるんだよな)


 奇妙な感覚だ。今回の旅は、いつ戻って来れるか分からない。

 〈トルビオ〉に向かうだけでも数日は時間が掛かる上に、もしかしたら其処からまた別の場所へ移動する羽目に成るかもしれないのだ。

 少なくとも、〈トルビオ〉に到着した時点で俺の旅がはい終了……とは行かないだろう。


 だからフールの奴やシノブさん、マスターや爺さん達の様に、俺の身近に居た連中とは暫く会えないものと覚悟していたんだが――どういう訳か、シュルシャにだけはそういう事を考えなかった。


(……そういえば)


 思い返せば、今迄かなり長い期間遺跡に潜る際も、コイツと暫く会えなく成るなんて考えた事は、一度もなかったように思う。


 遺跡に発掘に行く際は、その前後で必ずと言って良い程顔を合わせるし、普段町中を歩いていても良く遭遇する。〈黒羽〉では一緒に飯を食う機会も多く、タマの休みが重なれば、遠慮なんぞ微塵も見せずに俺の家に押しかけて来る事も在る。

 会いたければいつでも会える。会いたくなくてもそのうち会う――俺にとってもコイツにとっても、俺達はお互いそういう存在なのかもしれん。


 多分そのせいで、コイツに対しては“会えなく成る”と言う想いが、他の奴より希薄になるのかもしれん。


「さて、質問はもうないかニャ?」

「……ああ」

「そ。じゃあシュルシャはもう行くニャ。まぁ身体にだけは気を付けてニャ」


 そう言うと、シュルシャはそのままあっさり荷台から出て行こうするのだが――その背中に、何故か俺は焦りを感じた。


「なあ」

「んー?」


 呼びかけにシュルシャが振り返る。


「……お前は聞かねぇのか?」

「何を?」

「最初は〈トルビオ〉に行かないって言ってた俺が、どうして行く気に成ったのか――とか」

「聞いてほしいのかニャ?」

「そう言う訳じゃねぇんだが……聞かれなかったからよ。誰にも」

「ふーん」


 ――そう、聞かれなかった。


 ハムとの会話の後、俺は当初の予定を変更して〈トルビオ〉に行くと決めた訳だが、その旨を爺さんに伝えた際、爺さんは何も聞かずにそれを了解してくれた。“興味がない”と言うよりは、予め予想していた感じだったが。

 準備を手伝ってくれたミリーヤさんやリンシャンの二人も、特に理由を尋ねてくる事はなかった。


(まぁリンシャンの場合は、本当に興味がなかっただけかもしれんが)


 仮に訊ねられても、ハムとの会話をどう説明したら良いか分からんので、聞かれないならそれで良いと、特に自分から説明する気もなかったんだが……正直、ここまで触れられないと逆に気持ち悪い。


「シュルシャも別に聞くつもりはないかニャー」

「何でだよ?」

「さっきも言ったけど、シュルシャはレイドを“焚き付けた”側ニャ。レイドがこうして行くと決めてくれた以上、シュルシャからは特に言う事も聞く事もないかニャー」


 その台詞に、何処か釈然としないモノを感じる。


「……別に、お前に言われたから行く訳じゃねぇよ」

「それならそれで構わないニャ。寧ろシュルシャが言ったからじゃなく、レイドが自分で決めてくれたなら尚の事文句なしだニャ!」


 そう言うシュルシャの顔は、まるで自分の事に様に自慢気に見える。


「何だよそりゃ」


 そんなシュルシャの様子に、いつもの俺なら肉体言語を用いた辛辣な突っ込みを返してやる処なんだが……何故か今は、突っ込む気力が沸いてこない。


「それに、皆がレイドに聞かないのも当然ニャ」

「どう言う意味だ?」

「シュルシャは言ったニャ。“誰もレイドには言わない”って、“感じた事をしてもらいたい”って」

「……ああ」


 深夜、部屋前での会話を思い出す。


「つまり、そう言う事だニャ」

「いや、訳が分からんぞ」

「まぁそんなに深く考えなくても良いニャ」


(何だそら?)


 つか、適当なこと言って煙に巻いてるだけじゃあるまいな。


「でもレイド……これだけは覚えておいてほしいニャ」

「ん、何だ?」


 すると、シュルシャは少しだけ――本当に少しだけ、深夜の別れ際に見せた塞ぎ顔を、薄く俺に向けてきた。


「レイドはよく、自分より周りの親しい人達を優先する事が在るニャ」

「……そんなつもりはないが」

「自覚がないのが厄介。夜のジーチャン達との会話が良い例ニャ」

「ンな事言われたってなぁ」


 実際、俺にそんな自覚はない。シュルシャは俺が自分より他の奴を優先すると言うが、それは流石に買被りだ。

 俺はただ、どうせ何かするのなら、俺を含め仲の良い連中が得をすれば良い。又は、なるべく損をしない様にと考えているだけだ。

 それだって“皆で仲良く”なんて御為ごかしなんかじゃなく、“個人の得”より“全体の利益”を優先した結果でしかない。


「けど……その優しさは一種の“枷”ニャ」

「“枷”?」

「そう。レイド自身をこの町に縛り付ける鎖ニャ」

「お、おいおい。その考えは幾ら何でも飛躍しすぎだろ」


 “枷”だとか“殻”だとか。どうして俺の周りの連中は、そう一々大袈裟な物言いをするのか。

 そんな考え方、俺は一度だってした事がない。俺が好きでやってる事だ。それが、一体どうして俺を縛る枷に成るのか。


「ううん」


 だが、シュルシャはかぶりを振る。


「この際、レイドがどう思うかは関係ないニャ。問題は、その優しさを向けられた側がどう感じるかニャ」


(優しさを……向けられた側?)


「だからねレイド……シュルシャ達を、そんな“枷”にはしないでほしいニャ」


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