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久方ぶりのうPでごさいます。更新ペースが戻ると良いね!(切実)
◇
「――とまあ、色々とアッサリした物言いのメッセージだったが、あの親父らしいっちゃーらしかったな」
フールの奴を客室に放り込んだ後、俺は〈黒羽〉での短剣“ハム”とのやり取りを、爺さん達に掻い摘んで説明した。
勿論、この短剣が“古代遺物”であるとか、“実は喋るんだ”などといった爆弾発言は伏せておいて、単純に親父からのメッセージを見付けたとしか伝えていない。
別に嘘を吐いている訳じゃない。だからこの爺さんが相手でも、本当の事がバレる心配はないだろう……多分。
(まぁどうせ、“何かを隠してる”――って事はバレてるだろうしな)
「そっか。だからレイド、〈黒羽〉でマスターに〈トルビオ〉の町について聞いてたんニャね」
「ああ、まーな」
「フム……」
俺の話を聞いた爺さんは長く伸びた髭の先端を摘まむと、何やら考え込む様にして摘まんだソレに焦点を合わせている。
その仕草は爺さんが考え事をする際、たまに見せる癖みたいなものなんだが、摘まんだ髭を縒る様に玩ぶその姿は、傍から見ると妖しい占い師に見えなくもない。
「……確かにタイミングだけで考えるのなら、今の話が関わっていてもおかしくはないのう。ひょっとしたら、その隠してあると言う代物がアレッシオの狙っておる物なのやもしれん」
「だけどアイツ等、何処でこの短剣の事を知った? 俺がコイツを見付けたのはもう一週間以上も前だが、親父からのメッセージを知ったのはつい数時間前だぞ」
「そこまでは分らん、あくまで可能性の一つじゃからな。彼奴とて独自の情報網を持っておるじゃろうし、それに……もしかしたら、お主の父親から直接聞いたのかもしれん」
「……まぁ、あの親父の事だから一概に否定はせんが、なんでまた?」
「借りがあるんじゃよ」
「“借り”?」
(あの親父が、国軍のお偉いさん相手に“借り”?)
俺の親父は基本、貴族とか王族とか、その手の連中が余り好きじゃない――いや、寧ろ嫌ってると言って良い。
(前にチームを組んでいたって時点で既に驚きなのに、あの親父が国軍のお偉いさん相手に借りを作った?)
俺的には、親父が情報をアレッシオに渡した事よりも、そっちの方が驚きだった。
「お主の父親だけではない、ソーヤの奴やこのワシもまた、彼奴に大きな借りが在る」
「え!! マスターと爺さんもか!?」
「ウム」
(お、おいおいおい!! マジかよ!!)
「いやーあの時は本当に上手い事やられたわい。ホーッホッホ」
相手に作る“借り”って奴は、言ってみれば自分の“弱み”を握られる事と変わらない。
だというのにこの爺さんは、ちょっと暇つぶしにやったボードゲームで、たまたま勝負に負けてしまった――程度にしか考えていないのか、自分の頭をポンポンと叩きながら呵々と暢気に笑っている。
「しかし、情報の出所に関してはこれ以上話しても結論は出んのう。なにぶん手掛かりが少な過ぎる」
「いや、今の話だと親父が原因でも何らおかしくないと思うが」
「言ったじゃろう、ソレもあくまで可能性の一つじゃ。全く違うルートから情報を得ているかもしれんし、そもそもその短剣が原因とも限らん。早計は禁物じゃて」
「う~ん……」
釈然としない……ホント、何で狙われてんの、俺。
「だがしかし、もう一つの方には少々心当たりが在る」
「もう一つ?」
「“闇の宝玉”の件じゃ」
“闇の宝玉”――多分、俺がアイツ等に狙われてる一番の原因なのだが、俺自身はそんな物を見た事も聞いた事も無い。
「一体何なんだ、その“闇の宝玉”ってのは。軍のお偉いさんが欲しがる様な代物だから、よっぽど良いお宝みたいだが」
「お主も発掘者やっとるんじゃ、〈三遺の十二宝〉の話は知っとるじゃろう」
「あん? あの御伽噺がどうかしたのか」
「実はあれ、本当だって知っとる?」
「…………へ?」
(本当? え、あの御伽噺が?)
「……マジで?」
「マジで」
「……担いでない?」
「担いどらんよ。本当に実在しておる」
「……ウソでしょ?」
「ウソじゃないよ」
「またまたぁ~」
「いえ、〈三遺の十二宝〉は実在します」
「成る程」
まぁ確かに、今の俺が持っている短剣――ハムの奴も、御伽噺に出てくる様な“古代遺物”だ。
ミリーヤさんの言う通り、その“古代遺物”の最高峰と目される〈三遺の十二宝〉が実在してるって話も、今の俺には一概に、嘘だホラだと切って捨てる事は出来ない。
「これ、ちょっと待たんかい。どうしてワシの言う事は最後まで疑って、ミリーヤの言う事は素直に信じるんじゃ?」
「人徳だな」
「人柄じゃないかニャ~」
「人格でしょう」
「「エ?」」
「ホッホッホ。ワシ全否定…………泣いてもいいじゃろうか」
――ま、まぁ、いじけた爺さんや、ミリーヤさんの辛辣なコメントは置いておくとして。
〈三遺の十二宝〉――大昔、この世を支配していた一人の王は、この世界を離れる事を決意する。
そして、自分の持つ十二の宝を、この世界に残った三人の臣下に分け与えた。
三人の臣下達は、いつか再び王が戻るその日まで、その宝を世界の何処かに隠した。
だが、王は戻る事なく、宝は未だ隠されたままになっているという。
そのお宝の事を、俺達は〈三遺の十二宝〉と呼んでいる。
実はこの文言、詳細は違うが同じモノが遺跡の入口付近の壁に画かれていたりする。
全ての遺跡じゃなく、画かれているのは規模の大きい遺跡が殆どなので、遺跡に入る際の良い目安に成っている。
古代の文字で書かれているから普通に読む事は出来ないが、俺の場合は前に親父から教えて貰った。
まぁ内容自体はもう翻訳されて随分経ってるからな、今じゃもう〈黄金の瞳〉に関わる人間なら、誰もが知ってる内容だ。
――とは言え、大陸各地で遺跡発掘が盛んに行なわれる様になって数年、その“王の宝”が見付かったなんて話は、今迄一切聞いた験しがない……もしそんな物が見付かれば、噂が広がらない筈がないからな。
だから他の発掘者達も、皆この文はだたの伝説か御伽噺程度にしか考えていない。中には本当の話だと信じている奴もいるが、それは圧倒的に少数だ。
ただ今迄不思議だったのは、前に俺の親父に〈三遺の十二宝〉の話を信じているのかと聞いたとき、ハッキリとはその答えを返してこなかった事だ。
あの親父の事だから、てっきりまた根拠のない自信で「当然ある!」とか言い出すかと思ったんだが、何故かこの話題に関しては答えを濁していた。
あの親父にしては珍しく歯切れが悪いと思っていたんだが……アイツ、さては本当の事を知ってて秘密にしていやがったな。
「それで、その〈三遺の十二宝〉の話と“闇の宝玉”に、一体どんな関係があるんですか?」
未だにイジけている爺さんは避け、隣に立っているミリーヤさんに聞いてみる。
「過去〈黄金の瞳〉での独自調査の結果、〈三遺の十二宝〉に関連のある古代文字の中に“闇の宝玉”についての記述を確認しているの」
「アレッシオって奴が狙っているのは、その〈三遺の十二宝〉の内の一つって訳ですか」
「それが、そうとも言えないの」
「え?」
どういう意味だろうか。その“闇の宝玉”が、奴等の狙いじゃなかったのか。
「〈三遺の十二宝〉の記述の中には、確かに“闇の宝玉”についての記述が在るのだけれど、その“闇の宝玉”が〈三遺の十二宝〉の内の一つとは、未だに特定できていないの」
「ああ、そういう事ですか」
つまり、〈三遺の十二宝〉の文言の中に“闇の宝玉”の単語は確かに出てくるが、ソレが十二のお宝の一つとは限らないって意味だ。
「此処から先はコチラの推測になるけれど、〈黄金の瞳〉ではこの“闇の宝玉”を、〈三遺の十二宝〉を手に入れる“鍵”の様な物だと考えているの」
「“鍵”ですか。つまり連中の狙いはあくまでも〈三遺の十二宝〉で、ソレを手に入れる為に“闇の宝玉”を欲しがっている――って訳ですかね」
「現状から見れば、そう考えるのが自然でしょうね」
「ねぇミリーヤ」
「何です、シュルシャ」
「結局の処、アイツ等が狙ってるお宝ってどんな物なんだニャ?」
(ちょっ!? バカ猫こいつ!!)
シュルシャのその質問を聞いて、一瞬俺の心臓がギクリと跳ね上がる。
「……残念だけど、そこまでは流石に判らないわ。古代文字はまだ解読が完全には済んでいないし、〈三遺の十二宝〉に関しての記述には、比喩的な表現が特に多いの。解読が完了するのはまだ当分先でしょうね」
「ありゃ、そうなのかニャ」
「ええ」
(フ~……)
このバカ猫、突然なんちゅー質問をミリーヤさんにぶっ込むのか。お陰で寿命が少し縮んだぞ。
でもまぁこの場合、例え古代文字の解読が済んでいたとしても、そう簡単には教えて貰える筈がな――
「――と言うのは建前で、実は解読自体は当の昔に終わっとるんじゃな~コレが」
「おいいい! このクソ爺!! 人が敢えて聞かなかった事を、ンな簡単にバラすんじゃねえええ!!」
「んん? なんのことじゃ~? 因みにそのお宝の名は“光の花”と言ってのぉ――」
「わー! わー! 止めろ、聞きたくねーー!!」
俺は咄嗟に耳を塞ぎ、ソファーの裏に身を隠す。
「俺は何も聞いてない! 何も聞いてないからな!!」
「ホッホッホ。残念ながらもう無駄じゃよ。ホレホレ、観念してとっとと出て来んかーい」
(ふざけんなよこのクソ爺! 一体どういう心算だ!?)
「……マスター、宜しいのですか」
「宜しいんじゃよミリーヤ、アレッシオの奴めがついに痺れを切らしおった。今回こそは本気じゃろう。遠からず隠し通す事は不可能に成る。なら、今此処で言ってしまっても問題なかろうて」
「何勝手な事言ってんだ! ンな事に人を巻き込むなよ!」
「今更何を言っておる、今回の中心人物はレイド、間違いなくお主じゃぞ」
「何でだよ!? 俺は関係ねぇだろーが!!」
「やれやれ、お主はもっと賢い奴じゃと思ったんじゃがのう」
「……どう言う意味だよ」
両耳から手を離し、ソファーの縁から向こう側を覗き見ると、さっきまで俺達にボロクソに言われていじけていた爺さんが、今は呆れ顔でコッチを見ていた。
「遺跡にある古代文字の解読は、実際はもう一年程昔に済んでおる。まぁ現時点で〈黄金の瞳〉が確認しておる遺跡に限るがな――さて、成らば何故一年もの間、ワシ等はこうしてその事実を隠し通してきたのか……その理由は解るな」
「……まぁそりゃな。内容にも寄るが、ンなモン極秘扱いにされてもおかしくない――つーか、逆に極秘扱いにしねぇとおかしいだろ」
聞いてしまったものは仕方ないと半ば諦めつつ、俺は再びソファーに腰を下ろす。
遺跡に残されている文章ってのは、当然の如く大昔に画かれたモノであって、遺跡が創られた当時の様子を詳しく知る貴重な資料に成る。
なので、それらの文章には非常に大きな歴史的、考古学的価値がある……のだが――
遺跡発掘が未だ頻繁に行なわれていなかった一昔前ならいざ知らず、現代においての古代文章の価値は、決して“歴史的”や“考古学的”なモノのみに留まらない。
今の俺達が暮らすこの社会は、良くも悪くも遺跡による多くの恩恵によって成り立っている。そしてソレは、之から先も益々盛んに成って行くだろう。
人々の生活水準は確実に向上していき、暮らしは安定して楽に成る。そしてやがては、遺跡から発掘された“失われた技術”の原理も解明され、人間は独自の技術形態をも構築して行くかもしれない。
しかし、人間が社会と言うモノを持ち、国と言うモノを持ち、そして他者から与えられたモノであろうと、自身で産み出したモノであろうと、ソレを利用する事の出来る知恵と知識を持っている以上、あらゆる“技術”はまず真っ先に、“とある分野”において過剰に利用、或いは転用される場合が殆どだ。
即ち――他国との“戦争”を想定した“兵器利用”である。
敵側が対抗する事の出来ない兵器を手にする事が出来たのなら、それだけで戦闘は自分達の有利に傾く。場合に寄っては味方に一切の被害を出す事なく、全ての敵を駆逐する事の出来る展開にすら導けるのだ。
時にそれは、戦争に参加する“人数”や、圧倒的不利を覆す“戦術”以上の成果を産み出す。今迄繰り返してきた戦争と言うモノの根幹すら、揺るがしかねない可能性をも秘めている。
新たな技術の獲得は、それだけで他国との競争において強力な“優位性”に成る。
だから、未だ解明されていない多くの“失われた技術”を内包している遺跡という存在は、その“優位性”を得る為の重要な切り札であり、その謎を解明する事は、国家と言うモノを運営する者達にとっての、欠かす事の出来ない義務と成っている。
そして、そういった技術は国家間――敵味方両者に同様の水準で普及し、その価値に優位性といった付属品が無くなって初めて、俺達みたいな一般の人々の暮らしに提供される。
実際、今の俺達が使用している“否火灯”や“自走輪”も、過去真っ先に戦場で利用され、そして幾度もの改造や改良を経て俺達の下に転がり込んできた――言ってみれば“御下がりの技術”だ。
しかし、当然の事ながら一度手にした“優位性”って付属品を、人はそう簡単には手放そうとはしない。そして、その“優位性”って代物は、実の処とてつもなく脆く、そして崩れ易い。
だからこそ、そういった物は“極秘”として取り扱かわれ、特に厳重に保管し管理されるものなのだが――
もし、その“優位性”が何らかの事態で損なわれそうに成った場合――例えば、どっかの惚けた爺さんが、世間話の最中に軽い乗りで、ソレに関する話をポロッと漏らそうもんなら、その“極秘情報”を管理する側の連中が、聞かされた側に対し一体どんな行動に出るのかなんて、正直考えたくもない。
「だから敢えて聞かなかったっつーのによぉ……」
「ホッホッホ。まぁ聞いてしまったものは仕方ない。年貢の納め時と思って諦めい」
不用意にそんな話を聞かされた側としては堪ったものじゃないが、厄介な事にこの爺さんは、その情報を“管理する側”だ……性質が悪いにも程がある。
「特に〈三遺の十二宝〉などという大物とも成れば、その情報の扱いは機密中の機密。当然、その存在を知っている者はごく僅かに限られる。それこそ遺跡の所有者である国のお偉いさんや、管理者であるワシ等〈遺跡発掘世界機構〉の一部の者達だけじゃろうて」
「他には、今この部屋に居る連中――ってか?」
「ま、そういう事じゃな」
(“じゃな”じゃねーよ)
「当然それ程の情報ともなれば、その扱いには慎重を期す。一歩間違えれば、逆に己の首すら絞める羽目に成りかねんからのぅ」
「まぁそうだろうな」
「じゃがさっきも言った通り、今回のアレッシオの動きは明らかに速すぎる。重要な情報を扱っておるとはとても思えん、余りにも迂闊すぎる」
「……確かにな」
奴等の狙いが〈三遺の十二宝〉なら、その情報は爺さんの言う通り最上位の機密事項だ。
俺の様な小者とは違い、相手は国軍のトップ。もし確実にお宝を手に入れたいなら、その方法と手段には事欠かない筈だ……だというのに、相手の動きには随分と雑な面が多い。
時間を掛けた入念な準備をした様子もなく、この町に来たのはたったの四人。しかも頭であるアレッシオ自らが直接現場に出張ってきた。
もし俺がアレッシオなら、その百倍の人数をこの町に動員して、自分は後方に控えて結果を待つ。
何かを探すなら人数は多いに越した事はないし、頭を潰されりゃ蜥蜴は生きてはいられない。トップは安全な所に置いておくに限る。
頭は隊全体に指示を出すのが仕事であって、前線で剣や槍を振るうのは兵隊にでも任せておけば良い。
そして、コレが一番引っ掛かったんだが――コレだけの事をしておいて、奴等は俺の顔を“知らなかった”のだ。
奴等は俺が“闇の宝玉”に関わっていると踏んでいるらしいが、だったら尚の事俺の顔を知らないのはおかしい。これはもう、行動が雑なんて話じゃない。
奴等が扱っているのは間違いなく国家機密に類する代物の筈なんだが、ここまでの行動を見る限り、まるでソレを隠そうとしている様には見えない。
情報の“機密性”よりも兎に角“急いでいる”――物事を“迅速に済ませる”事を優先している様に感じられてしかたがない。
「多くの人間が無駄に動けば、当然そこから様々な情報が漏れ出る。よってアレッシオの少数精鋭の方針は、情報漏洩の観点から見れば実に有効じゃ……じゃが、それにも限度というモノがある。なにせ町中での矢の射弓、工事現場での施設破壊、更にはお前さんに対しての障害未遂と、まぁこの短い間に良くやってくれたもんじゃわい」
「お、俺は悪くねぇからな」
「それは分っとる。じゃが、その程度の事は全て彼奴らに握り潰されるじゃろうな」
まぁ相手は国軍のお偉いさんだ、その位は朝飯前だろう。
「しかし、実際に起こってしまった事は、もう無かった事には出来ん。奴等の姿を目撃した者も幾人かは居るじゃろうし、朝日が昇ればこの噂も瞬く間に広がって行くじゃろう」
「ま、一部じゃ既に話題に成ってるだろうな」
「ニャハハ。〈黒羽〉でも結構派手にやってたからニャ~」
「アレだけやっておいて噂にならない方がおかしいわな」
「しかも、関わっているのがレイドさんともなれば、噂の肴としては申し分ないでしょう」
「……一概に否定できないのが辛い処です」
何故だろうか、日頃なるべく目立たない様に心掛けているんだが、その努力がいつまでたっても報われる様子がない……おかしい。俺は一介の発掘者でしかない筈なんだが。
「――さてレイドよ、此処で一つ質問じゃ」
「あン?」
「このまま行けば〈三遺の十二宝〉の情報はその機密性を失い、遠からず多くの民衆に晒される事になるじゃろう。まぁ、既に遅かれ速かれと言う段階ではあるんじゃが」
「……それで?」
「其処でじゃ、手持ちの情報が――この場合は〈三遺の十二宝〉の情報じゃが、それが外部へと流出し、持っていた情報から“機密性”が失われた場合、ソレは情報の持ち主にとっての“利益”か“不利益”か――さて、どちらじゃと思う?」
「そらぁどう考えたって“不利益”だろ」
今迄必死に成って隠してきた自分だけの秘密が、自分以外の多くの連中に知られる事に成る――つまりは“優位性”が無くなるんだ。
そんなもん“不利益”以外の何に成るんだ。
「通常ならばそうじゃろうな……じゃがしかし、その状況を自身の“利益”に――しかも、“圧倒的な利益”に変える方法が在るとしたら、ソレは一体どの様なモノじゃと思う?」
「ああ? ンなもん在る訳――」
“ない”と言い掛けて口を噤む。
見ると、爺さんは何処か楽しそうな顔で、だが全く笑っていない眼で俺の事を見ている。
(……ったく、俺の親父と言いこの爺さんと言い、どうしてこう人を試そうとすんのかねぇ)




