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まぁなんだ、これが俺の冒険譚だ。  作者: TSO
第一章 〈光の花〉と〈闇の宝玉〉
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 ◇◇◇


 ィャーーーーー……


「うん?」


(今、何か聞こえたような?)


「どうしたの?」

「いや……」


(まぁ良いか)


 それより今は逃げる事に専念しよう。でないと――


 ガンッ


「アダッ!?」

「お~」


 こうして何かに蹴躓いたりする羽目に成る。


「くっそ! だから裏路地は嫌いなんだよ!」


 この辺りの路地は細く入り組んでおり、日の暮れた今の時間帯は見通しも悪く追っ手を撒くには都合が良い。だが、お陰でコッチも走り辛い事この上ない。


(なんでシノブさんみたく片付けておかないんだよ!)


「しっかし、ホントここは迷路だな!」

「そうだね~」


 この町に在る細い路地は、ここ最近の増改築の繰り返しによって今迄無かった所に壁ができたり、逆に今迄有った所の壁が無くなったりと、まるで迷路の様に入り組んでいる場所が多い。

 余りに頻繁に構造が変わる為、地元民である俺すら時々方向が解らなく成る位だ。


 ある意味、“生きた町”って奴は“死んだ遺跡”よりもよほど性質が悪い。


 ガシャン


「だー! また何か蹴ったぞ!?」

「レイド~、ボク下りようか?」


 ――と、肩に乗せたままの相方が提案してくる。


「いや、まだそこに居ろ。アイツ等は追ってきてるか?」

「えっとねぇ~、誰もきてないっぽい」

「そうか」


 奴等の追跡を避ける為、さっきから路地を右左に曲がりながら進んでいる。人混みに紛れる程じゃないが、これで相手が撒けるなら御の字だ。


(撒いたか、それとも諦めたか)


 ともあれ、相手の姿が見えなく成ったのなら、このまま走り続ける必要もないだろう。まだ少し気には成るが、何か変なモノを踏まないうちにとっととこの汚い路地から抜け出す事にする。


(これ以上靴を汚したくないからな)


「フール、表通りに出るぞ」

「う~い」


 路地から飛び出すと、狭くて暗かった視界が一気に開ける。


 念のため周りを見回して見るが、あの四人組の姿は何処にも見当たらなかった。どうやら、無事逃げ切ったらしい。

 だが、念には更に念をだ。今の内に中央通りに出て人混みに紛れてしまおう。家に帰るのはその後だ。


「よし、中央通りは向こ――」


 スタンッ


「どわっ!?」

「おぉう?」


 俺達が中央通りへ向かおうとすると、突如纏った外套を翻し、目の前に一つの人影が振ってきた。

 良く見ると、ソイツはさっきまで俺達を追っていた連中の一人。あの体格が一番小柄な奴だった。


(コイツ! 屋根の上走ってきやがったのか!?)


 イキナリ目の前に出てこられて驚いたが、同時に納得もした。


 さっきまで俺は、何かを蹴ったり何かにぶつかったりと、盛大に音を発てながら細い路地を走っていた。

 それなら逆に、俺達を追ってくる側からも、同じ様に何かを蹴ったり何かにぶつかったする音が聞こえてきても良い筈だ。

 だが、走りながら背後に聞き耳を立てていても、そんな物音は一切聞こえてはこなかった。


 確かに、裏路地は狭くて暗くて進み辛い。俺達の追跡は困難だろう。

 だが、相手は町中で矢まで打ってくる様な危ない連中だ。その程度の事で追跡を諦めるとは思えない。

 なので、もし連中が追跡を続けているのだとしたら、路地以外の別ルートで追って来るか、何処かで待ち伏せでもしていると予想していたのだが……まさか上から“降ってくる”とは。


「屋根の上を走ってくるとか……なんつー非常識な奴」

「……え? 誰が?」


 何やら、俺の発言に頭上の相方が困惑している模様。

 まぁつい一週間程前にも、“どっかの誰”かが屋根の上を走り回っていたらしいが……。


「いや、“どっかの誰か”じゃなくって~、それってレイ――」

「お黙んなさい」

「うい……」


 だが、ソイツだって走っていたのは明るい昼間のうちだ。もし暗い夜のうちに屋根に上がり、誤って足を踏み外そうモノなら、硬い地面へと向け真っ逆さまだ。

 打ち所が悪ければ首の骨を折って即死だろうし、そうでなくても高さによっては足の骨程度なら簡単に折れる。なので、夜に屋根に昇るなんて自殺行為も良い処だ。


(あれ? でもコイツ、今上から降ってきたよな?)


 目の前に落ちてきたその追跡者は、まるで何事もなかったかの様に立ち上がると、こっちの出方を伺う様に佇んでいる。

 見上げると、ソイツが飛び降りてきたと思われる屋根までは結構な高さが有るのだが、骨折どころか足を挫いた様子もない。


(ただの常人ノーマーじゃないな、獣人アルマーか? しっかしコイツ等、一体何が目的で――)


 まかさ“コイツ”では有るまいなと、腰裏の短剣に手を伸ばそうとした処で――


「ッシ!」

「アブネッ!?」

「お~」


 俺のその動きに反応し、相手の方が先に動いた。

 被ったマントを翻し、腰元から二本の棒を取り出すとそれを繋げて一本の槍に変へ、その石突を俺の額目掛けて突き出してくる。

 よっぽど訓練されているのか、それは淀みのない流れる様な動きだった――だが、“先に”動いてくれたのは、寧ろコッチとしては有り難い。


 俺は咄嗟に頭を下げその石突を躱す。

 勿論、そのままだと肩に担いでいるフールに突きが直撃するので、顔の横に有るフールの両足を引っ掴むと、頭を下げると同時にそれを高く持ち上げた。

 突き出された槍が、丁度俺の頭上とフールの股下の間を抜けて行く。


 そうして、見事相手の初撃を回避した俺は、両手で持ち上げたフールの奴を――


「ンでいッ!」


 ポーーイ


「お~~」


 相手の顔目掛けて投げ付けた。本日二度目の“人間投擲”である。


「なっ!? ンムゥ――!?!」


 見事に命中。

 相手の顔にガバリと覆い被さったフールは、両手両脚を使って相手の頭をガッチリと固定する。

 コレをやられると、流石に大抵の連中は混乱して動きが止まる。そして更にココから、俺の止めの一撃が炸裂する。


「ンン!? ムゥー!?」

「ていっ」


 フールを顔に貼り着けたまま、ふら付く相手の膝裏目掛けて軽い蹴りをお見舞い。


「ンムゥッ!?!」


 それだけで、そいつはまるで支えを失った生まれたての子鹿の様に、アッサリとその場に崩れ落ちた。

 因みに――今迄俺とフールのこのコンビネーション技を受けて、体勢を崩さなかった奴は居ない。


 ドサッ


「クハッ!」


 仰向けで倒れると同時に、フールの奴が放り出される様にして顔から剥がれ落ち、通りの端へ向けコロコロと転がって行く……転がるの上手いなアイツ。


「クッ! おのれ!!」


 そいつは慌てて立ち上がると、直ぐに俺からの追撃に備え手元の槍を構え直すのだが――


「あ、あれ?」


 かくいう俺はと言うと、既にその場を離れ、一人すたこらと中央通りに続く路地へと逃げ込んでいた。

 路地に入る際、その小柄な追跡者に向け軽く手を振っておく。流石にここまでくれば、人混みに紛れる前に追い付かれる事はない。余裕の表れである。


「あいつ!?」


 多分そんな俺を見て、小さな子供を残して自分だけ逃げる非道な奴――とでも思ったんだろう。

 フードの奥から向けられる視線が、物凄く険しく成った気がした……失敬な奴め。


 俺は“基本的”には優しい男だ。どこぞの喧しいネコ娘程度ならともかく、これしきの事で相方を見捨てて逃げる様な薄情な男ではない。

 それに、俺が一人で先に逃げ出したからといって、別に俺“だけ”が逃げ出した訳でもない。


「く、なら!」


 奴等の狙いはあくまで俺だが、現時点で流石に俺を捕まえるのは不可能と判断したんだろう。

 一瞬、そのまま俺を追うかどうかで悩んだみたいだが、成らばせめて仲間の一人でも――と、直ぐに標的を俺からフールの奴に切り替える。

 そして、その小柄な追跡者は、取り残された俺の小さな相方の確保に動いたのだが……残念ながら、一瞬でも迷った時点で既に手遅れである。


「うっせ、わっせ」

「アッ!?」


 そいつが次にフールの姿を捉えた頃には、フールは既に近くの路地――いや、もはや“路地”とも言えない建物の間にできた“隙間”に身体を滑り込ませ、そのまま反対側の中央通り目指して突き進んでいた。

 慌てて隙間に近付き腕を差し込んでみても、間一髪でその指先はフールの体には届かない。


「コラ、戻ってこい!」


 無論、そう言われて“ハイ分りました”と戻るバカも居るまい。


「うんしょ、こらしょ」


 そんな呼び掛けなど意にも返さず、大通りへと向け横向きのまま邁進する我が相方。

 何とかその後を追おうと、そいつも隙間に入り込もうとするのだが、如何せん体格が違いすぎる。見た目は確かに小柄だが、フールの方が圧倒的に体が小さいのだ。真似して通ろうとか無理無理。


 その場から数歩下がって辺りを見回しても、中央通へ繋がる路地はさっき俺が入った所が一番近い。

 仮にその路地まで行って回り込むにしろ、また屋根の上に登るにしろ、今からじゃどう足掻いても間に合わん……詰みである。


「くそ!」


 今まさに隙間を抜けようとするフールの向こう側には、多くの人でごった返し、雑踏と外灯の明るさで満ちた中央通りが有る。

 たかが軒を一本隔てているだけだというのに、暗く人通りの少ないソチラとコチラでは大違いだ。コレも、この〈メルトス〉の町の特徴だ。


「ぷぅ」


 ――と、フールの奴が漸く隙間から顔を出した処で、さっきの路地から回り込んできた俺と再び合流……予定通りである。


「よ、ご苦労さん」

「うい~、やっと出れたよ~」


 そう言いつつ、フールは隙間を通る際に脱いだ帽子を被り直す。


「アアッ!? お前ぇ!!」


 フールが出てきた隙間を覗いてみると、向こうの通りから俺の顔を必死に指差す追跡者が見えた……近くでやられたら眉間を貫かれそうだな。


 取り合えず先程と同様、軽く手を振りながら――


「お疲れー」

「つかれ~」

「ふっざけるなーー!!」


(おー怖い怖い)


 何だろうな。こうして狭い隙間の向こう側から睨まれてると、檻の格子越しにこっちを睨む猛獣の姿を思い出す……やっぱ獣人じゃねーのかコイツ。


(イヤだねー。やっぱり人間、心に余裕のある生活を心掛けたいもんだ)


「ウンウン」

「コラー! なに一人で納得してんだー!」


 どうやら、本当に短気な奴らしい。

 このままからかってやるのも面白いんだが、他に居る三人の動向も気に掛かる。なので、さっさとずらかる事にしよう。


 ――と、その前に、後学の為に一言二言。


「お前さぁ、足も速ぇし腕も立つみたいだけど……実はバカだろ」

「ンなッ!?」

「よりにもよってこの町で、“余所者”が“地元民”追っ駆けて捕まえられる訳ねーだろが」

「だろが~」


(ま、さっきみたいに、町中で弓矢を使うなんて無茶な真似しない限りは……な)


 逃げるにしろ追うにしろ、その場所の土地勘が有るのと無いのとじゃ大違いだ。

 どうも脚の速さと身軽さには自信が有るみたいだが、最近この町にやって来たであろう新参者に、地元民である俺が“追い駆けっこ”なんぞで遅れを取る筈がない。

 俺を捕まえたかったら、せめて下調べ程度は事前に済ませておくべきだ。


「俺に何の用があるか知らんが、後日顔を洗って出直してくるんだな。じゃ、あばよ」

「ばよ~」

「アッ、ちょっと待て! 逃げるな卑怯者ーー!!」


 当然、逃げるなと言われて逃げないバカも居ない訳で。


 その後もそいつは引き続き、何やら隙間の向こう側で罵声を上げていた様だが、俺達が人混みの中に入ってしまうと、その声も周りの雑踏にかき消され聞こえなくなった。


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