「笑う者」
“何か”が笑った。
ククッ。
声は小さい。
なのに。
世界全体へ響いた。
止まっていた雨粒が、
ビリビリと震える。
空気が歪む。
執行官が即座に空を見上げた。
【未確認存在を検知】
【観測記録なし】
クロウの顔から、
完全に笑みが消えた。
クロウ
「……は?」
レンも異変を感じていた。
これは、
観測者じゃない。
もっと異質。
“世界の外”とも違う。
理解不能な違和感。
その時。
白銀ユイ
が苦しそうに膝をついた。
「ぁ……っ……!」
彼女の周囲へ、
白いログが漏れ始める。
大量。
異常な量。
レンが駆け寄る。
「ユイ!」
ユイの瞳には、
知らない景色が映っていた。
崩壊した都市。
血。
炎。
何千回もの死。
そして。
何度も、
レンを失う記憶。
「やめて……」
ユイが震える。
「思い出したくない……!」
その瞬間。
空に、
大量のログが展開された。
【白銀ユイ:記録解放開始】
クロウが舌打ちする。
「最悪だ」
「現実世界で覚醒したら、
世界線が耐えられねぇ」
レンが空を見る。
確かに。
周囲の景色が、
少しずつノイズ化していた。
ビル。
道路。
信号。
全部が、
“物語”へ変換され始めている。
現実世界そのものが、
異世界化しかけていた。
すると。
あの“笑い声”が、
また響く。
『やっと見つけた』
レンの背筋が凍る。
その声。
どこか、
懐かしい。
だが、
絶対に思い出してはいけない気がした。
執行官が剣を構える。
【発声元を探索】
【検出不能】
次の瞬間。
レンの背後で、
空間が裂けた。
バキッ。
そこから、
一人の少年が現れる。
黒いパーカー。
制服。
眠そうな目。
年齢は、
レンと同じくらい。
だが。
その瞳だけが異常だった。
真っ白。
完全な白。
執行官が絶叫する。
【危険!!】
【観測不可存在!!】
その少年は、
周囲を見回し。
楽しそうに笑った。
白紙アキ
「おー」
「ほんとにいた」
レンは息を呑む。
見た瞬間に分かった。
こいつ。
自分と同じ側だ。
“物語の外”の存在。
だが。
レンとも、
クロウとも違う。
もっと危険。
アキは、
レンを見る。
そして、
にこっと笑った。
「初めまして」
「観測者ゼロ」
「ずっと会いたかった」
レンは警戒する。
「……誰だお前」
アキは首を傾げる。
「んー」
「簡単に言うと」
彼は、
止まった雨空を見上げた。
「この世界を書いた一人」
静寂。
ユイが顔を上げる。
クロウの目が見開かれる。
執行官たちは、
完全に凍りついていた。
レンは理解できない。
世界を、
書いた?
アキは笑う。
「正確には、“書こうとした”かな」
「でも途中で、
世界が勝手に動き始めちゃってさ」
クロウが低く言う。
「……ふざけんな」
「そんな存在、聞いたことねぇぞ」
アキはあっさり答える。
「そりゃそう」
「君たち、
キャラクター側だし」
その瞬間。
世界が凍った。
レンの鼓動が止まる。
キャラクター。
つまり。
自分たちは、
作られた存在だと。
ユイが震える声を漏らす。
「……じゃあ」
「私たちの苦しみも」
「全部……」
アキは少しだけ黙った。
そして。
珍しく笑みを消す。
「最初は違った」
「ただの物語だった」
「でも」
彼は、
レンを真っ直ぐ見た。
「君が壊したんだよ」
レンの瞳が揺れる。
アキは続ける。
「観測者ゼロ」
「物語が“主人公の意思”を持った瞬間に生まれるバグ」
「本来ならありえない存在」
クロウが舌打ちする。
「だから世界がビビってたのか」
アキは笑った。
「うん」
「だって君たち、
作者の想定超えてるもん」
レンは拳を握る。
「……何が目的だ」
アキは、
少しだけ楽しそうに言った。
「続きを書きに来た」




