「永久削除」
【白銀ユイ:永久削除】
その文字が現れた瞬間。
世界から、
色が消えた。
空も。
炎も。
血も。
全部、
白黒になる。
まるで、
“ユイという存在”を中心に、
世界そのものが停止しているみたいだった。
白銀ユイ
は立ち尽くしていた。
瞳が揺れている。
震える指。
唇を噛みしめる姿。
怖がっている。
でも。
どこかで、
諦めてもいた。
「……やっぱり」
彼女は小さく呟く。
「いつか、こうなると思ってた」
レンの胸が痛む。
その声は、
何度も絶望を経験した人間の声だった。
クロウが低く舌打ちする。
「チッ……最悪の処分だな」
レンは振り返る。
「永久削除ってなんだよ」
クロウの笑みが消える。
「存在そのものを消される」
「死ぬとかじゃない」
「最初からいなかったことになる」
レンの呼吸が止まる。
前に自分が受けたものと同じ。
いや。
もっと酷い。
世界から、
記録ごと消される。
誰の記憶にも残らない。
完全な消滅。
空の上で、
上位観測者が静かに手をかざす。
無数の白いログが、
ユイを囲み始めた。
処刑コード。
世界修正。
存在削除。
レンの視界に、
大量の未来が流れ込む。
ユイが消える未来。
クロウが暴走する未来。
世界が再び崩壊する未来。
そして。
ユイのいない世界で、
自分が一人立ち尽くす未来。
「……ふざけるな」
レンは拳を握る。
そんな終わり、
認められるわけがない。
すると。
上位観測者の声が響く。
『感情的抵抗を確認』
『不要です』
『この修正により、物語は正常化されます』
その言葉を聞いた瞬間。
レンの中で、
何かが完全に壊れた。
「正常化?」
ノイズが走る。
白いログが暴れ始める。
風。
震動。
空間崩壊。
レンの瞳が、
赤と白の光を帯びる。
「人を勝手に消して」
「何回も世界を繰り返して」
「都合悪くなったら削除して」
空のログが揺れる。
世界が不安定化する。
上位観測者が、
初めて警戒を見せた。
『観測者ゼロの出力上昇を確認』
レンは、
ユイの前へ立った。
彼女を守るように。
ユイが震える声を漏らす。
「レン……」
レンは空を睨む。
そして。
静かに言った。
「そんなもんのために」
「物語なんか作ってんじゃねぇよ」
瞬間。
《物語改編》が発動する。
白い文字が、
空を覆った。
【この物語に、“永久削除”は存在しない】
世界が絶叫した。
ゴォォォォォッ!!
空に亀裂。
大地が崩れる。
処刑ログが停止する。
ユイを囲んでいた白い文字が、
一斉に砕け散った。
執行官たちが絶句する。
「止めた……!?」
「世界法則を上書きしただと……!?」
クロウでさえ、
息を呑んでいた。
「お前……そこまで……」
だが。
代償は即座に現れた。
レンの左腕が、
ノイズになって崩れ始める。
「っ……!?」
存在崩壊。
ログ干渉が強すぎる。
【観測者ゼロ:自己崩壊率 41%】
ユイが顔を青ざめさせる。
「ダメ!!」
「それ以上使ったら、本当に消える!!」
レンは苦笑する。
「……じゃあ」
「止まれって?」
ユイは涙を流しながら、
言葉を失った。
止めれば、
ユイが消える。
続ければ、
レンが消える。
どっちも地獄だった。
その時。
クロウが突然笑った。
「はは……!」
「やっぱ最高だなお前」
レンが顔を向ける。
クロウは、
ゆっくり仮面へ手をかけた。
ユイが目を見開く。
「待って……!」
だが。
クロウは止まらない。
仮面を外す。
その下から現れた顔を見て、
レンの呼吸が止まった。
それは。
“自分と同じ顔”だった。




