「世界の外側の主人公」
「“世界の外側の主人公”」
その言葉が、
レンの頭の中で何度も反響する。
主人公。
外側。
意味が分からない。
だが、
胸の奥が妙にざわついた。
神代レン
はクロウを睨む。
「……何言ってんだよ」
クロウは笑った。
「そのまんまの意味」
「お前、この世界の住人じゃない」
「いや、“どの世界にも属してない”」
空のログが激しく点滅する。
まるで、
クロウの発言そのものを世界が拒絶しているみたいだった。
【禁則情報を確認】
【情報封鎖を開始】
ノイズ。
レンの耳に、
激しい雑音が流れ込む。
「ぐっ……!」
頭痛。
思考が削られる。
だが、
クロウは平然としていた。
「相変わらずだな、この世界」
「都合悪いことは全部隠す」
ユイが震える声で言う。
「クロウ、やめて……」
「レンはまだ……!」
クロウが振り返る。
仮面越しでも、
笑っているのが分かった。
「まだ知らない?」
「そりゃ面白い」
そして、
レンへ近づく。
「なぁゼロ」
「お前、“夢”見たことないか?」
「知らない景色の」
レンの瞳が揺れる。
ある。
何度も。
崩壊した都市。
赤い空。
白い部屋。
泣いているユイ。
見たこともないのに、
なぜか懐かしい光景。
クロウは、
レンの反応を見て笑う。
「やっぱりな」
「記憶、残ってるじゃん」
「……記憶?」
クロウは指を立てた。
「ヒントをやる」
「この世界は“繰り返してる”」
「なら当然――」
彼は、
レンを真っ直ぐ見た。
「前の世界のお前も存在した」
その瞬間。
レンの脳内で、
何かが崩壊した。
ノイズ。
大量の映像。
知らないはずの記憶。
炎。
崩壊。
泣いているユイ。
そして。
自分自身。
黒いログに飲み込まれながら、
誰かへ手を伸ばしている。
「逃げろ、ユイ!!」
レンは息を呑む。
今の声。
自分だった。
だが、
今の自分は知らない。
こんな記憶。
こんな世界。
知らないはずなのに。
頭が痛い。
心臓が苦しい。
「……なんで」
クロウは静かに言った。
「お前、一回死んでるから」
空気が凍る。
ユイが顔を上げる。
「やめて!!」
クロウは止まらない。
「前の世界で、お前は世界修正に飲まれて消えた」
「だから本来なら、もう存在しない」
「でも――」
彼は空を見上げる。
巨大な瞳。
狂ったように点滅する世界ログ。
「ユイが何度も世界を巻き戻した」
「お前を見つけるために」
レンの呼吸が止まる。
ユイを見る。
彼女は泣いていた。
ずっと。
苦しそうに。
壊れそうに。
「……本当、なのか」
ユイは答えられない。
代わりに、
小さく頷いた。
「私は……」
「あなたを消したくなかった……」
レンの胸が痛む。
その時。
空が轟音を上げた。
ゴゴゴゴゴ……!!
巨大なログが展開される。
今までとは比べ物にならない規模。
空全体を覆う、
黒い文字列。
クロウが笑みを消した。
「おっと」
「来たな」
レンの視界に、
新しいログが浮かぶ。
【最終修正プロトコル 起動】
【観測者ゼロの完全消去を開始】
同時に。
空の奥から、
“巨大な門”が現れた。
白い。
果てしなく巨大。
そして、
門がゆっくり開いていく。
その隙間から。
無数の“目”が、
こちらを見ていた。
村人たちが絶叫する。
執行官たちすら震えている。
ユイの顔が絶望に染まった。
「……嘘」
「“上位観測者”まで来るなんて……」
レンは門を見上げる。
理解できない。
だが。
本能だけが叫んでいた。
あれが出てきたら、
終わる。
世界そのものが。
すると。
クロウが、
レンの肩へ手を置いた。
「ゼロ」
「選べ」
彼は静かに言う。
「この世界を救うか」
「それとも――」
クロウの赤い瞳が、
真っ直ぐレンを貫いた。
「この世界そのものを壊すか」




