ふたりといた場所
私が好きになったのは、親友のことが好きな女の子だった。
親友は彼女に興味がない。むしろ、彼女の「少し好き」という気持ちが伝わりすぎて、どうしたらいいのか分からないと、私に相談してくるくらいだった。
そんな彼女と、そんな親友と、私は毎日のように話していた。
楽しいはずの時間の中で、私はずっと迷っていた。
自分がどうしたいのか、どうすればいいのか、分からなかった。
親友も、私にとってはかけがえのない存在だった。
けれど彼は、私が彼女のことを好きだとは知らない。
だから平気で、彼女の嫌なところを口にする。
その何気ない言葉が、胸に刺さる。
それでも同時に、どうしようもなく羨ましかった。
好きな人のことを、そんなふうに話せる距離にいることが。
彼女からも、親友のことをいろいろと聞かれた。
私は、少しだけ言葉を濁しながら答える。
親友が嫌がるだろうと思いながらも、
彼女と話せる時間を、手放したくなかった。
二人とも大切だった。
だからこそ、どちらにも踏み出せなかった。
少しずつ、少しずつ、
自分が分からなくなっていった。
ある日、ふとした瞬間に、言ってしまった。
「好きだ」と。
言葉にした瞬間、何かが崩れる音がした気がした。
それまで当たり前だったものが、少しずつ形を失っていく。
親友との会話はどこかぎこちなくなり、
彼女は私と話さなくなった。
当然だと思った。
彼女が私に相談してくれていたのは、信頼していたからなのだから。
しばらくして、二人は付き合ったと人づてに聞いた。
もしかしたら、私がいたから、踏み出せなかったのかもしれない。
そんな考えが、頭から離れなかった。
気づけば、私は一人になっていた。
当たり前のようにそばにいた人は、
ほんの少しのきっかけで、いなくなってしまうのだと知った。
それから、どれくらい時間が経ったのか。
ふいに、懐かしい声に呼ばれた気がした。
振り向くと、そこに二人がいた。
あの頃と変わらない距離で、並んで立っていた。
「ごめん」
親友が、少しだけ目を逸らしながら言った。
彼女も、小さくうなずく。
「……なんで、今なんだよ」
言葉にした瞬間、胸の奥に押し込めていたものが溢れた。
どうして責められるのだろう。
どうして責めていいのだろう。
私にとっては、二人とも大切で――
そしてもう、同じ場所にはいない人たちなのに。
涙で前が見えなかった。
二人は、困ったように顔を見合わせて、
それから、少しだけ笑った。
まるで、何かを送り出すように。
その仕草が、どうしようもなく優しくて、
どうしようもなく遠かった。
手を伸ばした気がした。
けれど、触れられたのかどうかは分からない。
ただ、二人はゆっくりと後ろへ下がっていく。
最後に、小さく手を振った。
そのまま、見えなくなった。
目を開けると、白い天井があった。
どこかで、規則正しい音が鳴っている。
体は重く、思うように動かない。
けれど、さっきまでの光景だけが、やけに鮮明に残っていた。
呼びかける声も、
困ったような笑い方も、
最後に振られた手も。
喉の奥が詰まる。
声にならないまま、息だけが震えた。
気づけば、頬が濡れていた。




