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私は王妃様のいらっしゃるサロンに向かった。王妃様は私の顔を見るなり、満面の笑みでソファに座るようにおっしゃった。
「アレクシスのことを気遣ってくれてありがとう。とても顔色がいいし、前よりずっと体調が良いと言っていたわ。あなたのお陰よ」
「そうおっしゃっていただけて光栄ですわ」
私が緊張しながらもそう答えていると、王妃様は私の目の前に白い包みを置いた。
「今度は私を助けてほしいのよ。最近、夜になっても眠れないし、朝には酷い頭痛が起きるわ。この包みには宮廷医が調合した薬が入っています。でも、もうずいぶんと長い期間飲み続けているけれど、全然効かないのよ」
ため息をつきながら、縋るように私を見つめた。
私はそれを手に取り中身を確認した。すると、そこからいつもの声が聞こえた。
「私は熱や腫れからくる痛みを鎮める薬草よー。でも、この頭痛は……そこから来てないのよー。私が悪いわけじゃないわよ。ちゃんと症状にあった薬を処方しないからよー」
「俺はイライラを沈める効果はあるけど、眠りを誘う働きはないぞ。俺たちだって、他の症状だったら役に立つんだからなっ!」
(そうか……いい線いっているけど、使う薬草がそもそも的外れなのね。やはり白家の薬の調合でないと……ん? 白家? ……やだ、今頃、全部思い出したわ……)
私の前世は白雪鈴。こことは違う世界で生きていた。そこでは、医療行為をするのは薬師だけだった。薬師が医者であり、奇蹟を行う者として、誰よりも尊敬されていた世界。
私はその薬師総本家の当主だった。白雪鈴――それが、前世の私の名だ。その地位は、一国の王よりも上だった。
そうとわかれば合点がいった。なぜ薬草の声が聞こえるのか? なぜ病状ごとの最適解が出せるのか。私が薬草の声が聞こえる異能者だったからだ。
(あなたたちは、私が後でちゃんと役立つようにしますからね。文句を言わないの)
心の中で呟くと、王妃様の薬たちが嬉しそうな声をあげた。
「うん、良かったぁ。嬉しい! やったぁー!」
「宮廷医って、いっつも、まさかの調合してて、全然俺たちをうまく使ってくれないんだよ。イライラしてたぜ。ひゃっほー」
はしゃぐ薬達。誰にも聞こえていない。私だけに聞こえる声だ。
「王妃様、この薬では王妃様の症状は何も変わりませんわ。少しお時間をいただけますか?」
私は自分の薬草園に向かい、薬草の声に耳を澄ませた。
「雪鈴さま。僕ですよ。王妃様の頭痛に効くのは僕です。全身の血の巡りを良くし、頭痛を和らげます」
「雪鈴さまー。私は寝付きを良くしますよー。やっと出番がきたわ! 嬉しいー!」
薬草たちが元気に自己主張する。思わず頬が緩む。記憶が蘇った今、なんの疑問もなく手が動く。ニ種類の最適な薬草を煮出して薬草湯にした私は、王妃様の前にそれをさしだした。
「こちらをしばらく飲んでみてください。薬草湯は毎日お渡ししましょう」
「まぁ、ありがとう。助かるわ」
王妃様は私の薬草湯を早速飲んだ。
数分後、王妃様は目を丸くした。
「ズキズキしていた頭痛が少し収まってきたかも。さっきまで耐えられないほど痛んでいたのよ。頭が割れるようだったのに……」
そして、その翌日、王妃様は私の調合室にわざわざいらっしゃって、こう言った。
「久しぶりに、昨晩はぐっすり眠れたのよ。奇跡だわ」
私はまた、その日の薬草湯を渡す。
そして三日後、私は再び王妃様のサロンに呼ばれていた。その頃になると、王妃様の表情や歩き方、声などが別人のように明るくなっていた。
「すっかり良くなったわよ。もう頭痛もしないし、夜もぐっすり眠れるのよ。宮廷医にも治せなかったのに……セシリアは本当にすごいわね!」
「良かったです。お役に立てて光栄ですわ」
このようにして、私は王妃様の信頼を得た。そして、そのご厚意で、王宮内に自分のお部屋までいただけた。そのお陰で、今までできなかった作業にも取りかかれた。薬草を天日干しするのと、細かい粉末にする作業だ。瓶に効能ごとに詰めていくことも忘れない。
たくさんやることがあって、ヴァレンティア公爵家に戻らない日も増えた。あの家族と一緒に過ごすのが嫌だったのも事実だ。王宮にいるほうが寛げて、ありのままの自分でいられたから。
穏やかな生活が手に入った。そう思っていた。
けれど、またもやそれをかき乱したのは、リリアーナだった。
リリアーナは――




