1 リリアーナ
リリアーナ視点
「あぁ、もぉー、何とかしてよ、この鏡! 自分の顔を見るのは、もううんざりよ! あんなに可愛かったのに……今ではこんな姿で……忘れたいのに部屋中、鏡張りにされて、どこに視線を向けても自分の顔が映るじゃない」
(こんなに醜くなって……気が狂いそう……)
ここに幽閉される前は、半年ほど地下牢にいた。そこには鏡もなく、外を見ることすらできなかった。その間にお姉様は結婚し、王太子妃になったとルシアン様から聞いたけれど、どうでもいい。
塔が完成し、私はこの部屋へ移された。それからまだ三日しか経っていないのに、もう精神的には限界だった。この塔から外へ出ることはできない。大きな窓から見えるのは王宮の中庭と、そこに隣接するお姉様の薬草園。見たくもないのに、毎日王太子様とお姉様の仲睦まじい姿が目に入る。
私に侍女はいない。代わりにルシアン様が世話をする。以前とはまるで違う態度の彼は不器用で、私の変わり果てた姿を心底恐れている。こうなる前は、あんなに優しくしてくれたのに。
それからしばらくして、お姉様の様子がおかしいことに気づいた。ふらついている時もあったし、中庭に出ない日もある。薬草園にも何日も姿を見せず、もしかしたら病気になったのかもしれない、と思っていた。
(お姉さまにも治せない病にでもかかったのなら、ざまぁみろだわ!)
――そう思った数日後だった。
王太子様に気遣われながら中庭に現れ、二人で散歩している姿が目に入った。じっと見ていると、やがて王太子様がお姫様抱っこをして、お姉様を城の中へ連れて行く。
(何なのよ! 忌々しい!)
その後、ほどなくして。
「お茶を持ってきたよ。お菓子もね。ここに置いておくけどいいかな? 私は用事があるから失礼するよ」
ルシアン様がお茶とお菓子を運んできた。彼は世話をしてくれるけれど、用事が済めばすぐ部屋を出て行ってしまう。私と一緒にいたくないのが見え見えよ。
「ねぇ、お姉様が体調を崩しているみたいだけど、何か知っている? あんなに甘やかされて……見ているだけで腹が立つわ!」
私はルシアン様に怒りをぶつけた。他に話す相手などいないのだ。
初めは口をつぐんでいたルシアン様も、私がしつこく問い詰めると、やがて渋々と小さな声で答えた。
「……あぁ、セシリアは妊娠したんだよ」
一瞬、頭の中が真っ白になった。体が震え、胸の奥がざわつく。
「……妊娠? 嘘でしょ?」
ルシアン様は首を横に振り、容赦なく言葉を続けた。
「王太子様は大喜びで、皆から祝福されている」
「うるさい! うるさい、うるさい、うるさい! そんな話は、聞きたくないわよ! お姉様に子供ができて皆から大事にされる話なんか……ヘドが出そうよ!」
(子供を産めば王太子妃としての地位は揺るがない。この国は性別に関係なく王位を継げるのだから)
イライラしながら部屋の中をうろうろと歩き回り、手当たり次第に物を投げつけた。あの忌々しい鏡にも硬い物をぶつけるが、ひびすら入らない。どうやら特別な細工が施されているらしい。
見たくないのに、怒り狂った自分の顔が鏡に映る。その醜悪さに思わず目を背けた。
(お姉様ばかりがすべてを手に入れるなんて許せない……お姉様と同じものを持てば、私だって――)
不意にルシアン様に聞いてみたくなった。
「ねえ、私も子供が欲しいわ。私たちは夫婦なんだし、とても可愛い子を産んであげるから一緒に育てましょうよ」
甘える口調で、にっこりと笑いかけた。
ところが、ルシアン様はみるみる顔を青ざめさせ、後ずさりながら戸口へ向かい、何も言わずに部屋を出て行った。気がつけば、私は絶叫に近い笑い声を上げていた。
(分かっている。罪人である私が、子供を産めるはずがないことも。そしてルシアン様が決して私を抱こうとしないことも)
ふと鏡を見ると、髪を振り乱し顔の崩れた女が無様に涙を流していた。惨めで滑稽な姿。それが今の私……。
(この顔になった瞬間、私の人生は終わったのね……もう、二度と戻れない……)
泣きたいはずなのに、なぜか笑いが止まらない。どこを見ても自分がいる。何人もの自分に囲まれているような感覚。そのすべてが微妙に違う表情で、私を嘲るように笑っていた。
「笑うな! 鏡のくせに!」
そばにあった花瓶を、思いっきり鏡に投げつけた。花瓶は粉々に砕け散ったけれど、鏡はびくともしない。
(あぁ……この地獄は……いったい、いつ終わるの? 綺麗だった頃に戻りたい……。お姉様より大事にされていた頃に……)
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※次回はルシアンです。彼の本音が明かされます! 更新時間は決まってないですが、明日も更新予定です!
よろしくお願いします。
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※次回はルシアンです。彼の本音が明かされます!更新時間は決まってないですが、明日も更新予定です!
楽しんでいただけると幸いです!




