35 断罪2
そして、その数日後。裁きの間。
今度は私の両親が王宮に呼び出された。王様がリリアーナの起こした事件を告げ、 両親の関与をほのめかすと――
ほんの一瞬だけ。父は言葉に詰まった。けれど次の瞬間には、何事もなかったかのように口を開く。
「通常の店では手に入らぬ品はどこにあるかと問われ、闇市の存在を一般論として伝えたことはあります」
あまりにも淡々とした声。そこに娘を案じる色は欠片もない。
母も肩をすくめるように続けた。
「何を求めていたかまでは知りませんわ。あの子がそこまで愚かだとは思いませんでしたもの」
まるで他人の失敗談でも語るような口調だった。
胸の奥が冷たく軋む。
「……それで済む話ですか? お父様たちが闇市の存在を教えなければ、リリアーナは毒を使うこともなかったのですよ」
私は、咎めるように言った。王太子様も賛同するように頷く。
母の顔色がさっと変わった。
「いくら娘でも、頭の中まで分かるわけないでしょう!」
責任を放棄するような言葉だった。
父も露骨に眉をひそめる。
「セシリアは姉だろう? お前がリリアーナを許してやれば済む話ではないか! 実際、セシリアは無事だった。リリアーナだって、たいした怪我ではないのだろう?」
諭すような口調。
裁きの間が凍りついた。
被害者である私が許せばすべて解決する。
両親は本気でそう信じているようだ。
王様は静かに命じた。
「地下牢の罪人を連れてまいれ」
リリアーナが裁きの間へ連れてこられた。
その姿を見た瞬間、父の顔が引きつった。
「……おまえは……ほ、本当にリリアーナなのか? まったく……面影がないじゃないか……」
震える声。
母は言葉すら失った。唇を震わせるだけで、声にならない。
無理もない。リリアーナの顔はすっかり変わっていたから。
リリアーナの隣にはルシアン様が立っていた。
今の彼は罪人リリアーナの世話係。
侍女のつかない彼女の身の回りの世話を、すべて一人で担っている。
たった数日なのに、彼の目の下には濃い隈が刻まれ、疲労の色は隠しようもなかった。
不意に、エルファ公爵は父へ言葉を投げかけた。
「先ほどの言葉、聞き捨てなりませんな。これを見ても、セシリアに許せと? セシリアは今では私たちの娘。なぜ自分を害そうとした令嬢を許さなければならないのですか? エルファ公爵家を侮るおつもりかっ!」
エルファ公爵の声は低く、重く、逃げ道を許さなかった。
「……養女だと?」
両親はその場で固まった。ヴァレンティア公爵家とエルファ公爵家では格が違う。両親は文句を言いたくなるのを必死で堪えていた。私は養女になったことを、両親にも知らせていなかった。
「さあ、セシリア。被害者はそなたなのだから、自分の両親にどういう処罰をしてほしいのか希望を述べよ。セシリアにはその権利がある」
王様の言葉が響く。
私はゆっくりと両親に向き直った。
「お父様とお母様は、これから平民となってください! リリアーナの子育てを失敗した償いとして、孤児院で多くの子供の世話をするのですわ」
裁きの間が静まり返る。
「孤児の世話? 無理よ……」
「平民になるだと? この私が? 《《こんなことで》》? おかしいだろう!」
母は青ざめ、父は信じられない、という顔で首を横に振った。
けれど、私はため息をつき、静かに続ける。
「ヴァレンティア公爵家の爵位と領地、すべて王家へ返還してくださいませ」
「……は? 返還?」
父の間の抜けた声が響いた。
王はゆっくりと頷く。
「……うむ。セシリアの願いを認める。ヴァレンティア公爵家の家名は抹消、領地は王家が没収する!」
「お待ちください! それはいくらなんでも酷い! 代々続いてきたヴァレンティア公爵家を潰すとおっしゃるのですか?」
父は王様に向かって縋るような声を上げた。
「セシリア、お願いだ。助けてくれ。おまえだって、帰る家がなくなるのだぞ!」
お父様が言う。その表情は必死だ。
「帰る家? 私はもう王宮が家のようなもの。そして、帰るとしたらエルファ公爵家ですわ。私はお父様たちとは縁を切ります!」
私はキッパリと宣言したのだった。
お母様は唇を震わせた。
「この私に、孤児の世話ですって! 子供のおむつなんて替えたことがありません
わ。セシリアたちだって乳母がお世話をしていたのよ!」
私はにっこりと微笑む。
「今まで経験なさらなかっただけですわ。今から学べばよろしいのです。教育係を常にお付けします。逃げ道はありませんわ」
「私は生まれながらの貴族なんだ! どこの馬の骨とも知れない子供の世話なんてできるか! 財産を全て孤児院にだと?」
お父様はわなわなと震えていた。
お父様にとって一番耐えられないのはプライドを失うこと。貴族の体面も爵位も財産も失い、ヴァレンティア公爵家の名が消えること――だから私はそれを望む。
(私を見殺しにしたヴァレンティア公爵家など、この世から消えてしまえばいい!)
私はふとリリアーナの顔を見つめた。すると、薬草達の声が聞こえた。薬草達は――




