34 断罪
「私はリリアーナに、自分の行いをよく反省して欲しいと思います。ですから極刑は望みませんわ」
私は王様に向き直り、静かに告げた。
リリアーナはあからさまに安堵の声を漏らす。
「まぁ、セシリアにこんな酷いことをしようとしたのよ? 見てごらんなさい、この子の顔を……。本来ならセシリアがこうなっていたかもしれないのよ? これは極刑しかありえませんわ」
王妃様とエルファ公爵夫人は、目を瞬かせた。
「私は、リリアーナの死は望んでおりません。反省してくれればそれでよいのです。ですから、王宮の中庭がよく見えるような位置に、罪人を収容する塔を作ってください。リリアーナはそこで生涯を過ごすのですわ」
「え! 嫌よ……絶対嫌! 冗談じゃないわっ!」
リリアーナが声を上げた。
「毒を飲むか、それとも塔か。選択肢はふたつしかない!」
王様はリリアーナを冷ややかに見下ろす。
「ど、毒は嫌です! 死にたくないです……」
リリアーナは絞り出すような声で訴えた。
「では、塔で一生を過ごしなさい。自分が何をしたのか、決して忘れないように。壁はすべて……鏡張りにしますわ」
私は静かに微笑みながら告げた。
「なるほど……リリアーナには、とてもいい罰かもしれない」
王太子様は当然というように頷いた。
「まぁ……それは辛いでしょうね。いつも自分の姿を見なければいけないわ。けれど自業自得ですわね」
王妃様は優雅に微笑んだ。
「確かに王宮の中庭を見れば、セシリアと王太子様が仲睦まじく散歩している様子や、ガゼボでお茶を頂いている姿が、どうしても目に入るわね。特にセシリアは庭園の一角に薬草園がありますものね。毎日そこで薬草の世話もしているわけですから……」
エルファ公爵夫人の呟きに、エルファ公爵は満足げに頷いた。
「ふむ、姉の幸せを常に見続けなければならない妹か……悪くない罰だ。さすが、私たちの娘――セシリアは賢いな」
リリアーナは皆の声を聞いて、やっと理解した。
「そんなの……生き地獄じゃない! 嫌です、いやぁあー」
「では、塔ができるまでの間、リリアーナは地下牢で生活せよ!」
王様の裁可がくだった。
リリアーナは金切り声をあげ、私に縋ろうとした。
「お願いよぉー、お姉様。私、反省しました……二度とお姉様に近づきませんっ! だからお願いです。助けてぇ……」
「リリアーナ……無理よ」
私は首を横に振った。前の人生でどれほど悔しかったか……毒を飲んだ体の痛みが蘇る。今生でも私を害そうとした。到底許すことはできないのよ。
(自分の犯した罪に向き合いなさい……そして、一生後悔すればいい)
リリアーナは引きずられるように地下牢へと連れて行かれた。最後まで私の名前を呼びながら。
「セシリア、正しい決断だよ。リリアーナは懲りない性格だ。愚かだし先のことも考えられない。もし、これで許してしまったら、必ず同じことをするはずさ」
王太子様は表情を変えず、淡々と言い切った。
王様も重々しく頷く。
「うむ。そうであろうな。リリアーナのような人間は、多分一生変わらない」
リリアーナが連行され、一瞬の静寂が落ちた後。
ルシアン様が恐る恐る王様に願い出た。
「それでは、私はこれにて失礼させて頂いてよろしいでしょうか? この事件については一切関わっていませんので……」
「ちょっと待て。妻を置いて逃げるのか?」
王太子様は不快そうに問いかけた。
「逃げるなど滅相もないです。私は実家に戻り、早々に離縁を――」
ルシアン様はそわそわと落ち着かない様子で、この場を離れようとする。
私は穏やかな声で引き止めた。
「まぁ、それはいけませんわ。あれほどリリアーナを大事になさっていたのに、こんなことで見捨てるのですか? リリアーナの面倒を一生見てください。塔の中に食事を運ぶなど、いろいろお世話することがあるでしょう?」
「それはいい考えだ。ルシアンはセシリアよりも、ずっとリリアーナを守ってきたのだ。ならばこれからも、責任をもって守り続ければいい」
王太子様は愉快そうに笑った。
「えっ……嫌です! あんな化け物……あっ、失礼……見るに耐えない姿になり、恐ろしくて、とても近くにいられません。無理だ、無理だ……絶対に無理です。酷すぎる……セシリア、お願いだから助けてくれ! 君から王様に、私だけは助けてくれるように言ってくれよ」
「……無理ですわ。だって、助けて差し上げる理由がありませんもの」
「しかし私たちは婚約者だった。以前は愛し合った仲じゃないか?」
「えっ? ルシアン様とは形だけの婚約者でした。愛されていた覚えはありませんし、大切にされた記憶もございません」
「そんな……酷い……」
ルシアン様は膝から崩れ落ちた。
(ひどいのはどっちよ……なぜ私に助けてもらえると思うの? リリアーナもルシアン様も、自分がしてきたことを忘れすぎている……)
「ルシアン! 私をこれ以上がっかりさせないでくれ」
王太子様は苛立ちを隠せない声で呟いた。
「このような者が、一時でも王太子付きの近衛騎士だったなんて……恐ろしいこと」
王妃様は静かに眉をひそめた。
◆◇
そして、その数日後。
今度は私の両親が王宮に呼び出された。王様がリリアーナの起こした事件を告げ、 両親の関与をほのめかすと――
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