33 自業自得
リリアーナの顔が見る間に赤く腫れ上がり、その赤みは頬から首元へと広がっていき――やがて皮膚は黒ずみ、焼けただれたように崩れ始めた。
ルシアン様の行動は素早かった。リリアーナがそうなった瞬間に、大きく後ろに飛びのき、 さらにそのまま距離を取る。その眼差しは、到底 リリアーナを心配しているようには見えなかった。
「わ、私は何もしていませんよ。 本当です! ただ、このベールをリリアーナにかけただけです。こんなことになるなんて……思ってもいませんでした。私はなにも悪くない!」
「落ち着け、ルシアン! 誰もおまえのことは疑っていない!」
王太子様がルシアン様をなだめる。王様は、ルシアン様のあまりに露骨な態度に、顔をしかめていた。
「一応、夫なのですから、 リリアーナの心配をしたらいかがですか?」
私は思わずため息をついた。 ルシアン様はあまりにも情けなさすぎる。
「セシリアの言う通りですわ。夫のくせに 妻の心配もしないなど……ありえませんわね」
王妃様はこめかみを軽く押さえた。
「ルシアン様の性根がわかる、というものですわ。セシリアはルシアン様とは婚約者だったでしょう? このような方と結婚しなくて、本当に良かったわ」
エルファ公爵夫人は眉間に皺を寄せ、エルファ公爵は深く頷く。
周囲から責められたルシアン様は、恐る恐るリリアーナに近づいた。
「リリアーナ…… 大丈夫かい?」
うつむいていたリリアーナが顔を上げると、さらに肌は見るに堪えない状態になっていた。その様子を見てルシアン様は、また弾かれたように後ずさった。
「ひっ! ば、化け物……」
私と王妃様、エルファ公爵夫人はそんなルシアン様の反応に、開いた口が塞がらない。
「ルシアン! おまえの妻だろう? 恐がっていないで、介抱してやれ!」
王太子様も、ルシアン様へ失望したような目を向けた。
ところが、ルシアン様はすぐさま即答した。
「え……嫌です。だって……感染する病気かもしれないじゃないですか? いったい何が原因なのか、わからないのですよ? 触ったりしたら危険です!」
ルシアン様はリリアーナに近づこうともしなかった。
王様はルシアン様に向け、小さく舌打ちをした。
「見下げ果てた男だ」
「病気ではありませんわ。これは毒のせいです。ベールの内側に塗ってあったのでしょう。リリアーナが私の肌を痛めつけようと仕組んだのですわ」
「ベールに毒? 王様、私は本当に知りませんでした。このベールがそんなに危険なものだとは……リリアーナからは、何も聞かされていません」
今度は自分が 巻き添えになりたくないので、必死になって弁解しだす。
( 本当に自分のことしか考えられないのね……まあ、そんな人だとはわかっていたけど……ここまでとは)
「痛い……痛い……お姉様、助けてよ……。お願い、お姉様」
リリアーナが呼びかける声を聞きながら、 私は静かに目を細めた。
「こんなことをしておいて、 なぜ私に助けてもらえると思うの?」
心からの疑問だった。
すると、またいつもの声が聞こえた。 私の調合室からだ。
「はぁーい、私よ、私! 痛みを和らげることができるわ」
「僕は傷が悪化するのを防げるよ」
(……そうね。応急処置は必要ね)
私は王様の許しを得て、リリアーナに必要最低限の処置を施した。命を落とすことがないよう薬を飲ませ、痛み止めも与えた。
リリアーナが落ち着くと、王様は皆を裁きの間へ移した。
「 リリアーナよ。よくも、こんな不届きな真似ができたものだ。王太子の婚約者を害そうなどと……痴れ者め」
王様の裁きが始まった。
「何のことでしょう? 私には分かりませんわ。ベールに毒がついていたなんて、私は知りませんでした」
リリアーナは平然と首を振った。
「 実は王家の影にずっとリリアーナを見張らせていたのさ。証人よ、出てきてくれ」
王太子様が呼びかける。
一人の商人が裁きの間へ入ってきた。
「間違いなく、 毒を買ったのはこの令嬢です! ……取引の時と同じ指輪をしていますから。あの時は黒いベールを被っておりました。高貴な方は顔を隠して取引なさることが多いので、不審には思いませんでした」
リリアーナを指さして、はっきりと断言した。
「それはヴァレンティア公爵家の紋章入り指輪ですわ。次期当主しかつけることができませんのよ」
私は思わず口を挟んだ。
「いい加減なこと言わないでよ! こんな商人の言うことなんて信じないで!」
リリアーナは取り乱したように泣き叫ぶ。
「そうだわ…… お父様とお母様が悪いのよ! お父様たちが、闇市に毒が売っていることを教えたのよ! だから悪いのは私じゃない!」
(……やはり前と同じ。両親も絡んでいたのね)
「ならば、ヴァレンティア公爵夫妻にも来てもらおう。父上、私はセシリアを害する者は決して許せません! 二度と同じことができぬよう、ヴァレンティア公爵夫妻にも相応の罰を!」
「ふむ、もっともだ。ところで、セシリア。そなたは、大変な被害に遭うところだった。しかも、加害者は自分の身内だ。だからこそ、問おう。そなたは両親と妹にどのような罰を望む?」
その場にいた人たちの視線が、一斉に私に集まった。




