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見殺しにされた私が助けるわけがないでしょう?  作者: 青空一夏
本編

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32/40

32 返り討ち

 ――リリアーナが来訪した当日。

 リリアーナはルシアン様と王宮のサロンに通されると、そこにいた面々を見て一瞬だけ足を止めた。優雅に整えられた室内には、張り詰めた静寂が満ちている。

 その場にいたのは王太子様と王妃様、そして国王陛下。さらに、私の養父母となったエルファ公爵夫妻までもが同席していた。

 これほどの顔触れを前にして、平然としていられる者はそう多くないだろう。リリアーナとルシアン様の瞳がわずかに揺れた。けれど、すぐに微笑みを取り繕い、何事もなかったかのように優雅に一礼する。


「お姉様、お久しぶりです。王様までいらっしゃるとは思いませんでした。それにエルファ公爵夫妻まで……」

 リリアーナの声音には驚きと、隠しきれない警戒が滲んでいた。


 続いて軽く挨拶をしたルシアン様は、王太子様の方を気にしては視線を逸らし、何か言葉をかけられるのを待つように所在なげに立っていた。

(まだ声をかけられることを期待しているの? 王太子付き近衛騎士だった頃は、もう戻らない過去なのに……)


 私は穏やかな笑みを浮かべて答えた。

「私は王太子様の婚約者ですよ。国王陛下と王妃様がいらっしゃるのは当然でしょう? それからエルファ公爵夫妻は私の両親ですから、大抵王宮にいらっしゃいますわ」


「……両親? どういう意味ですか」

 リリアーナは理解できないといった顔で、何度も瞬きを繰り返した。明らかに動揺している。


「あぁ、知らなかったのね? 私はエルファ公爵家の養女になったのですわ」


「え? 養女……そんなこと初めて聞きました……」

 ぽかんと口を開けたまま固まるリリアーナ。顔からみるみる血の気が引いていく。信じられない、という思いがそのまま表情に出ていた。


 王太子様はそんな彼女を見て、楽しそうに微笑んだ。

「エルファ公爵家はダイヤモンド鉱山を持つ大富豪だ。しかし子供には恵まれず、長年それを残念に思っていた。だからセシリアは実の娘同然に迎えられ、深く愛されている」

 その言葉が重なるたびに、リリアーナの顔がわずかに歪んでいく。


(ふっ。私が幸せなのが許せないのね……)


 それでも、すぐに柔らかな表情に変わり、私に綺麗な包装紙で包まれた箱を差し出す。

「こちらは、お姉様にと選んだウェディングベールですわ。是非、つけてみてください。ルシアン様と選んだのですよ」


 私はその箱をそっと開け、中にあるベールを見つめた。

「俺は危険だぜ!  絶対触っちゃいけねぇよ。ベールの内側に塗られているんだ」

 たちまち、声が聞こえた。これは触れれば肌が焼け、一生消えない傷が残る猛毒の声よ。


(ずいぶんと邪悪な毒を使ったのね。けれど、この私にこんな毒薬を使うなんて……成功するわけがないじゃない?)

 思わず心の中で笑ってしまう。本当に、お馬鹿さんだ。


 私は満面の笑みを、リリアーナへ向けた。

「まあ、とても素敵なウェディングベールね。ありがとう! とても気持ちがこもっているわ。けれど残念。実はね、ウェディングベールは、お義母様が結婚なさった時のものをお借りしようと思っているのよ。隣国では、幸せな結婚をした母親のベールを娘が身につけ、その幸運にあやかるという慣習があるのですって。私もぜひ、その幸せを分けていただきたくて……」


 エルファ公爵夫人はぱっと顔を輝かせ、感激したように声を上げた。

「まぁ!! なんて嬉しいことでしょう。私のウェディングベールを使ってくれるの? 大切に保管しておいて本当によかったわ。ドレスは新しく最高のものを仕立てましょうね。すべて私に任せてちょうだい」

 エルファ公爵夫人は心から嬉しそうに微笑み、愛おしむような眼差しを私に向けてくださった。


 私はリリアーナが持ってきたウェディングベールをじっと見つめ、それからゆっくりと視線を上げてリリアーナに提案してみた。

「せっかくですもの、これはあなたが使ったらいかが? 結婚式を盛大に行えなかったのでしょう? ならば私の結婚式に合わせて、あなたも一緒に挙げればいいのよ。合同結婚式なんて素敵じゃない?」

 穏やかな口調で告げたが、もちろん善意で言ったわけではない。このベールの正体を知った私の、盛大な嫌味を込めた提案だった。


 ところがルシアン様は、その言葉を疑いもせず受け取ったようだ。

「それはいい考えだね! リリアーナは以前から、もっと華やかな結婚式をしたかったと嘆いていたのですよ。ちょうど良かったじゃないか。きっとこのベールはリリアーナによく似合うと思うよ」

 そう言うなり、ためらいもなくベールを手に取る。止める間もなかった。ルシアン様はそのまま、ベールをリリアーナの頭にふわりとかぶせてしまった。


 ルシアン様が動いた瞬間、王太子様は私を守るように引き寄せ、その腕の中に包み込む。

 

 ベールが触れた瞬間――リリアーナの表情が凍りついた。

 直後、悲鳴がサロンいっぱいに響き渡る。


 リリアーナの顔が見る間に赤く腫れ上がり、その赤みは頬から首元へと広がっていき――

















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