27 なんで?/リリアーナ視点
リリアーナ視点
つまらない。お姉様は宮廷医たちの研究塔から解放された。宮廷医長や司祭長も処罰され、どこかへ行ってしまった。もっと面白いことになると思ったのに、案外早く解決してしまって、 拍子抜けしていた。
「他に、なにか面白いことはないのかしら? お姉様にもっと意地悪できる方法は……」
そう呟き、考え込んでいると、階下のサロンからお母様の声が聞こえた。相当怒っているわ。気になってサロンに向かうと――
「招待状が来ないのよ!……どうして?」
お母様は侍女達に当たり散らしていた。
「金箔の縁取りが施された封書が届いているはずだ。もしかして、紛失したんじゃないだろうな?」
お父様は執事に、いらいらと疑いの目を向けていた。
王家主催の舞踏会は定期的に開かれる。あの招待状を開ける瞬間が、どれだけ胸躍ることか。高位貴族はもちろん招かれるし、招かれないとなれば、社交界から名を消されたも同然の恥だ。
それなのに、まだ届いていない。
(あぁ、うっかり忘れていたわ。そうよね、もうそんな時期だもの)
気づけば私も、執事を睨み付けていた。
「……申し上げにくいことですが……他の貴族の方々には届いているようでございます」
執事が小さな声で告げた。
怒りがこみあげる。
「きっと、王家の文官たちが仕事を怠けたのよ! 由緒あるヴァレンティア公爵家を忘れるなんて、無能だわ!」
私は力任せに扇子を床に叩きつけた。ちょっとスッとした。最近、面白いことがなさ過ぎなのよ。
メイドが慌てて壊れた扇子を片付けようとすると、忌々しげに罵倒したのはお父様だった。
「そんなもの、今すぐ片付けなくてもよいわ! 紅茶と菓子でも持ってこい。空気も読めないのか!」
「お父様。気が利く、頭のいい子なら、メイドなんかしていませんわよ。ふふふ」
私はそのメイドを指さして笑った。
「まぁ、それもそうね。リリアーナは的を射たことを言うわね」
お母様もクスクスと笑う。
(それにしてもむかつく。下位貴族なら忘れられることもあるでしょう。でも、うちは公爵家なのよ。誰がヘマをしたのか知らないけれど、ふざけているわ!)
けれど、その数日後に開かれた王妃様主催のお茶会。その招待状も届かなかったとき、さすがにおかしいと思った。舞踏会だけでなくお茶会の招待状まで、忘れられている?
そして、他の貴族からの招待状も届かなかった。一通もよ!
(こんなことってある? どういうことなの?)
私は教会に顔を出すことにした。
いつもの祭日の礼拝日。最近はさぼっていたから、ずいぶん久しぶりだ。けれど、教会に入った瞬間、いつもと空気が違った。一瞬だけ視線が集まり、すぐに逸らされる。
「ごきげんよう」
微笑みかけても、挨拶は返ってこない。輪に近づけば、なぜか会話が途切れ、四方に散ってしまう。隣に並ぼうとすれば、あからさまに距離を取られた。
(どうして? 何があったの? この私が挨拶して“あげている”のに、無視するなんて)
まるで、私が透明になったみたいだ。腹が立つ。
帰り際、近くを歩いていた令嬢の肩に、わざとぶつかった。
(ほら、何か言いなさいよ。公爵令嬢の私が、わざわざぶつかってあげたのよ? 無視なんて、許さないわよ!)
「痛い! あら……リリアーナ様でしたの?」
振り返った令嬢は、痛そうに顔をゆがめながら、肩をさすった。
「そんなに強くぶつかっていませんわよ。大袈裟すぎだわ……わざとらしい」
私は他の人に聞こえぬよう、彼女の耳元で囁いた。
「ぶつかっておいて謝りもしないとは、さすがに“常識がない”と噂されるだけありますわね」
凜とした声が返ってきた。
(なんて生意気なの! この子は男爵令嬢だ。家名は忘れちゃったわ。でも、確かエルファ公爵家の派閥――寄り子だったはず)
「ちょっと! 私より格下のくせに、誰に向かって口を利いているのかわかっているの!? お父様に言って抗議文を送らせるわよ。覚悟しなさい!」
けれど彼女は眉ひとつ動かさない。
「どうぞご自由に」
それだけ言うと、さっさと馬車に乗り込み、振り返りもしなかった。
(常識がないですって? どっちがよ。私の方が格上だって、わからないの?)
屋敷に戻ると、すぐにお父様の執務室へ駆け込む。
「お父様。生意気な男爵令嬢に失礼なことを言われました。エルファ公爵家の寄り子ですわ。公爵家に抗議文を送ってください! 寄り子の管理がなっていないのよ!」
「その令嬢の家名は?」
「そんなの覚えてないわよ!」
お父様は呆れたように、ゆっくり首を振る。
「エルファ公爵家に文句を言えというのか……相手が悪すぎる。無理だ」
「どうしてよ!」
「エルファ公爵夫人を怒らせてみろ。どうなるか……想像もつかん」
(エルファ公爵夫人? そんな女が何だというの! 公爵家なら、うちと同格じゃないの?)




