22 リリアーナ視点
リリアーナ視点
今までのお姉様は、私が何をしても黙って微笑んでいるような人だった。それなのに最近は、王太子様や王妃様に気に入られて、まるで自分が特別みたいな顔をしている。
だから、ほんの少し意地悪をしたくなった。たくさんの貴族たちが居並ぶ場で、魔女の疑いをかけてあげたのよ。すると宮廷医長が強く賛同した。なんと、お姉様は、あっさり研究塔へ押し込められたわ。
(このまま、出てこなければいいのよ。お姉様がいる限り、私は王太子様に近づけないもの)
ある日のこと。
お姉様が落ち込む姿を見たくなって、ルシアン様を誘った。彼は近衛騎士団を外され、今は第四騎士団の雑務をしている。それでも私の言うことは何でも聞くし、お姉様より私を優先してくれるところが可愛い。
「苺を摘んで、お姉様に届けてあげようと思うの。喜んでくれるかしら?」
「それはいいね。やはりリリアーナは優しい」
苺農家で、生食用とジャム用を摘む。
大きく熟れた甘い苺。小さく細長くて、ただ酸っぱいだけのジャム用苺。
私は酸っぱい苺を籠に入れ、その上に甘い苺をそっと重ねた。ルシアン様は気づかない。
そして私たちは、宮廷医の研究塔へ向かった。元気そうなお姉様の様子にがっかりした。苺の籠を手渡すと、早速、お姉様は大きな苺を口に運び、ゆっくりと噛んだ。
(うわっ、いきなり食べたわ! そうよ、大きいのは甘いの。問題は次……)
お姉様は、迷いなく小さな苺もつまんだ。
(あ、小さいのも……うふふっ。すっぱいでしょう?)
私は反応を待つ。顔をしかめるはず。もしかしたら、下品に吐き出すかもしれない。
ところが、お姉様は、にっこり微笑んだ。
「本当に、リリアーナの摘んでくれた苺は甘いわ。特に、この小さな苺が」
そう言いながらも、私に食べるように勧めてきた。
「ほら。リリアーナも食べてみて。せっかくですもの」
「いらないわ! それはお姉様のために摘んだものですから」
拒んでも、横からルシアン様まで勧めてくる。
逃げ道がない。
断れない。
仕方なく口に入れた瞬間――
(うぇっ……すっっぱ……)
唇がすぼまる。その直後、ぴり、とした違和感が走った。
唇がむずむずする。喉の奥が、ひりついた。
「お、美味しいですわ……とても、甘いです」
苦しくて涙が滲んできた。それなのに、次々と勧めてくるルシアン様。
一口ごとに口が痒くなっていく。
(どうして? ただの苺なのに)
屋敷に戻ると、お母様にかかりつけの医者を呼んでもらった。
「体質に合わぬ食べ物に当たったのでしょう。慣れぬものを口にすれば、口や喉が荒れ、痒みを生じることもあります。……心当たりは?」
医者が首を傾げながら、私に尋ねた。
「ジャム用苺……いつもは、そんなの食べないのだけれど……」
医者は小さくうなずいた。
「それでしょうな。一度こうして身体が拒めば、また同じ反応が出やすくなります。今後は苺を控えられた方がよろしい」
(控える? 私は苺が大好きなのに……)
「つまり……もう、ずっと苺は食べられないの?」
「残念ながら、その可能性が高いかと。苺に限らず、赤い果実を食べてはいけません」
お母様は私を心配して横にいてくれた。私を気の毒そうに見ている。
「だったら、サクランボも林檎もだめだわね。リリアーナ、可哀想に……」
(酷いわ……。お姉様を困らせたかっただけなのに。どうして私が、こんな目に遭うのよ! こんなの、納得できないわ……!! あっ、お姉様は癪に障るけれど、薬師としては医者よりすごい結果を出していた。そうよ、お姉様なら、こんなの治せるはずだわ)
私は翌日、ひとりでお姉様のもとへ行った。
「お姉様、私のために薬を作ってください! 先日の苺が原因です。顔にぶつぶつが出て、唇も腫れて……」
お姉様は私を見て、にっこりと微笑んだ。
「まぁ、それはお気の毒ですわね。でも私、作りませんわよ。魔女の作った薬など、怖いでしょう?」
どんなにお願いしても、お姉様は首を横に振るばかり。
それ以来、私は赤い果実は一切口にできなくなった。お茶会で並ぶ甘い苺も、林檎のタルトも、私はただ見ているしかないのだった。




