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「セシリア様、美容液が大量に必要になりました。急いで作ってくださいね」
そう言いながら、宮廷医長は私の目の前に、ずらりと瓶を並べた。その数は驚くほど多く、彼の表情はやけに明るい。心底うれしそうだった。私は思わず、その瓶の山に視線を落とし、顔が引きつるのを自覚する。
「なぜ、こんなにも作るのですか? ……かなりの量ですわ」
「異国の大商人と、とんでもなく良い条件で取引がまとまりましてね。セシリア様のお部屋も、もう少し居心地よくして差し上げますよ。クッションのきいた肘掛け椅子と、大きな作業台を用意させましょう」
言い終えるや否や、宮廷医長はドアの外――廊下に向かって声をかけた。
「運べ。ここだ。急げ! 家具を傷つけるなよ。高価な品だ」
すぐに、数人の男達が現れ、慣れた様子で家具を運び込んだ。座り心地の良さそうな肘掛け椅子に、ちょうどいい高さの作業台。手早く、迷いなく、私が作業しやすい位置に据えられていく。私を気遣っているようで、実際は「作れ」という命令を当然のように押しつけ、逃げ道ごと塞ぐやり方だ。それでも、正直なところ、ありがたいのも事実だった。身体の負担が減るのは確かで、つい反射的に言葉が口をついて出た。
「……まぁ、ありがとうございます」
途端に、宮廷医長は満足そうにニンマリと笑った。
「セシリア様は素晴らしい性格ですね。感謝の言葉を、きちんと口にできる。私はあなたを虐めたいわけではないのです。私の言う通りにしていただければ、セシリア様に不自由はさせませんよ」
そう言って、宮廷医長は得意げに胸をそらした。
まるで――主導権はすべて自分にあるのだと、誇示するかのような態度だった。
私は黙って頷く。
今この場で反論しても、何ひとつ状況が変わらないことは、嫌というほど分かっている。宮廷医長は、自信に満ちた足取りで部屋を後にした。
次の瞬間、薬たちの不満たっぷりな声が、一斉に響いた。
「んもぉー。雪鈴さまったら、優しすぎます! あんな男にお礼を言う必要なんて、全然ないですよぉー」
「そうだぞ! 雪鈴さまはお人よしすぎる! あんな奴には唾でも吐いてやればいいんだ! 思いっきり一発、ぶん殴ってやればよかったのに……あぁ、俺、悔しくてたまらない」
「ちょ、ちょっと落ち着けよ。そんな下品なこと言うなって。雪鈴さまは、礼儀正しくて優しいレディなんだ。そんな真似、できるわけないだろ? ただの条件反射でお礼を言っちゃっただけさ。……僕には、ちゃんと分かってるよ」
「そうなのよ。実際、ここに閉じ込められている以上、逆らってもいいことはないでしょう。それに、私はそれほど辛いと思っていないの。あなたたちがいるから寂しくないし、こうして仕事があれば、退屈に悩まされることもないわ」
「わぁー、雪鈴さま。なんて前向きな考え方なのぉー。そういうところ、本当に大好き!」
「さすが、俺たちの雪鈴さまだぜ!」
薬たちとおしゃべりをしながら、私は手を休めることなく、せっせと美容液を作り続けていた。
すると、不意にドアを叩く音が響く。
思わず顔を上げると、そこには嬉しそうな笑みを浮かべたリリアーナの姿があった。そして、そのすぐ後ろには、ルシアン様も立っていた。
「うふっ。お姉様、お元気でしたか? 今日は差し入れを持ってきてあげましたの。ほら、お姉様の好きな苺。たくさん召し上がってくださいね」
「……ありがとう」
私がこうして軟禁されているのは、リリアーナがおかしなことを言い出したのがきっかけだというのに。それをまるで気にも留めず、少しも悪びれた様子もなく、こうして笑顔で現れるあたりが、いかにも彼女らしい。
隣に立つルシアン様も、満面の笑みを浮かべていた。
「リリアーナは本当に優しいんだ。わざわざ苺農家まで足を運んで、自分の手で摘んで、籠に入れたんだよ」
いつものように、視線はリリアーナを優しく見つめている。そして、なぜか誇らしげで、浮き立つような声音だった。




