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宮廷医長が薬草を持ってくる。粉末にして、調合しやすい形にしてあった。
「王太子様や王妃様に調合していた薬を、少しアレンジして作り直してください。私たちが研究した成果だと言って、王太子様に渡そうと思います。それから王都で美容液を売りたいとも考えていましてね。よく眠れるような健康茶もです」
「美容液ですって? そんなもの、作れないわ」
「セシリア様なら作れるはずですよ。お金持ちのご夫人方は、いつだって自分の容姿が気になるものです。少しでも効果があれば、いくらだってお金を払うでしょう」
「宮廷医長。あなたは医者のトップなのに、やることがずいぶん、えげつないのね」
「ふっ。お金は、誰でも欲しいのですよ。医者でも、聖職者でもね」
(聖職者でも?)
少し引っかかる言葉を残して、宮廷医長は部屋から出て行った。
途端に、いつもの声が聞こえた。
「雪鈴さまぁー。大丈夫? なんでこんなところにいるのぉ?」
「……宮廷医長に閉じ込められたのよ」
「雪鈴さま。僕、知ってる。あいつ、悪い奴だよね?」
「そう……悪い人よ。私に薬を無理やり作らせて、自分たちの手柄にしようとしているわ。そして、美容液も作らせて、お金まで儲けようとしているのよ」
私はそう言いながら、手を動かす。王太子様や王妃様の体質に合った薬を、順に調合していく。
美容液を作ろうとしたところで、どの薬を使おうか、一瞬迷った。
「美容液なら……僕が肌を潤しますよ」
「私は美白作用があるわよぉー」
「俺は肌の張りを保つぜ。でも、宮廷医長なんかのために働きたくねーよ!」
「そうよねぇー。私たち、ボイコットしちゃう?」
「おうよ、賛成! いっそ、肌を吹き出物だらけにしようぜ!」
薬たちが、口々に呟いた。
「だめよ、そんなこと。ちゃんと働いてね。私だって、あんな人のために調合したくないのよ? でも、それを使う人はまた別。何の罪もない人の肌を、痛めつけてはいけないわ」
「雪鈴さまぁー。優しいー。大好き」
「僕も大好き! 宮廷医長は大嫌いだよ。あいつが僕を使うとき、思いっきりジャンプして、ごほんごほん言わせてやるっ!」
「うふっ。いい思いつき! 私は踊ってやるわ。宮廷医長の鼻の穴でサンバを踊るの。『サンバ! イェイ!』って腰を振るわ」
私はつい口元が緩んだ。
「今、粉になっているでしょう? どこが腰なの?」
「あのね、私は粉になっても、一粒一粒がちゃんとした身体になってるわ。ナイスボディなのよー。見せてあげられないのが残念。腰も足もあるのよ? とっても上手に踊れるんだから」
ちょっと気分を害したように言う。その様子は、小さな女の子が拗ねたみたいで可愛い。
私が丁寧に謝ると、「いいのよー。私たち、顔も可愛いんだから、覚えといてねー」と笑った。
「ひゃっほーい。俺も踊れるぜ。宮廷医長が調合しだしたら、華麗なステップを踏んでやるからな」
とても得意げな声。自分の効能にも体力にも自信があるみたい。調合される瞬間を思い浮かべているのか、今にも跳ね回りそうな勢いだった。
「じゃぁ、僕はなにを踊ろうかなぁ」
真剣な声で踊りを考えているのもおかしかった。几帳面な性格なのか、ただ騒ぐだけではなく、頭の中で何度も動きを組み立てているのが伝わってくる。
(なんて個性的で可愛らしい薬たちなの? 閉じ込められていても……これなら寂しくないわね)
私は、薬たちがそれぞれ陽気に踊る傍らで、宮廷医長がくしゃみを連発する様子を思い浮かべて、思わず笑ってしまったのだった。




