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翌日から私への調査が始まった。薬草の効能がなぜわかるのか? どうして急にそういうことができるようになったのか? 質問されても真実を答えることはできなかった。魔女だと断定する証拠はない。けれど、完全に否定できる材料もなかった。
「当分の間は、ここにいていただく他はないようです。そうそう、巷ではセシリア様が魔女だという噂が広まっていますよ。『魔女は火あぶにしろ』だと言っている者もいるとか……」
宮廷医長は、どこか嬉しそうにそう言った。
(なぜ、そんな末端にまで私の噂が広がるのかしら?)
「ふふふっ。ですが、我々が守ってあげましょう。ここより、もっと広くて居心地のいい部屋に移すこともできます。ですから、とてもよく効く薬を作ってください。いつものように、やってくれればいいんですよ」
「え? それは……どういう意味ですか?」
「あなたは地下牢に行くことも処刑されることもなく、隔離された部屋で一生を過ごすということです。そして、その素晴らしい才能は我々の功績になる。正直なぜ、あなたが突然薬草に詳しくなったのか、そんな理由なんてどうでもいいのです。興味はありません。ただセシリア様の作った薬が欲しいのです。……金儲けもできますしね」
「初めから薬を作らせたくて、私が魔女だと広めたのね?」
「いいえ、最初に言い出したのはリリアーナ様です。我々はそれに乗っかっただけです。実にいい妹さんをお持ちですね? 彼女の夜会での発言がなければ、こんなにうまくいくこともなかった。感謝してもしきれませんよ」
宮廷医長はおかしくてたまらないというように笑い出した。
「セシリア様は目立ちすぎたのですよ。国王から宮廷薬師の官職まで頂くなんて。本来、薬の調合は医者がするものです。我々の仕事を脅かすなんてとんでもないことです。宮廷医になるために、我々がどんなに長い間努力してきたか、あなたにはわからないでしょう?」
(あぁ、なるほど。この人は自分たちよりも活躍する私が許せなかったんだ。ポッと出の小娘に、手柄を立てられて悔しかったのね)
「私はあなたの命令には従いませんわ!」
(どんなに脅されても、自分の信念は曲げないわよ。こんな人に利用されるなんて、まっぴらよ)
「ほぉ、そんなことをおっしゃってよろしいのですか? 禁忌の魔法でも魔女でも、何でもいいのですよ。人は得体の知れないものを怖がるし、それに名前をつけようとする。セシリア様を魔女に仕立て上げることなど簡単です。しかも、あなたに心酔している王太子様まで巻き込むこともね。言っている意味が分かりますか?」
心臓が跳ねた。手が震える。
「そ、……そんなことできるわけないわ。王太子様は皆が尊敬し、慕われる素晴らしい方ですもの」
そうは言ったものの、私の声は暗く沈んでいた。
「セシリア様は王太子様のおそばにいてはいけない。王太子様はあなたを庇い、研究の場も与えてきた。このままあなたを助け続ければ、同じように疑われるんですよ。“魔女に手を貸す愚かな王太子”とね。その重荷を背負わせたいのですか?」
「そんなこと……させないわ。王太子様は立派な王になる資質をもった方よ! 私はあの方に王位に就いて……立派にこの国を治めてほしい……王太子様には恩義があります」
(私は王太子様を守りたい! 私のことで迷惑なんてかけられない。だって彼は私に優しくしてくれて、それは家族よりも婚約者よりも私を温かい気持ちにさせた……あぁ、そうか……私は王太子様を誰よりも大事だと思っているのだわ)
自分の気持ちに気づいた今、宮廷医長に抵抗する気力は失せていた。
「ふっふ。だったら、なにをすればいいか、おわかりですよねぇ?」
勝ち誇ったような宮廷医長の声。
私は悔しさに唇を噛みしめた。きつく握りしめた手。爪が手のひらに赤く跡をつけていた。それでも、手を緩めることができない。それほど私は怒っていたけれど、しっかりと確かな声でこう言った。
「……薬草を持ってきなさい。あなたの言うように、薬を作ることにしますわ」




